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中国において外部環境変化に強い組織を構築するには

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2022年12月21日)

目まぐるしく変動する中国での事業環境

中国における新型コロナウィルスの影響が、上海における長期間にわたるロックダウンによって、より大きく顕在化したことは読者の皆様の記憶にも新しいことではないでしょうか。ロジスティクス・サプライチェーンが寸断されただけでなく、国内外の往来が厳しく制限され、市民生活にも大きな影響を与えました。各社の事業継続状況を伺うと、自社製品の製造が滞った結果非常に大きな財務影響を受けた、リモートワーク環境への切り替えのための業務体制の見直しを迫られるなど、対応に苦慮されている状況を耳にします。

中国政府の新型コロナウィルス感染症に対する方針や施策は非常にダイナミックに変動するため、現地企業は引き続き感染状況と政府の対応方針に注意することが求められています。また直近では中国政府はハイテク製品の国産化をますます加速させています。例えば直近では2020年頃に中央政府のIT機器調達において国産の機器リストを運用するなど、中央省庁やインフラ関連企業を中心として調達製品の国産化が検討されています。個人情報保護関連法案の施行も相まって、ITインフラの再構築や本社との切り離しなどのアジェンダも、最近では特に多く聞かれるようになりました。これらのように、トップダウンで法令や国の方針が決定される中国において、現地子会社が置かれている事業環境の変化は速度、量ともに日本より大きなものであると言えるでしょう。

従来の中央集権型のガバナンスでは急速な変化に適応できない可能性が高い

これらのリスクに向き合うために実施すべきことは、「中国市場における事業リスクとどう向き合うべきか」に記載のとおり、シナリオプランニングなどを題材に関係者間で議論を進め共通認識を持つことです。ここで前提となるのは、どのようなリスクが存在し、対応策の実行にどのような課題があるのかを現地子会社でも議論する仕組みが構築されていることです。そうでなければ本社と同じ目線で議論することはできません。つまり、ESG、COVID-19政策、サイバー関連政策等の外部環境変化に伴うリスクを現地側が自分事としてとらえ、PDCAを自律的に回さなければ、もはや中国マーケットで勝ち残るための変革スピードを維持することができないのが現状であると言えます。

 

自律的な組織運営のため、遠心力型のガバナンスを構築する必要がある

これまではグループ統一のやり方で買収相手・JV・自前海外拠点に経営者や管理者を派遣、あるいは兼任する等で経営を推進する「中央集権型」のガバナンス構築を目指されていた企業が多かったように感じます。つまり、海外の買収相手のやり方や自前の海外拠点独自のやり方で経営することを認め、買収相手や自前の海外拠点に任せる「自治型」のガバナンスを出発点として、調達、ITシステム、ブランドやマーケティング、評価システムなどの組織統合を進めるのと同時に、ガバナンスも強化していくことが大きな潮流だったと考えます。

一方でこれからは、サプライチェーンの分断(間接材調達も含む)や、個人情報保護関連法などによるITシステムの分断、ESG政策による現地マーケットの変化など、変化の大きな経営環境に柔軟に対応できる組織するために、各拠点が自治を行う部分と全世界共通のやり方をすべての拠点で貫徹する部分を組み合わせ、グループ共通のポリシーを貫徹する部分を残しつつも現地子会社の裁量度を引き上げ現地子会社の自治をある程度認める、遠心力型の経営を目指されている企業が増えていると感じます。

 

 

遠心力型の組織への変革を成し遂げるためのポイント

一言で遠心力型組織といっても、業種、事業内容、組織カルチャーなどの状況によりさまざまです。デロイト トーマツでは、「組織構造」「ガバナンス」「業績・評価管理」「人財育成」「ビジネスモデル・バリューチェーン」「組織カルチャー」というフレームワークで現状を診断し、組織の目指すべき姿の設定を支援させていただくケースが多いです。以下、各項目について特に中国におけるチェックポイントにフォーカスして述べます。
 

 

 

■組織構造

  • 中国のビジネス環境の変化に対応するために十分なヒト・モノ・カネ・情報などのリソースの配置、配置権限の整理、および役割分担がされていることが重要になります。

■ガバナンス

  • 設定される最低限のルールと、それを推進する体制の状況が整っていることは遠心力型組織にとって重要な前提条件となります。
  • また、中国ではパブリックコメントなどのステップ無しにESG関連ルールが制定されるなど、予想が難しい規制変化に対応しつつ、マテリアリティ活動を設計するための体制が構築されていることも重要です。

■業績・評価管理

  • 中国においては調達や仕入れなど、国内製品の調達やサプライチェーンリスクを考慮した調達が必要になるため、事業やITシステムに対する投資権限の委譲を進める必要があります。
  • 一方で、投資対効果をROICなどで見える化して本社側と議論できる仕組みを構築しておくこともあわせて重要です。

■人財育成

  • 中国においては権限、システムなどの組織のハード面が切り離される傾向にあるケースが多いため、次世代の経営人財を本社に派遣して育成するなど、中長期的なソフト面での施策によりバランスをとることが重要です。

■ビジネスモデル・バリューチェーン

  • 遠心力型組織への変革においては、ビジネスモデルや戦略と紐づいたKPI設定を設定し、KPI収集・管理の仕組みを整備することで、実績数値からフィードバックを得て、改善の方針について議論するための仕組みを準備しておくことが重要です。

■組織カルチャー

  • そもそもが合弁会社であるケースの多い中国において、MVV(Mission, Vision, Value)を浸透させることや従業員エンゲージメントを高めることは重要な要素となります。また、ESGの取り組みなどをステークホルダーに発信する仕組みなども、中国のESG動向をにらみつつ試行錯誤できるチーム作りが望まれます。


例えばITシステムや権限などを遠心力型に移行させた結果、現地子会社とのコミュニケーションやコントロールが難しくなるといった問題が顕在化するケースがあります。このようなケースでは、「ビジネスモデル・バリューチェーン」の切り口で全社的な予算と現地子会社でのロジスティクスや設備修繕計画がKPIツリーとして紐づいているか、「組織カルチャー」の切り口でエンゲージメントやリスクカルチャーの浸透不足がないかを確認し、KPIツリーの再設計・高度化や、現地から本社への人財の派遣、MVVの明文化、経営層を中心とした情報発信方法の検討など、「ビジネスモデル・バリューチェーン」などのハード面だけでなく、「人材育成」「組織カルチャー」などのソフト面にもバランスよく働きかけるなどの対応が考えられます。

読者の皆様におかれましても刻一刻とダイナミックに変化する中国において持続的な成長をめざすために、上記のような項目ごとに現状の状況や目指されたい姿を確認されてみてはいかがでしょうか。

著者:井上 諒
※本ニュースレターは、2022年12月21日に投稿された内容です。

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ap_risk@tohmatsu.co.jp

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