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中国における地域統括会社が考慮すべきガバナンスの高度化・効率化におけるデジタル化のポイントについて

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2023年7月31日)

以前のニュースレターで「東南アジアにおける地域統括会社が考慮すべきガバナンスの高度化・効率化におけるデジタル化のポイント」について記載しましたが、今回は特に中国における地域統括会社の視点から、ガバナンスの高度化・効率化におけるデジタル化のポイントを記載します。なおここでも、ガバナンスを「企業経営において公正な判断・運営がなされるよう管理・統制する活動」と定義します。

地域統括会社が行う域内のガバナンス強化の前提として、中国で活動する企業は、中国の経営環境に応じた、ガバナンス強化の検討を進める必要があります。当該企業の業種や規模等によって様々ではあるものの、具体的には、デロイト トーマツが実施した最新の「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査」で示された下記のようなリスクを念頭に置いて、ガバナンス高度化・効率化への対策を検討することが必要と考えられます。

具体的には、中国においては「在庫・その他の資産横領」「賄賂」「経費に関する不正支払」「購買に関する不正支払」の不正が多く、これらはアジア全体の平均から見ても、割合的に多くを占めています。

(以前のニュースレター「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査(中国)」も併せてご参照ください)

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中国における地域統括会社の重要性

域内の各社へ適切にガバナンスを効かせるために、経営に重要な影響を与える可能性のあるリスクをより早く、的確に捉え、将来的に想定される影響度合いを見極めながら必要な手当てを講じることが重要な点は、特定の地域に限らず共通する事と考えられます。しかしこれを実際に進めていく上で、中国の地域統括会社は、ガバナンスを効かせるために果たすべき役割が特に大きいと考えられます。

日本の本社にとって、ガバナンスを効かせるための前提となる、現地リスク情報のきめ細かい収集が、地理的・制度的遠隔性から困難である点はどの地域でも共通の事象ですが、特に中国においては、後者を理由として実務上の制約に直面することも考えられます(以前のニュースレター「中国におけるデータ越境移転に関する対応について」も併せてご参照ください)。また昨今の厳しい経営環境に伴い、事業会社ごとに当該機能を個別に持つことは、リソースやスキル面のみならず、効率性の観点からも、非常に難しい状況と考えられます。

 

地域統括会社におけるデジタル活用の余地(ガバナンス高度化・効率化)

地域統括会社への期待値が高まる一方で、地域統括会社でもリソースやスキルが限定的であることが多いため、地域経営に影響を与える情報を収集し、地域横串の視点で対策を立案・各拠点にフィードバックしながらガバナンスを高度化するためにはデジタルを上手に活用することが効果的な手法の一つである、という点は地域に限らず共通と考えられます。そのため、この項では前回ニュースレターを再掲する形で記載します。

地域内のガバナンス強化のためのデジタル活用の対象は下記の3つが考えられます。

  1. 社内外で起きている事象の情報収集
  2. 情報収集結果を踏まえた影響予測
  3. 影響を最小化するための管理策導入

1については、対象とする情報の種類に合わせて市販の専用ツールを導入することや、市販のシステムをベースに自社独自でデータを集計・統合・分析するような機能を実装することが求められます。

<デジタル活用の対象例>

  • 地域内で発生している事故やインシデント報告・集計
  • 二酸化炭素排出量の報告・集計
  • サプライヤーの経営状況、事件事故・人権侵害の有無、経営層の不祥事等の情報収集
  • 自然災害や政変、紛争等が与える原材料の調達への影響予測
  • 従業員の属性や勤務状況、スキル情報集計
  • 従業員の不正リスク、内部統制の運用状況把握
  • サイバーセキュリティリスク発生状況把握
  • ITシステム導入状況やその投資効果の実現状況把握
  • 個人情報を含む機密情報の保有状況把握 等

例えば、ESGやサステナビリティを背景に注目が高まっているサプライチェーンリスクについては、取引先の評価ツールなどが提供されています。

これは取引先の活動に関して、様々なリスク情報を外部から収集し、ダッシュボードとしてリスク情報を視覚的に提供するものとなっています。

このツールを活用することで取引先単位に担当者が外部情報を検索することやその結果をレポートする業務を自動化し、常に最新の情報サプライチェーンの全体像を把握することが可能になります。より多くの時間をこの結果に基づく意思決定や取引先とのやりとりに担当者が集中することができるようになります。

また、2の将来予測機能ですが、ツールによってその機能性や期待効果等は千差万別ですが、一部のツールは最近話題の生成AIの機能なども取り込みながら、リスクが与える将来的な影響の予測機能を強化しつつあります。

自然災害が与える自社の部品供給網への影響などについて予測の精度高めるような取り組みも加速していることから、当領域でのAI活用については今後の推移が注視されます。

3については、業務上の承認やアラート、モニタリング機能等を実装することで、異常な取引やユーザーの振る舞い、外部の変化など捉えることでガバナンス上の問題点を予防、発見し、適切な担当部門が遅滞なく効果的な対策を講じられるような支援機能の実装が可能です。

これはERPなどの基幹システムに機能を実装するケースや、個別の業務システム・ツールで実装するケースもありますが、特に現在マニュアル業務の中ですり抜けているリスクや、発見のために多大な工数をかけているリスクを対象に検討することが望まれます。

 

中国における課題と対応方法

中国においては前述の通り、特定の領域に係る不正リスクが相対的に高いことから、これらにどのように対応するかがポイントとなります。この点、特に「賄賂」「経費に関する不正支払」「購買に関する不正支払」といった、現物管理等では対応しきれない領域については、デジタルの活用がガバナンスの高度化・効率化に大きく寄与すると考えられます。

例えば、上述の取引先の評価ツールの利用は、評価が低いにもかかわらず取引を行っている相手先の洗い出しに役立てる事ができ、仮にそのような取引先が検出された場合には、その背後に賄賂やキックバックといった不公正な事象の有無があるのではないかと疑念を持つきっかけとなります。

また、データ・アナリティクスやプロセスマイニングを活用し、具体的な取引単位で、不自然な事象が発生していないかモニタリングする手法等も、経費や購買に関する不正への対応という点で特に有効と考えられます。通常とは異なる傾向を持つ取引を検出することができ、また実際にこのような取り組みを進めることで、けん制効果も副次的に得られると考えられます

更に、こういった取り組みは従前の不合理な取引等を洗い出し、改善することで結果としてコスト削減も同時に達成できる事例もあることから、単なるガバナンス強化のみならず、経済面においてもメリットをもたらすことが想定されます。

(以前のニュースレター「デジタルコントロール:中国における実務紹介〜オペレーション、内部統制のデジタル化 購買活動へのデータ・アナリティクス適用の事例」も併せてご参照ください)

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まとめ

中国における日系企業は、ガバナンス高度化・効率化の観点において統括会社に大きな役割が求められる中、厳しい経営環境やリソースの制限等から、なかなかその推進に踏み切れない状況があると想像しております。一方で、対応を躊躇している間にリスクが顕在化してしまうと、結果として大きな損失を被ることとなります。

この点、デジタルの活用は、こういったジレンマを和らげる重要な手段と考えられます。ガバナンスの高度化を推進しつつも、効率化によって負担をなるべく小さく抑える、両者のバランスを取った対応を実現するためのツールとして、是非有効にご活用いただければと思います。

実際にプロジェクトを推進する際には、各事業会社の機能を確認の上で、管理機能については統括会社等に集約の上、デジタル化を実施することで、高度化・効率化を図ることが考えられます。デロイト トーマツ グループでは、ガバナンスのデジタル化に関する深い理解に基づいた、円滑なプロジェクト推進を支援致します。詳しくは、デロイト トーマツのプロフェッショナルまでお問い合わせください。

著者:日下部 直哉

※本ニュースレターは、2023年7月31日に投稿された内容です。

アジアパシフィック領域でのリスクアドバイザリーに関するお問い合わせは、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

ap_risk@tohmatsu.co.jp

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