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【2023年最新】アジア/SEA進出日系企業における不正の実態について(シンガポール)

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2023年3月15日)

アジア/SEA地域の最新リスクトレンド

前回のニュースレターではデロイト トーマツが毎年実施しているリスクサーベイ結果の第1部として、リスクマネジメントのポイントについてお伝えさせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?オールアジアではCOVID-19に対するリスク認識が低下した一方で、SEAでは人材流出・人材獲得の困難による人材不足リスクが首位となりました。シンガポールをはじめ、人材リスクそのものが企業の競争優位性に影響を与える大きなリスクとなっています。

今回は本サーベイの第2部として、アジア/SEAにおける不正の発生状況についてお伝え致します。皆さまのなかには、「最近不正の話も聞いていないし、特に問題ないのでは?」と思われた方もいらっしゃると思います。しかし実際はそうではない、皆さまの知らないところで不正が発生している可能性が疑われる(それに気づけてない)とも考えられる結果が出て参りました。ぜひご一読賜れると幸いです。

※調査概要は文末に掲載しております。なおアジア地域 (インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾およびインド)をオールアジアとし、うち7か国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー)をSEAとして記載しています。

 

アジア/SEAにおける不正の発生状況

不正発覚およびその懸念

オールアジアでは不正が顕在化、もしくはその懸念ありと回答された方が3年連続で減少(2020年38.8%、2021年27.6%、2022年23.3%)しました。SEAでも同様の傾向が確認できます(2020年38.4%、2021年28.2%、2022年21.7%)。しかしこの不正に対する懸念の数値の減少は、実際に不正が減少したものでしょうか?もう少し詳しく状況を確認していきたいと思います。

Q1過去三年間の不正顕在化またはその懸念の有無(アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2022年版)

地域統括会社が多数存在するシンガポールではどうでしょうか。シンガポールのご回答者は、自国と地域統括としてエリアの双方の観点でご回答頂いた方が多いと考えられますが、こちらも同様に不正が顕在化、もしくはその懸念ありと回答された方が減少傾向にあります。具体的にはCOVID-19発生前の2019年は48.6%、COVID-19発生時の2020年は35.2%、以降は2021年15.4%、2022年16.8%でした。

興味深い点は、COVID-19以前の2019年では約半数の方が不正が顕在化・もしくはその懸念ありと考えていた状況に対し、2020年のCOVID-19を経て、2021年・2022年では2年連続でその値が約15%まで低下していることです。なぜCOVID-19以降はこれほど大幅に不正に対する懸念等が減少したのでしょうか。

例えば次の4点が主な要因として考えられます。

  1. モニタリング活動のオンライン化

    内部監査や自己点検等でリスクを発見する活動において、渡航制限や感染対策を理由に現地訪問をする機会が限定された企業が多いと認識しています。

    現場への訪問が出来なくなると、得られる情報はメールやファイルサーバー上、およびビデオ会議等での画面越しのみとなり、対面だからこそ感じる違和感や、現場の気づきに基づいて追加的に情報収集するような機会が失われることからリスク発見の機会は限定されたものとなります。

  2. 不正を直接見聞きする機会の減少

    COVID-19の期間中にリモートワークが浸透する中で、社員間で業務以外のコミュニケーション機会が減少した企業が多いのではないかと推察しています。普段から顔を合わせているとちょっとした従業員の態度や生活面の変化(車や服装、装飾品が豪華になった、旅行や外食に行く機会が増えた、何か羽振りが良くなった等)を感じ取るような機会があるはずですが、これらの機会が減少した結果、何か違和感をおぼえることや、それを通じた内部告発などの機会も減少した結果、不正リスクへの感度が鈍くなっていることが想定されます。

  3. オペレーションのデジタル化

    今回のCOVID-19をきっかけに、これまで紙の書類で処理していたオペレーションについて、デジタルによるソリューションを導入された方も多いのではないでしょうか。確かにオペレーションをデジタル化することで、業務の効率化やコスト削減、蓄積したデータの利活用など、大きなメリットがあることと思います。一方で、何らかの不正を働く意思を持った社員にとってもデジタルは使い勝手が良いツールであるケースが散見されています。

    例えば、経費申請を電子化した結果、同じ領収書データが複数の申請に使い回されることや、データの改ざんされた不正な申請が出されるようなケースが報告されています。これらは、蓄積された申請データに対するチェック機能・モニタリングが機能していないと発見することは困難であり、長期にわたりチェックをすり抜けて不正が継続するようなリスクが懸念されます。

  4. 駐在員交代などを通じた組織的なリスク関心の変化

    Post COVID-19の流れを受け、経済活動が正常化する過程の中で、最近は駐在員の方の帰任や交代等の人事異動が増えてきたと感じています。上記の通り、近年不正リスクのモニタリング活動が限定されてきたこと、実際に見聞きする機会が減少していることなどを背景に、不正に対する経営管理者のリスク認識が大きく変化しています。そのような状況下における駐在員の交代に伴う業務の引継ぎ時は、業務運営に関する膨大な情報を伝達することにフォーカスされがちであり、不正に関するリスク情報の引継ぎが十分ではない場合があることも想定されます。

 

不正の種類

では現在明らかになっている不正の種類としてはどのようなものがあるでしょうか。

オールアジアでは1位が在庫・その他資産横領(26.8%)、2位が購買に関する不正支払い(25.0%)、3位が経費に関する不正支払い(23.8%)となりました。またこれら3項目のそれぞれの割合は昨年に比べ減少しているものの、賄賂(22.6%)や現預金の窃盗(13.7%)、情報の不正利用・不正な報告(13.1%)は昨年に比べ割合が増加する結果となりました。国や地域によってこれらの割合に差はあるものの、資産横領や不正支払い、賄賂、窃盗などの個人の利益に直結する不正が多く見受けられる結果となりました。

Q2.1 不正の種類 (アジア/前年比較 複数回答)(アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2022年版)

シンガポールでは同率1位が購買に関する不正支払い(27.8%)と情報の不正利用・不正な報告(27.8%)、同率3位が売上入金に関する不正(22.2%)と経費に関する不正支払(22.2%)となり、今回から追加された売上入金不正が同率3位となりました。
 

不正に関与した犯行者の職位

実際に不正に関与した犯行者はどのような職位にあるのでしょうか。こちらはオールアジアの結果のみをご紹介しますが、前年から引き続き、管理職以上の不正の関与が比較的多い状況です(経営者・役員8.3%、正社員・管理職36.4%、正社員・非管理職50.4%、パート・アルバイト・派遣社員4.8%)。非管理職への対策のみならず、経営者・役員および管理職への統制状況も留意が必要と思われます。

不正に関与した犯行者の職位 (アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2022年版)

総括および今後の対策

アジア/SEAにおける不正の発生状況

不正に対する懸念の数値は、COVID-19以降継続して低下しています。しかしこの状況は実際に不正が減少したことを意味するものではないことに注意が必要です。モニタリング活動がオンラインに限定されたことでリスク発見の機会が減少したことや、デジタル化したもののモニタリング活動に不備があったこと、駐在員の交代に伴いリスクへの関心が組織的に低下したこと等がその要因として考えられます。今後は、より効果的なモニタリング手法の導入(リモートと現地監査の組み合わせ、一定期間の全トランザクションデータの分析)や、経営層や現場のマネージャー層等に対する啓発の施策が望まれるのではないでしょうか。

不正の種類については、在庫・その他資産横領、購買・経費に関する不正支払いが顕著な状況ですが、賄賂、現預金の窃盗、情報の不正利用・報告が昨年に比べて特に増加している状況です。国・地域によりこれらの割合に差はあるものの、個人の利益に直結する不正が多く見受けられる状況であり、日々の支払いや業者との入出金について頻度の高いモニタリングが不可欠です。そしてその実現にはデジタルの活用などが効果的であり、今回のリスクサーベイ結果を踏まえ、デジタルトランスフォーメーションの検討を本格化頂くことも選択肢の一つかと考えます。
 

今後の対策

本ニュースレターでは、前回に引き続き全2回に分けて最新のリスクサーベイ結果をご紹介して参りました。今回の不正の実態結果もぜひご活用頂き、貴社における不正の兆候等を発見する機会へと繋げて頂ければ嬉しく思います。特にアジア/SEAの不正の発生状況については、国・地域別ではまた異なった傾向も出ております。これまでの歴史的経緯やビジネス慣習、規制や法律が異なることがその背景にあると考えられますが、国や使用言語を跨いだ現状の把握や対策の実装は、大きな業務負担や困難を伴うケースが多いと想定されます。もしそのような困難に直面された際は、ぜひ私どもデロイト トーマツにご一報を賜れれば幸いです。私どもはアジア/SEA各国に駐在員を配置しており、貴社の日本本社と各国拠点の双方を、確実かつ効率的にご支援させて頂きます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【概要】アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査


調査目的

本調査では、アジア地域 (インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾およびインド) に進出している日系企業におけるリスクマネジメントの対応状況、不正への取組み状況を把握し、現状の基礎的データを得ることを目指します。その結果の開示を通じて、アジア進出日系企業の皆さまにおける「リスクマネジメント」の認識を高め、日系企業の経営に貢献することを目的としております。

※本文では、上記アジアの国・地域をオールアジアと記載し、うち7か国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー)をSEAと記載しています。

調査対象企業

アジアの国・地域(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国および台湾)に進出している日系企業の関係会社 (地域統括会社含む)を対象に調査を実施しました。今回の回答は、過去最高の720名の方よりご回答を頂きました。

調査方法

Webによる調査を下記の期間において実施しました。

調査期間:2022年10月10日~11月18日

調査項目

調査は2部に分けて実施し、第1部ではアジアにおけるリスクマネジメント概況を、第2部ではアジアにおける不正の発生状況を調査しました。

調査回答者

業種別回答数では、全体の約半数(48.6%)を製造業、次いで卸・商社が19.2%、金融が6.7%を占めています。回答企業の売上規模では、全体の約半数(49.3%)を50億円未満、50億円以上500億円未満が35.7%を占めています。回答者の部署としては、全体の約半数(48.3%)を経営者、次いで経理・財務部の方が30.3%を占めています。

著者:渡辺 佑己
※本ニュースレターは、2023年3月15日に投稿された内容です。

アジアパシフィック領域でのリスクアドバイザリーに関するお問い合わせは、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

ap_risk@tohmatsu.co.jp

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