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アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査(中国大陸・香港・澳門)

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年3月29日)

アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査結果について

デロイト トーマツではアジア地域に進出している日系企業におけるリスクマネジメントへの対応状況を把握するため、「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査」を実施(2023年11月9日~12月10日)しており、中国大陸・香港・澳門では160件のご回答を頂きました。ご協力くださいました企業様に改めて御礼申し上げます。

本調査では日系企業の皆様に、リスクマネジメントの概況として「優先して着手が必要なリスク」、「今後1年程度を見越して必要なリスク対策」及び「現在不足し改善に取り組んでいる機能」について、また、不正の発生状況についてアンケートを実施いたしました。ここではその主な結果をご紹介すると共に、対応策についてご紹介いたします。

 

サーベイ結果概要

今回の調査において「優先して着手が必要なリスク」として最も挙げられたのは、「市場における価格競争」です。一昨年に7位、昨年は同率1位として挙げられていた項目ですが、今回は2位の「人件費高騰」を10ポイント近く上回る形での1位となっており、この数年で急激に優先度が高まったリスクと言える状況です。
これに関連して「今後1年程度を見越して必要なリスク対策」にかかる回答では「企業戦略の見直し」が、「現在不足し改善に取り組んでいる機能」では「地域戦略立案機能」が、それぞれ1位に挙げられています。両者は昨年までも上位または1位に挙げられていた項目ですが、今年はさらに順位を上げて、または回答割合を増加させ、半数近い多くの企業で必要性が認識されている項目となっています。日系企業として価格競争に巻き込まれないために、企業戦略の見直しを含めた地域戦略立案機能の改善に取り組んでいる状況がうかがえ、中国企業の台頭が更に顕著になる中での複雑な経営環境の現れと考えられます。

また、「人件費の高騰」や「人材流出・人材不足」など、雇用に関するリスク認識が「優先して着手が必要なリスク」の2、3位に挙げられています。それぞれ昨年も同率1位、3位に付けており、また回答割合も引き続き高い状況です。中国の所得水準の向上、中国企業の更なる成長により、日系企業における人材確保が引き続き難しい環境の結果と考えられます。今後の中国の更なる経済発展を見据えると、高度な専門性を持った人材確保はますます困難となる可能性があり、給与体系の見直しやキャリアパスの整備等の重要性が高まっていると考えられます。

なお昨年まで継続的に上位に挙げられていたリスク「疾病の蔓延(パンデミック)等の発生」は、今回殆ど回答がありませんでした。前述の「市場における価格競争」が最も大きく回答割合として伸びている事からも、昨年までと社会環境が変わった中で競争が活発化し、その結果として特に価格競争が激しくなっている状況と考えられます。

優先して着手が必要なリスク(上位3項目回答)

 

サーベイ結果への対応策

前項におけるリスクへの対応策の一つとして、地域統括の在り方を再検討される企業が増えています。「現在不足し改善に取り組んでいる機能」として上位に回答されている「地域戦略立案機能」や「内部監査機能」等に代表されるように、事業環境の変化を踏まえ、改めて自社を取り巻くビジネスリスクを棚卸・評価し、地域グループ会社全体の方針を検討する必要性が高まっている状況があります。特にデジタルを活用することで、限られたリソースの中でも統括会社のガバナンスの高度化・効率化を図る事が考えられます。

例えば以下のようなプロジェクトの推進によって、対応を進められる事例が挙げられます。

  • グループ全体でのリスクを棚卸・評価し、各々に対する日本本社、地域統括会社、各事業会社の役割を整理・見直した上で、具体的な施策を進める
  • シェアードサービスセンター又は外部の委託先を活用し、また当該委託先と協働しデータ・アナリティクスやプロセスマイニングを活用したモニタリングも併せて実施する
  • 地域統括会社による子会社内部監査機能を強化し、各事業会社のリスクや対応状況をデータ・アナリティクスも活用して確認する

(以前のニュースレター「中国における地域統括会社が考慮すべきガバナンスの高度化・効率化におけるデジタル化のポイントについて」も併せてご参照ください)

また、中国企業の競争力への対応や高騰した人件費に見合う高付加価値の「新商品・サービス開発」を目指した新規事業開発のための、必要な取組みに関するお問い合わせも増えています。これは、新規事業策定が中国でのビジネス存続のリスク対応策として注目されているためです。新規事業開発には、適切な目的の設定や投資許容枠の定量化、部門横断型の組織やアイディア創出・スクリーニングのための仕組み・組織作り、またその際の裁量と統制のバランスといった要素が重要となります。こういった取り組みの成果として、以下のような事例が挙げられます。

  • 先進技術を有するスタートアップ企業に出資し、新しい商品・サービス開発を推進する
  • 既存技術を応用し、ESGに沿う商品・サービスを新しく提供する
  • 自社の商品・サービスと関連する企業等と提携し、ワンストップで顧客への価値提供を行う事業モデルを構築する

(以前のニュースレター「中国における新規事業へのリスクテイクの考察」も併せてご参照ください)

加えて、「市場における価格競争」や厳しい事業環境に伴いトップラインが伸び悩む中、コスト意識への高まりに短期的かつ直接的に対応するための手段として、デジタルを活用した購買活動の高度化に取り組む企業も増えています。データ・アナリティクスの技術によって抽出できる不正リスクの高い取引は、不合理で高額な購買を行っておりコスト削減の余地がある可能性があります。例えば以下のような取引を抽出・是正することで、コスト削減額がアナリティクスに要した費用を大きく上回る事例もあります。

  • 過去から反復継続して同一のサプライヤーを利用しており、相見積を取得せず、また購買単価も昔の参考価格に基づき算出されていた
  • 住所や代表者名等が一致する、実質的に同一のサプライヤー同士での形骸化した相見積を行っていた
  • 特定のサプライヤーに対して同金額で複数回発注しており、承認逃れを目的とした分割発注が行われていた

(以前のニュースレター「デジタルコントロール:中国における実務紹介〜オペレーション、内部統制のデジタル化 購買活動へのデータ・アナリティクス適用の事例」も併せてご参照ください)

 

まとめ

中国における日系企業は、固有の事業環境の中で価格競争リスクに直面し、これに関連して企業戦略の見直しや地域戦略立案機能への関心も高まっています。また雇用に関するリスクも継続的に挙げられており、非常に難しいかじ取りが求められる状況と考えられます。この点、地域統括会社の機能見直しや新規事業といった中長期的な検討を進めつつ、購買活動の高度化を通じたコスト削減等によって短期的な成果を上げていくような対応が必要と考えられます。
またこれらの対応を進める際には、中国ならではのリスクに対する理解と、デジタルテクノロジーを活用した対応が、効果的・効率的に進めるために重要と考えられます。

デロイト トーマツ グループでは、高い専門性に基づく中国におけるリスク対応の円滑なプロジェクト推進を支援致します。詳しくは、デロイト トーマツのプロフェッショナルまでお問い合わせください。

著者:日下部 直哉

※本ニュースレターは、2024年3月29日に投稿された内容です。

アジアパシフィック領域でのリスクアドバイザリーに関するお問い合わせは、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

ap_risk@tohmatsu.co.jp

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