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学校法人の人事制度再構築の必要性

”人財”たる有為な教職員をきちんと評価できる人事制度となっていますか

大学を取り巻く経営環境は激変しており、教職員の働き方に大きな変化をもたらしています。”人財”たる有為な教職員の能力を発揮できる環境を整えることは、大学の持続可能性を維持する重要な要素であり、他法人も”待ったなし”で、人事制度改革に取り組んでいます。

執筆者: 公認会計士 武市歩

 

大学も待ったなしで人事制度改革に取り組んでいます

少子高齢化に伴う授業料・受験料、私学助成金の減少、人件費の高止まり、施設の老朽化(DX含む)への対応等は、大学経営に大きな影響を及ぼし、このままの経営では大学の持続可能性を維持することが困難になっています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大は、社会課題解決やデジタル化への対応等を加速化させ、学生の学び方、地域・保護者との関わり合い方、教職員の働き方に大きな変化をもたらしています。

一方で、多様な人材の活用を目指す”ダイバーシティ”や多様な働き方を実現しようとする”ワークライフバランス”へのニーズが高まっています。働く教職員の健康を守り、多様な”ワークライフバランス”を実現する労働時間法制の見直しや、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を実現する同一労働同一賃金への対応、女性や高齢者が活躍できるための環境整備等、「働き方改革」を推進する必要性はこれまで以上に高まっています。

その結果、大学が提供するサービスの質を向上させる、すなわち、サービスを提供する教職員の競争力を高めるとともに、大学と教職員とのWin-Winな関係構築を目指すべく、多くの大学で人事制度改革への動きが高まっています。

 

 

人事制度とはいったいどういうものなのでしょうか

では、人事制度とはいったいどういうものなのでしょうか。以下は人事制度の全体像を示しています。

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等級制度

人事考課・報酬・人材育成の基礎となる人材基本方針の起点となる仕組みです。大学が教職員に期待する事項(能力、職務内容、役割、成果など)を明示し、それに基づくキャリアパスを提示するとともに、人事考課・報酬の基準やキャリア開発ニーズを提示する機能を持ちます。

 

人事考課制度

大学が教職員に期待する事項に対して、教職員個々人がどの程度それに応えているのかを測定し、処遇、登用、配置、教育研修につなげる仕組みです。人事考課の項目と基準を具体的に定義・明示したものであり、大学が教職員に期待する事項を示す、重要な伝達機能を持ちます。

 

報酬制度

等級および人事考課から提供された基準・根拠に基づき報酬を支給する仕組みです。教職員の基本的な生活を保障するとともに、大学への貢献度合いに対する認知や気づきを与える機能を持ちます。

 

人材育成制度

等級および人事考課から提供された育成課題に対して、キャリア開発の場や機会を提供する仕組みです。教職員自身の主体的な学習・能力開発を促す機能を持ちます。

 

 

人事制度でこんなお悩みはありませんか

大学経営の持続可能性を維持するためには、過去の成功体験にとらわれることなく、大胆で斬新な施策を適時に実行する必要があります。そのため、大学は「求められる教職員像」を具現化する人材をしっかりと育成するとともに、積極的に登用し、本人の能力が発揮できる環境を整えることが重要です。

一方で、多くの大学ではそのような取組みが十分にはなされていないのが現状です。そのような大学では、例えば以下のような悩みを抱えています。

 

大学が必要とする(評価したい)教職員像がよくわかりません

就職率競争、論文競争等により大学の理念や学長の方針が形骸化し、真に評価したい教職員像をきちんと教職員に伝えきれていない可能性があります。そのため、利害関係者が納得する「求められる教職員像」を策定し、それを”等級制度”に落とし込む必要があります。

 

DXや今後の教育のあり方に精通した専門性の高い教職員が不足しています

大学設置基準における教職員の職能開発(SD:スタッフ・ディベロップメント)の義務化等、SD充実の必要性が認識されているに関わらず、「年功的な昇格」が実施されているため、専門性の高い能力開発への動機づけが不十分な可能性があります。そのため、ゼネラリスト育成に加えて専門的な業務を遂行する専門職の設置等、多様なキャリア観に応じた“等級制度”を策定する必要があります。

 

経常収入に占める人件費の割合が高いです

基本給に占める年齢給の割合が高く、年功的な報酬制度になっている等、人事考課結果に関わらず、教職員の何に対して報酬を支給しているのかよくわからない制度となっている可能性があります。能力や役割・責任に応じたメリハリのある“報酬制度”を策定することが考えられます。

 

大部分の教職員が「B評価(普通)」となっており、評価に差がつきません

人事評価制度がない、あっても何を”成果”とするかなど評価に必要な制度が整備されていないため、真に評価したい教職員をきちんと評価できていない可能性があります。「求められる教職員像」を具現化する人材を育成するためには、”等級制度“に対応した”人事考課制度”を策定する必要があります。

 

大学経営を取り巻く環境は激しく変化しています。そのような環境変化に対応し、大学の持続可能性を確保するための一つの方策として、人事制度を抜本的に見直すことを検討されてはいかがでしょうか。

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