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リスク・サーベイに見る中国大陸・香港・澳門における不正の状況について

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年4月26日)

はじめに

デロイト トーマツではアジア地域に進出している日系企業におけるリスクマネジメントへの対応状況を把握するため、「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2023年版」を実施(2023年11月9日~12月10日)しており、中国大陸・香港・澳門では160件のご回答を頂きました。ご協力くださいました企業様に改めて御礼申し上げます。

本調査では日系企業の皆様に、リスクマネジメントの概況と、不正の発生状況について調査を実施いたしました。不正の発生状況に関しては、「不正顕在化またはその懸念の有無」、「顕在化した不正の種類」、「不正が発覚した部署」、「不正の発覚経緯」及び「不正に関与した犯行者の職位」についてアンケートを実施しました。本稿では不正の発生状況について、中国大陸・香港・澳門の主な結果を中心にご紹介すると共に、把握された課題への主な対応策についてご紹介いたします。

なおリスクマネジメントの概況については、以下の記事をご参照ください。

アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査(中国大陸・香港・澳門)

 

サーベイの結果概要と対応策

不正顕在化またはその懸念の有無のアンケート結果(中国大陸・香港・澳門)

今回の調査において、「不正の顕在化、またはその懸念の有無」についてアンケートを実施したところ、図-1の通り「不正顕在化またはその懸念あり」との回答は約3割でした。これはアジア全体での平均と概ね同じ水準ですが、中国大陸・香港・澳門に進出している日系企業の約3割の会社において、不正が顕在化またはその懸念が有る状況は、各企業にとり決して他人事では無い状況と言えます。

図-1

顕在化した不正の種類のアンケート結果(中国大陸・香港・澳門)

「顕在化した不正の種類」においては、図-2の通り、「経費に関する不正支払」「購買に関する不正支払」の割合が高く、それ以降「賄賂」、「在庫・その他資産横領」、「情報の不正利用、不正な報告」と続いています。これら上位に挙げられている不正については、順位の入れ替わりは多少あるものの、例年同様となっています。この内、特に「経費に関する不正支払」、「購買に関する不正支払」、「賄賂」は、アジア全体と比較しても高い水準にあり、中国での事業を進めるにあたっては、特にこれらへの適切な対応が重要となります。

実際に日系企業においては、金額的に影響が大きい製品の主要な原材料等については十分な統制を実施しているものの、金額が少額であったり、地場企業との取引が多い工場消耗品や備品、業務委託、修繕工事といった領域については、取引先や取引価格の決定について、過去からの取引を統制が不十分なまま継続してしまっているケースがよくみられます。取引先のバックグラウンドのチェックが十分でないまま、或いは相場観が分からないままに、取引を実施し、結果として従業員の親族等が経営する会社から、相場よりも高い金額で仕入れてしまっていたり、賄賂の発生を許してしまったといった事例も見られます。

図-2

 

不正に関与した犯行者の職位のアンケート結果(アジア)

ここからはアジア地域全体の結果となりますが、「不正に関与した犯行者の職位」では、図-3のように「経営者・役員」が6.6%、「正社員―管理職」が39.1%となっています。上位の職位ほど構成比が少なくなるピラミッド型の組織を前提とすると、「経営者・役員」や「正社員―管理職」が不正に関与する割合が多い状況と考えられます。

「経営者・役員」及び「正社員―管理職」は多くの場合、取引先や取引価格の決定権者となっていることから、これらの職位が関与すると内部統制が十分に機能しない状況が伺えます。会社によっては、マネジメント層による不正リスクを低減するために、複数部署で定期的に購買内容をモニタリングし客観性を確保したり、単一の事業会社内で十分なリスク低減が難しいと判断される場合は、地域統括会社や日本本社も含めた形で全体としてのガバナンス体制を整備するなどの対応を進めています。

図-3

不正の発覚経緯のアンケート結果(アジア)

これらの不正の発覚経緯としては、図-4の通り「内部からの通報」、「業務プロセスによる統制活動」、「内部監査」が上位に並んでいます。特に「内部からの通報」は他の発覚経緯に比し突出して高い水準となっています。内部通報が不正発見に有効である点は広く知られている所ですが、改めてその重要性が伺える結果と言えます。特に、前述の通り不正の関与者として管理職以上の割合が多い状況においては、内部通報の制度を適切に運用することや内部監査の高度化や適切な権限付与を進めることは不正発見のための重要な手段と考えられます。

図-4

 

不正リスクに対応する組織風土の醸成

不正リスクの低減への対応策として、統制活動や内部監査、内部通報の仕組みを適切に整備することは、適切な事業運営を進めるうえで大変重要です。しかし、これらの仕組みを運用するのは役職員ですので、事業運営や日々の業務に対する役職員個人の誠実性や経営者が設定した仕組みに対する理解などをあわせて向上・深化させていくことが大変重要です。これらは組織風土を醸成していくことと同義です。組織風土とは、メンバーのモチベーションや行動に影響を及ぼすと考えられる特性で、人間関係や行動様式、個人の意識等が含まれます。仕組み自体を整えても組織風土が適切に醸成されない限り、不正を防ぐことができず、また発生している不正の発見も十分にできません。

不正を許容しないような組織風土を醸成していくためには、例えば以下のような方法が考えられます。

  • 企業理念や行動指針の明文化(行動規範やコンプライアンス規定等)
  • 経営者による「いかなる不正をも許容しない」というメッセージの発信
  • 不正防止の研修
  • コンプライアンス意識調査の実施 等

これらの取り組みは、前項の不正の発覚経緯で最も高い割合を占めている「内部通報」をより有効に活用するためにも、非常に重要な要素となります。内部通報制度そのものが無い企業は少ないと思いますが、一方で通報件数が極めて少ないケースも見られ、通報しにくい雰囲気があるなど、活用されていない理由の一つに組織風土に関連する課題もあると想定されます。通報窓口を単に設置するだけでなく、定期的な研修を通じた重要性の周知や、企業トップから不正は許容しないというメッセージを発信すること等をあわせて取り組むことが重要と考えられます。

また、通報窓口による待ちの姿勢だけでなく、積極的に不正に関する自社の状況を把握する方法として、自社の役職員全員を対象としたアンケート調査を定期的に実施されている企業もあり、これらの取組みも大変有効と考えられます。

デロイト トーマツでも、上述の組織風土の他、内部統制(内部牽制)、不正の兆候の3つの切り口からアンケート調査を実施し、組織風土に加え、実際のプロセスにおいて内部牽制を基礎とした統制行為が徹底されているか、また不正や不正の兆候を把握されているか等を、Webで調査するサービスを実施しています。これらのアンケート結果を分析し、企業が不正リスクを軽減する上で抱えている課題や不正の兆候を明らかにするとともに、あわせて今後取るべき対応策をご提案させて頂いております。

当該調査における具体的な質問項目としては以下のようなものがあります。

【組織風土】-指針の明確度や浸透度の程度、組織風土の健全性を明らかにします

  • 日々の行動の指針となる考え方(理念、ポリシー、方針など)が明文化されていますか。
  • コンプライアンスの基礎知識および、守るべきルールや手順を理解するための機会(研修等)が十分にありますか。等

【職務分掌】-具体的なプロセスにおいて不正対応の観点から職務分掌の程度を明らかにします

  • 購買の発注者と承認者は別の人ですか。
  • 得意先マスタ更新の申請者と承認者は別の人ですか。等

【不正兆候】-不正が行われている可能性を示す状況を明らかにします

  • 経費などの内容に公私混同を感じることがありますか。
  • 特定の取引先との付き合いや接待が頻繁あるいは多額ですか。等

図-5

 

おわりに

中国における日系企業は、複雑な事業環境の中において、経費や購買に関する不正支払が多い等の固有の不正リスクへの対応も求められています。中には、日本から派遣された駐在員の立場では言語・文化的側面から、必ずしも十分に対応しきれていない場合もあると考えられます。

これらの対応を効果的・効率的に進める際には、中国ならではのリスクに対する理解が重要と考えられます。

デロイト トーマツ グループでは、高い専門性に基づく中国におけるリスク対応の円滑なプロジェクト推進を支援致します。詳しくは、デロイト トーマツのプロフェッショナルまでお問い合わせください。

著者:日下部 直哉

※本ニュースレターは、2024年4月26日に投稿された内容です。

アジアパシフィック領域でのリスクアドバイザリーに関するお問い合わせは、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

ap_risk@tohmatsu.co.jp

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