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私立学校法の改正の概要

学校法人のガバナンスの強化

第198回国会に私立学校法の改正案を含む「学校教育法等の一部を改正する法律案」が提出され、令和元年5月17日に国会で可決成立しました。令和2年4月1日から施行されます。監事の責任の強化、中長期計画の作成の義務化、財務情報の公表の義務化等、各法人においては影響の大きな改正です。今般の改正内容について、その概要を解説します。

中期的な計画の策定について

今回の私立学校法の改正により、文部科学大臣所轄法人は、事業に関する中期的な計画の作成が義務付けられました(私立学校法第45条の2第2項)。そして、当該計画を作成するにあたっては、学校教育法第109条第2項に規定する認証評価の結果を踏まえて作成しなければならないとされました(私立学校法第45条の2第3項)。

学校法人は公教育を担う法人として安定した経営が求められ、特に文部科学大臣所轄法人については、高度人材の育成の機関として、求められる教員・施設設備も多く、専門分化が進んでいることを考慮すると、中長期的視点に立った計画的な経営を行う必要があります。中期的な計画の詳細な内容及び期間は各学校法人の裁量に委ねられていますが、「学校法人制度の改善方策について」(平成31年1月7日 大学設置・学校法人審議会学校法人分科会 学校法人制度改善検討小委員会)においては、教学、人事、施設、財務等に関する事項について、単年度ではなく中長期(原則として5年以上)視点で明確にすることが必要であるとされています。

 

従来から中期的な計画を作成していない法人は今般の私立学校法の改正に伴い、計画の作成が必要になります。
また、既に中期的な計画を作成している法人は、現在作成している計画が、抽象的な目標設定となっている等、事後的に計画を達成したか否かを検討することや確認することが可能かどうかを再確認し、可能な限りデータやエビデンスに基づく計画を作成することが望まれます。

私立学校法の改正による情報公開の充実

①財務諸表等の 情報の公表(私立学校法第63条の2)
大学を設置する学校法人は財務書類等の公表が義務付けられました。財産目録、貸借対照表、収支計算書、事業報告書、役員等名簿について、「文部科学省令で定める」内容を公表しなければならないと規定されています。現時点(2019年7月現在)では該当する文部科学省令は発出されていませんが、学校教育法や他法人の規定を参考とすると、「刊行物への掲載、インターネットの利用その他広く周知を図ることができる方法によって行う」といった取扱いになる可能性が高いと考えられます。
また、上記の他、寄附行為の内容(設立認可もしくは変更の認可又は届出をした場合)、監事による監査報告書の内容、役員報酬等の支給の基準についても公表することが求められています。

 

② 財産目録等の備付け及び閲覧(私立学校法第47条第1項、第2項)
従来から財産目録、貸借対照表、収支計算書、事業報告書を作成し、各事務所に備置くことは求められていましたが、改正により、作成し備置くべき書類に役員等名簿(理事、監事及び評議員の氏名及び住所を記載した名簿)が追加され、これらを作成の日から5年間各事務所に備置くこととされています。
また、閲覧の請求は、従来は在学生その他利害関係人に限られていましたが、改正により、在学生その他利害関係人ではなくとも、広く誰でもが閲覧請求をすることが可能となりました(都道府県知事が所轄庁である学校法人を除く)。

 

③ 寄附行為の備置き及び閲覧(私立学校法第33条の2)
寄附行為を各事務所に備置くことが要請され、請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて閲覧に供しなければならない、と改正されています。寄附行為は、公益財団法人制度や社会福祉法人制度といった他の法人制度において、その公共的性格から閲覧対象として情報公開の対象となっており、学校法人においても、改正法で情報公開の対象に含められています。
 

役員の職務及び責任に関する規定の整備

①理事・監事の善管注意義務(私立学校法第35条の2)
学校法人と役員との関係は、委任に関する規定に従う旨が新設されています。公益法人等の他法人制度においては善管注意義務を負うことから、私学法においても、同様の規定を整備すべきであるとして、改正に織り込まれています。


②競業及び利益相反取引の制限(私立学校法第40条の5)
学校法人の理事が競業及び利益相反取引を行う場合は、理事会に重要な事実を開示し、理事会による承認が必要とされました。
また、競業及び利益相反取引を行った理事は、取引後、遅滞なく、取引についての重要な事実を理事会に報告することが必要となります。


③特別の利害関係を有する理事(私立学校法第36条第7項)
理事会の議事について、特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができません。例えば上述した利益相反取引を行う理事については、当該取引の理事会の承認に関する議決の際には、議決に加わることができません。


④任務懈怠による理事・監事の法人に対する損害賠償責任(私立学校法第44条の2)
理事・監事がその任務を怠ったときは、学校法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負うといった損害賠償責任について、私立学校法において新たに規定されました。
また、利益相反取引が行われた結果、学校法人に損害が生じた場合は、取引を行った理事だけではなく、当該取引を行うことを決定した理事、当該取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事は任務懈怠があった理事と推定される等の周辺の規定も整備されています。 なお、理事又は監事の責任が加重となり、高額の賠償責任を負担することを恐れて経営判断が委縮することがないようにするために、損害賠償責任の減免の規定も新たに規定されました。


⑤理事・監事の職務について悪意又は重過失によって第三者に生じた損害賠償責任(私立学校法第44条の3)
上記④同様、改正よって新たに規定されています。また、財産目録等に記載すべき重要な事項について虚偽の記載等を行った理事や、監査報告書に記載するべき重要な事項について虚偽の記載をした監事についても、損賠賠償責任を負うこととされています。


⑥役員の連帯責任(私立学校法第44条の4)
他の役員が学校法人又は第三者に対する損害賠償責任を負うときは、役員は連帯債務者になります。


⑦表見代表理事(私立学校法第40条の5)
理事長以外の理事に理事長その他法人を代表する権限を有するものと認められる名称を付して取引を行った場合、当該理事の行為については、善意の第三者において責任を負うこととされました。


⑧役員報酬に関する基準の整備(私立学校法第48条)
役員の報酬に関する基準の策定が新たに学校法人に義務付けられました。また、文部科学大臣所轄法人においては、上述の通り、役員報酬等の支給の基準について、情報の公開が求められています。