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ROI(投資収益)の高い免震建物の計画について

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震においても注目を浴びた免震建物について、免震建物がどのようなものか、また、ROIの高い計画とするための一考察を述べる。

1. 免震建物とは

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震においても注目を浴びた免震建物について、免震建物がどのようなものか、また、ROIの高い計画とするための一考察を述べる。
「耐震建物」とは一般的な建物であり、建物の骨組み(柱・梁・壁)のみで地震対策を講じた建物である。「免震建物」とは建物と基礎(場合によっては建物の階の途中)に免震装置を組み込み、地面と建物を免震部材にて切り離し、地面の揺れを伝わりにくくする建物である。免震装置の一例として天然ゴム系積層ゴム支承がある。この天然ゴム系積層ゴム支承は薄い鋼板とゴムを何層にも重ねて作られており、鉛直方向の剛性が高く建物をしっかりと支え、水平方向の剛性は柔らかく地震の横揺れを伝わりにくくしている。

免震建物の発祥の地はニュージーランドとされており、日本国内における免震建物の第一号は1983年に建設された八千代台住宅である。一般財団法人日本免震構造協会によると、2012年末までに建設された免震建物はビルもので約3300棟、戸建住宅で約4600棟、両者を合わせると7900棟となっている。特に1995年の阪神淡路大震災以降に免震建物の建設が飛躍的に伸びている特徴がある。
これまでは、重要度の高い建物や防災拠点、病院などに免震建物を採用しているが、近年においては、事業継続性を確保するために事務所ビルや工場、更には物流施設といったものまで免震建物とする事例が多くなっている。また、建物の利用方法も、これまでの自社ビルを保有するといったものから、テナントとして入居するといったスタイルへ変化しており、免震建物は賃貸物件にも拡大している。

図 1 免震建物と耐震建物の揺れ方の違い

図 2 免震装置例

2. 免震建物のコスト

免震建物は、一般的な耐震建物と比べて建設コストが5~10%程度高くなると言われている。例えば、耐震建物の建設コストが30億円程度の物件の場合、免震建物とすることで31.5~33億円と1.5~3億円程度高くなる。純粋に耐震建物と免震建物を比較するとこのような結果となるが、免震建物は、安全性、事業継続性、サスティナビリティが高く、耐震建物と比較して付加価値が高く、これらの付加価値を算入すると異なる結果となる。一例として地震リスクを踏まえた免震建物と耐震建物の総費用を比較したものを図 3に示す。この例では、地震による復旧費用を確率論的に加味することで免震建物による建設コストの増額を6年で回収できる試算となっており、その後は免震建物の総費用の方が安いことを示している。このように、建設コストのみならず付加価値を考慮することで、免震建物が必ずしも高額でなく、耐震建物よりも優位性があることが分かる。

図 3 免震建物と耐震建物の費用の比較

(塚田,木村ら「SRMによる免震建物のライフサイクルコスト評価」第10回日本地震工学シンポジウム,1998.11. より引用)

3. 免震建物の投資利益率(ROI)の改善

上記に記載したように、免震建物の優位性はあるが、建設コストが割高になるため、不動産開発にあたって投下資本に対する投資効果が低いと判断されることが多い。ここでは、デロイト トーマツ グループとしての取り組みを含めたROIの改善方法を示す。
免震建物は免震部材が高いと一般的には思われがちであるが、近年においては、免震建物が普及したことにより、免震部材の価格自体は安くなりつつある。一方、免震部材を設けるためには基礎を二重化するなど地下への工事量が多くなり、コストが増える要因となっている。特に、ここ数年、排出土の処理費や人件費の高騰により、地下への工事費が高くなっている。ROIを高めるためには分母を小さく、すなわち建設コストを抑える必要があり、免震建物を耐震建物の価格に可能な限り近づける(場合によっては安くする)ように計画することが重要であることは明らかである。そこで、どのようにしてコストを抑えるかについて次に示す。
地震による建物の揺れ方は敷地の地盤状況により大きく左右する。免震建物を計画する上では、敷地の地盤に適した建物とすることがポイントであり、上部構造、免震階、下部構造の様々な工法を最適な組み合わせとすることが重要となる。なお、免震階に配置する免震部材は1種類ではなく複数種類使われ、更に免震メーカーについても1社限定でなく、各社を組み合わせて使うこともある。
最適な組み合わせを選択するためのケーススタディを以下に示す。ケースAは上部構造の揺れが抑えられるが、下部構造へ与える影響が大きい建物であり、ケースBはケースAと比べて上部構造の揺れがやや大きくなるが、下部構造へ与える影響が小さい建物である。ケースAについては、免震階のコスト(すなわち製品価格)が安く、上部構造の揺れも効果的に抑えられるため、上部構造のコストダウン効果も大きい。しかし、下部構造へのコスト増加が大きくなっている。一方、ケースBについては、免震階の価格が高く、更に上部構造のコストダウン効果は低いものの、下部構造の増額が抑えられているため、結果としてケースBの方がケースAに比べて安くなる結果となっている。この結果は、敷地の地盤状況や建物の規模により異なり、必ずしも下部構造のコストの増額を抑えられる組み合わせがコストダウンに繋がるわけではないが、このように地盤状況に応じた最適な組み合わせを計画することで建設コストを抑えたROIの高い免震建物の建設が可能となる。

注)当該記事は執筆者の私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではない。

*1  下部構造については土工・地業費の一部を含む。

*2   仕上げ・設備等の金額も免震建物と耐震建物で異なるが、ここでは比較のため同じとしている。

  耐震建物 免震建物
     ケースA      ケースB
  上部構造     6.6億円       6.0億円       6.2億円
   面震階        -       0.3億円       0.4億円
  下部構造*1     2.7億円       5.0億円       3.7億円
 仕上げ・設備等*2        20.7億円       20.7億円       20.7億円
   合計        30.0億円       32.0億円       31.0億円

図 4 耐震建物と比較した免震建物の項目別コスト比較

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