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Withコロナ時代の大学経営におけるリスクの見直し
環境が激変している大学におけるリスクマネジメントの課題と今後の在り方を紹介する
経営への厳しいかじ取りを求められる少子化時代の大学において、今年、新たに求められた新型コロナウイルス感染症対応により、リスクマネジメントの重要性が更に高まっています。Wthコロナ時代における大学のリスクマネジメントの在り方を紹介します。
執筆者: 公認会計士 奥谷 恭子
大学経営とリスクマネジメント
2015年から国立大学法人において、2018年からは公立大学法人において内部統制整備の旨を各大学法人が作成する業務方法書に明記することが求められています。さらに、私立大学を運営する学校法人においては2020年4月施行の私立学校法改正において、学校法人のガバナンス体制の強化が求められました。こうした制度要求だけではなく、グローバル化、産官金との連携も進み、社会的な価値向上にも取り組んできている現在において、多様なステークフォルダーからの信頼を獲得するために、各大学は内部統制制度整備に取り組みつつあります。
学校法人における内部統制とは、「大学の建学の精神・理念・ミッション・ビジョン等の観点から、学校法人業務の有効性及び効率性、財務報告等の信頼性、事業活動に関する法令等の遵守、並びに資産の保全の目的を実現しているとの合理的な保証を得るために学校法人の業務に組み込まれ、学校法人内のすべての構成員によって遂行されるプロセス」と定義されています(一般財団法人大学監査協会「大学法人における内部統制に関する基準(2019年11月14日改訂版)より)。
内部統制制度を運用するにあたっては、法人内のリスクを一覧化したうえで、その評価、対処に取り組んでいくこととなります。いわゆる「リスクマネジメント」の仕組みを構築していくこと、ともいえます。
【図1】大学における内部統制構築に向けたプロセスの例
リスクマネジメントにおける課題と今後の在り方
大学におけるリスクの一覧化にあたっては、一般社団法人大学監査協会が公開した「大学経営の機能評価」(2013年3月11日)における分類などを参考に設定することはできます。しかし、一般的な大学で想定されるリスクを基に設定するだけではなく、各大学法人の外部環境、内部環境が相違する状況において、自らの大学のステークフォルダーからの期待、社会から求められる役割などを十分に配慮することが必要です。様々な観点、視点を通して、リスクの整理が可能となり、発生可能性と影響度を踏まえたリスクの優先度付けを進めていくことが可能になると考えます。
いくつかの具体例を掲げます。大学だけではなく、幼稚園、小学校といった学校を運営する学校法人においては、園児、児童の安全や施設設備の安全といった事項を重視事項として掲げられている事例も見られています。一方で、外為法の改正対応により特定の「技術」等の国外への提供が禁じられており、輸出管理を行う部署を設置する大学が増えつつありますが、こうしたリスクへの対応もグローバル化の進展により新たに想定されるものとして追加すべきであり、従前の大学内部の教職員の声だけでリスクを抽出するだけではなく、大学を取り巻く環境変化も十分に見極めたうえで対応していくことが求められます。
様々なリスクを効果的、かつ網羅的に抽出するにはどのような方法を進めることが有意義でしょうか。
各ステークフォルダー(学生、海外留学生、内部の教職員、外部の地方公共団体、連携を進める企業のほか、卒業生なども含まれます)との対話を進めたり、このような方々を巻き込んだプロジェクト形式で取り組むことも一つの方法です。さらに、各法人が策定している中長期計画達成を阻害する要因を多角的に分析することも大変有用な方法です。
Withコロナ時代におけるリスクの見直し
新型コロナウィルス感染症の影響に加え、大学を取り囲む内部・外部環境は大きく変化しつつあります。オンライン教育の導入により情報セキュリティ関連リスクの優先度も高まってきているところもあるかと思います。また、学生生徒納付金収入や医学部附属病院収入に大きな変動がみられる大学においては、それによる未収納付金管理に関するリスクや附属病院関連の購買取引に関するリスクにも影響が生じるかもしれません。こうした環境変化に対応し、リスク抽出の見直し、リスク対処への優先度の見直し、なども求められると考えます。リスク評価にあたっての大前提としていた中長期計画そのものも見直す可能性もあります。
リスク見直しにあたっては上記に記載したリスク抽出の手法などを参考に取り組むことも一つの方法です。
【図2】リスク抽出方法(その1)
【図3】リスク抽出方法(その2)
リスクの見直しを通じて、様々な教職員の意識向上、ステークフォルダーとの関係強化、持続的経営や攻めの経営に向けた気付きを得ることも期待できます。
また、こうしたリスクの見直しは、今だけ実施するのではなく、常に必要に応じて実施することが求められ、リスクのPDCAサイクル(Plan,Do,Check,Action)をうまく回すことにつながるでしょう。
(参考)大学におけるBCP
今回のコロナ禍の経験を通じて、リスクの見直しだけではなく、BCPの策定、見直しの重要性を感じた大学も多かったことと思います。最後にBCPについて触れておきたいと思います。
BCPとは「Business Continuity Plan」の略で、事業活動を中断/停止させないあるいは、早期に復旧させるための計画のことであり、「業務継続計画」と呼ばれることもあります。
内閣府「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(平成25年8月改定)」においては、「企業・組織は、原因が何であれ重要な事業を継続できない場合に備え、常に必要な対応を求められるとともに、その対応の是非がその後の事業活動の成否に重大な影響を及ぼす」、と伝えています。経営者自らが責任を持ち、平常時から事業継続能力の強化に取り組む必要性とメリットを理解し、相応の時間と労力、資金を投入して、何が起こっても事業を継続させる意志を持ち、その実現に努力する必要があります。
大学においても、教育、研究、事務それぞれの領域で、有事における対応方法を検討する必要があります。