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中国の業務改善最前線:マイニング技術を活用したデジタルモニタリング

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年9月30日)

はじめに

中国における日本企業は、厳しい経営環境下においても成長を目指し、事業戦略の見直しや業務効率化によるコスト削減等に取り組まれています。一方で中国事業の成長をサステイナブルなものとしていくためには、これら事業の健全な成長を支える「ガバナンスの強化」も同時に進めていくことが求められます。ガバナンスの強化にあたっては、リスクマネジメントやコンプライアンスの推進等により内部統制が適切に整備・運用される必要があるとともに、これらの仕組みが有効に機能していることを確保するモニタリング機能が重要です。

この点、昨今進められているビジネスモデルのデジタル化の中で、モニタリング手法自体にもデジタル化が進んでいます。中国事業の厳しい経営環境や優秀な人材の維持・確保の困難性に鑑みると、デジタルモニタリングがモニタリング機能の強化の重要な選択肢の一つになると考えられます。

本稿では、デジタルモニタリングの手法について概観するとともに、昨今中国における日本企業からのご相談が増加しているマイニング技術を活用したデジタルモニタリングについてご紹介します。

 

モニタリングへのデジタルの活用

本稿では一つの事例として、図1でデジタルツールを活用したモニタリングの姿を整理しています。モニタリングの各ステップにおいて各種デジタルツールを組み合わせて活用することで、主に以下のような効果が期待されます。 

  • モニタリングのタイミング
    これまでは1年に数回程度、定期的にモニタリングを実施されている企業が多いと思われますが、デジタルモニタリングを導入することで、常時継続的にモニタリングすることとなり、予め想定したリスクを早期発見することが可能になります。
  • テストサンプルの選定方法
    通常はテスト対象の業務プロセスから、手作業等でサンプルを抽出することが多いと思われますが、デジタルツールの活用により、取引データ全件を検証の上、リスクが高いと判断された取引を集中的に抽出することが可能となり、サンプルテストの有効性と効率性を向上できます。
  • モニタリング手法の標準化
    モニタリングの効果については、実施者の経験やスキルによるところが大きいと考えられます。しかし、デジタルツールを活用することでモニタリング手法の標準化が進み、経験が浅いスタッフでも一定の効果を発揮することが期待できます。

<図1>

 

マイニング技術を活用したモニタリング事例

モニタリング強化への取り組みを進めるにあたり、図1に記載したデジタルツールから、マイニング技術を活用したモニタリングを取り上げ、幾つか導入事例をご紹介します。

主なマイニング技術として、プロセスマイニングとタスクマイニングがあげられます。プロセスマイニングとは、業務システムのデータを時系列でパターン別につなぎ合わせることにより業務フローを可視化できる技術で、業務上の問題点を検知した場合にはアラートをあげることも可能です。また、タスクマイニングは、個人がPC端末で実施した全操作をログとして記録する技術であり、個人の詳細な作業内容を把握することができます。

  • 業務ルールからの逸脱フローの検知(プロセスマイニング)
    A社では従来より内部監査室が中心となり実際の取引データから所定件数のサンプルを抽出し検証することで、業務処理が適切に実施されていることを確認していました。しかし、より網羅的に逸脱フローを把握し、監査資源をこれらの取引に集中させるためプロセスマイニングを導入した結果、以前は把握できていなかった取引承認後のデータ修正や事後承認等の例外的な業務処理を発見し業務改善につなげるなど、よりテストの実効性を向上させることができました。
  • 承認権者の統制行為の有効性の検討(プロセスマイニング)
    B社では購買業務プロセスにおけるサプライヤー選定のルールにおいて、B社が設定している標準的な選定基準に一部満たないサプライヤーについては、より上席者による承認を要求しています。この点、購買業務プロセスにプロセスマイニングを活用し高リスク領域の評価を実施したところ、本来慎重な検討を要する例外的な承認プロセスの対象となるサプライヤーの承認行為が僅かな時間で実施され、かつ承認されたサプライヤーとの取引開始後に、要件の不備が把握されたケースが認められました。この状況を受け、現状の例外的なサプライヤー承認事項にかかる内部統制行為の有効性に課題があると認識し、業務プロセスの見直しを実施しました。
  • 不正行為の詳細調査(タスクマイニング)
    C社では固定資産購買業務において特定の職員による不正の兆候を把握しました。以前は業務処理過程や結果が適切に保管できておらず、不正行為の社内調査も十分とは言えない状況でした。しかし、タスクマイニング導入後はツールに保存されている当該職員の業務を確認し、「固定資産管理ファイル」や「設備調達取引ファイル」へのアクセス、操作内容等の業務処理過程を把握することが可能となりました。これにより、コンプライアンス室が中心となり実施した社内調査において、これらの資料やデータを調査資料の一つとして活用することで社内調査手続の改善を図ることができました。

(なお、マイニングツールについては、以前のニュースレター「中国の業務改善最前線:マイニング技術を活用した業務効率化」も是非ご参照ください)

 

おわりに

デロイト中国はマイニングセンターを設置し、企業の事業運営の効率化、高度化やモニタリングの強化をサポートしています。現時点では、多くの中国企業がこれらマイニング技術を積極的に活用しオペレーションの改善に取り組んでおられますが、中国における日本企業の取り組みはまだ多いとは言えません。業務の効率化とガバナンスの強化は、業務改善の両輪であり、企業のサステイナブルな成長をサポートする有効な取り組みです。本稿でご紹介したデジタルモニタリングが貴社のガバナンス強化に少しでもお役に立てれば幸いです。

デロイト トーマツ グループでは、第三者の視点から豊富な事例を踏まえつつ、高い専門性に基づく中国におけるガバナンスの強化を支援致します。詳しくは、デロイト トーマツのプロフェッショナルまでお問い合わせください。

著者:眞岩 研徳

※本ニュースレターは、2024年9月30日に投稿された内容です。

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ap_risk@tohmatsu.co.jp

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