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中国の業務改善最前線:マイニング技術を活用した業務効率化
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年9月5日)
はじめに
中国における昨今の経営環境の変化に対応するため、多くの日本企業から業務効率化に関するご相談を頂戴します。デロイト トーマツが毎年実施している「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査」でも、優先して着手が必要なリスクとして「市場における価格競争」が1位、「人件費高騰」が2位に挙げられており、また回答割合も前年より何れも増加していることからも、その関心の高さが伺えます。本稿ではこれに関連して、効率化を目的とした業務見直しに伴う留意点や、マイニング技術を活用した現状調査の事例をご紹介します。
(以前のニュースレター「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査(中国大陸・香港・澳門)」も是非ご参照ください)
業務効率化の進め方と留意点
一般に業務効率化を目的とした業務見直しにおいては、現状調査、改善機会・施策検討、効果試算、実行計画策定の流れで進められます。
現状調査においては、関係者へのアンケート調査やインタビュー、関連資料の閲覧等を通じて、まずは業務効率化を進める対象業務の把握を行います。続いて改善機会・施策検討においては、把握された現状に基づき改善の機会を特定したり、改善するためのプロセス見直しやデジタルツールの検討等を行います。効果試算では、当該改善案を進めた場合にどの程度の効率化が図れるのか、投資対効果を可能な限り定量的に試算することが肝要です。その後、実行計画策定において、業務の見直しを具体的なロードマップに落とし込みます。
このように、業務見直しの進め方自体は複雑ではないと考えられますが、一方で留意すべき点もあり、よくある失敗例と対応策をいくつかご紹介します。
- 主観的なイメージに基づく現状調査や改善機会・施策検討が行われる
アンケート調査やインタビュー等を通じて得られる情報は、現場の率直な声を聴ける貴重な内容である一方、主観的な要素が多く含まれる可能性があります。「業務が効率的でないように感じる」といった印象で現状調査を進め、またそれに基づいて改善機会・施策検討が行われると、効率化の効果が十分に得られない事が考えられます。対応策として、各人が行っている業務の一覧表を作成し、またその中で各業務の作業工数を数値化すること等により、客観的に現状を把握することが有効になります。 - 業務全体の視野を欠き、部分最適化が行われる
アンケート調査やインタビュー等の対象となった従業員や、既存の資料から把握できる業務領域にばかり焦点を当ててしまい、業務全体を十分に把握しないまま、改善機会・施策検討に進んでしまう事が考えられます。このような場合は、特定の領域内のみで業務効率化が進められ、業務全体としては逆に不効率となってしまうといった、部分最適化を招きかねません。対応策として、現状調査においてはフローチャートを作成し、業務全体を俯瞰しながら調査を進めていくこと等が考えられます。 - 効率性とガバナンスのバランスを欠いてしまう
改善機会・施策検討を進めて行く中で、重複した業務等の削減・簡略化が検討される事があります。しかし場合によっては、一見すると重複した業務であっても重要なリスクに対応するために、ガバナンス上は不可欠な業務であることも考えられます。例えば、営業債権管理において、直接得意先に対応している営業担当者による債権管理のみならず、財務経理部門でも同様に得意先ごとに債権管理を実施する業務は、一見すると重複しており不効率に感じられるかもしれませんが、営業担当者と得意先の癒着等の不正の防止・発見等の目的に照らすと不可欠な業務と言えます。対応策として、事業に係るリスクを適切に把握した上で、当該業務がどのリスクに対応しているのか、その過不足を含めて確認し、見直しを進めること等が考えられます。
マイニング技術を用いた現状調査
前述の通り業務の見直しは、関係者へのアンケート調査やインタビュー、関連資料の閲覧といった手法で、現状調査が伝統的に行われてきました。一方で、昨今ではこれを更に効果的・効率的に行うため、マイニング技術を活用する事例も増えています。プロセスマイニングとタスクマイニングの2種類のどちらか、又は両方を組み合わせて実施することで、特に現状調査や改善機会・施策検討においてその効果を発揮します。
プロセスマイニングは業務フローを分析するための技術で、部門横断的なものを含むプロセスにおける業務全体のパターンやパターン毎に要する時間等を分析する事が可能となります。これによって例えば特定の承認行為に多大な時間を要していることが明らかになった場合、当該承認の方法等を変更することでプロセス全体に要する時間を短縮化し、業務効率化に繋げるといった対応等が可能となります。
タスクマイニングは、個人のタスクを分析するための技術で、各個人のPC内の操作で完結するタスクの量や内容、所要時間等を分析する事が可能となります。これによって例えば特定の作業のために多くの時間を費やしていることが明らかになった場合、当該作業をツール導入によって自動化したり、不要と判断された場合には作業自体を簡略化すること等を通じて、業務効率化に繋げるといった対応が可能となります。
これらのデジタルツールは、前述のよくある失敗例を避ける目的でも有効で、特に海外に展開している日本企業においてはその効果を実感し易いと考えられます。伝統的な調査手法では、業務効率化を進めようとしても言語や文化の違い等により目的に則した調査が中々進まず、また日本と比べ離職率が高い場合、全体を把握している人員がおらず部門横断的な調査も難しいことが想定されます。この点、マイニング技術であればデジタルツールであることから客観的かつ定量的に現状を調査でき、また特にプロセスマイニングはプロセス全体を対象にすれば、業務全体を俯瞰する事に役立ち、部分最適となるリスクを低減できます。
加えて、プロセスマイニングやタスクマイニングはその分析方法次第で不正の兆候を捉える事も可能なため、現状を調査する過程でガバナンス上の課題を特定する事に役立つ事も想定されます。特に中国では経費や購買に関する不正支払が多い等の固有の不正リスクへの対応も求められることから、業務見直しの際にガバナンスの観点も併せて検討する事が非常に重要と考えられます。
なお不正の状況については、以下の記事をご参照ください。
「リスク・サーベイに見る中国大陸・香港・澳門における不正の状況について」
おわりに
効率化を目的とした業務見直しを検討されることは、日本企業に限らず当然に進められている内容と考えられます。一方で従前の業務を変更することは、場合によっては従業員の反発を招く可能性もあり、またその効果も直ぐには実感し難い場合もあると考えられます。
より適切に進めるにあたっては、客観的に、プロセス全体を俯瞰しつつ、ガバナンスとのバランスを鑑みながら進めることが重要です。また、マイニング技術を活用することでより効果的かつ効率的に進めることも可能です。
デロイト トーマツ グループでは、第三者の視点から豊富な事例を踏まえつつ、高い専門性に基づく中国におけるリスク対応の円滑なプロジェクト推進を支援致します。詳しくは、デロイト トーマツのプロフェッショナルまでお問い合わせください。
著者:日下部 直哉
※本ニュースレターは、2024年9月5日に投稿された内容です。
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