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企業の危機管理(クライシスマネジメント)の現状と効果的な専門家の活用

Buisiness Law Journal 2016年11月号付録掲載

デロイト トーマツでは、クライシスマネジメントを、Readiness(準備)、 Response(対処)、Recovery(回復)の3ステージに分けて、それらを総合して考えることを提唱している。本稿では、そのなかでもReadinessとRecoveryについて、多くの企業へのサービス提供経験を基に解説します。

デロイト トーマツ クライシスマネジメント

はじめに

デロイト トーマツでは、クライシスマネジメントを、Readiness(準備)、 Response(対処)、Recovery(回復)の3ステージに分けて、それらを総合して考えることを提唱している。

  • Readiness:クライシスに対処するための準備ステージ。クライシスに対して適切に対処できるかどうかの鍵を握るものとなる。リスク自体を回避、低減させるリスク管理とは別に、クライシス発生を見越した具体的な対処方法を検討し、組織横断的な体制やガイドラインの整備、さらには機動的に動けるかどうかのシミュレーション型訓練をしておくことが重要。
  • Response:クライシス発生時の初動対応から事態沈静化までの対処ステージ。レピュテーションの毀損も含めクライシスによる損害を最小限にとどめるための諸活動であり、社内外のリソースをフル活用して、トップダウンで事を進めることが重要。
  • Recovery:事態沈静化後の毀損した信頼回復や再発防止も含めた対応ステージ。クライシスの真因を追究し、再発防止の策定を行い、場合によっては組織再編なども見据えながら、平時の状態にできるだけ早く戻すこと。

Responseについてはさまざまなところで多くが語られているので、本稿ではReadinessとRecoveryについて、多くの企業へのサービス提供経験を基に解説する。

 

Readiness

クライシスというと、一般的に危機や有事という言葉が用いられるが、数十年に一度起きるかどうかという極めて非経常的な事象をイメージすることが多いように思われる。従って、いつ起こるか分からない事象であり、これを積極的にマネジメント対象にしようと考える企業はさほど多くなく、まして十分なリスクマネジメント体制を構築している企業では、そもそも発生自体を未然に防止できるため特段の対応は不要であるという意識すらあるのではないだろうか。

しかし、昨今、企業がクライシスを経験する頻度は増しており、加えて、ソーシャルメディアの発達に伴い、情報発信が容易となり、かつ瞬時に情報が拡散し、不祥事事案など企業のレピュテーションに影響するクライシスの甚大度は増し、企業の存続自体にも大きなインパクトを与えることもある。

クライシスマネジメントプランの策定には前向き

有限責任監査法人トーマツが実施した゛クライシスマネジメントに関する企業の実態調査2016”によれば、日本の上場企業において、゛全社的なクライシスマネジメントプランを策定”している企業(46.4%)、もしくは「全社的なプラン策定を検討中」(16.4%)の企業は6割程度であった。このことから全社的なクライシスマネジメントプラン策定には前向きであることが読み取れる。(図表1)

図表1 日本の上場企業におけるクライシスマネジメントプランの策定状況
※クリックして画像を拡大表示できます

クライシス発生時には、特にそのクライシス自体が初めて遭遇するものである場合、企業側に処理能力や専門的な知識が欠如していることも多く、また必要な情報を識別・入手することが困難となり、通常の意思決定プロセスが機能せず、意思決定上の混乱も生じやすくなる。

そのような状況では適切な対応ができず、企業のレピュテーションがより一層下がる危険がある。クライシス発生時はまさに企業の対応力が問われる時なのである。そのため、クライシス発生に備えたきちんとした準備は欠かせない。クライシスに対処する組織構造や意思決定プロセス、内外とのコミュニケーション方法などを定めた体系的なガイドラインであるクライシスマネジメントプランを策定しておく必要がある。

平時における訓練と外部リソース確保が不十分

企業が全社的なクライシスマネジメントプラン策定に前向きであることは前述のとおりであるが、具体的な取り組み状況を見ていくことにする。

クライシスに備えるために、゛クライシスマネジメントチームの組織構造に関する規程の整備”(78.0%)、゛具体的な対処手順の整備”(80.6%)および゛情報の収集、管理および伝達のプロセスの整備”(84.9%)をしていると回答した企業の割合は高いが、これと比べると゛クライシスマネジメントを組織へ浸透させるための訓練の実施”(61.2%)をしていると回答した企業の割合はさほど高くはなかった。また、゛クライシス発生時において利用する外部専門家の選定基準の整備”(27.3%)および゛パブリック・リレーション(PR)会社およびコンサルティング会社等の外部専門家の利用“(31.3%)を準備していると回答した企業の割合はいずれも3割程度という低い水準であった。(図表2)

 

図表2 日本の上場企業におけるクライシスへの準備状況
※クリックして画像を拡大表示できます

東日本大震災以降、大規模地震に対するBCP対応は進んでいると思われるが、十分なリスクアセスメントの下で、大規模地震以外の想定されるクライシスについて、具体的なシナリオシミュレーションやリハーサル(行動訓練)を実施することが望まれる。また、クライシス発生時には、適切に対処するための知識や十分に対処するためのリソースが不足することが想定されるため、コンタクト可能な適切な外部専門家を選定しておくことも必要となる。

デロイト トーマツには、クライシスに備えるための体系的な準備体制構築を支援するサービスがある。リスクマネジメントと統合された全社的クライシスマネジメント体制を構築し、クライシス時にこそ力を発揮する強い企業への転身をサポートしている。

 

Recovery

多くの場合、Responseステージの終盤になると、そこまでに把握できたクライシスの原因に基づいて再発防止策を立案し、実施(あるいはその宣言)をすることでクライシス対応プロジェクトが終了する。
しかし、ここからの対応がRecoveryの成否を分ける。

真因の追究と抜本的な対策を考える

まずは、真の原因の追究の継続である。Responseステージでの原因分析では、時間やリソースの制約から十分に真因までたどり着かず、従ってそれを基にした是正策は表面的なものとなりがちである。

データ偽装や粉飾決算等の事案でも、根本原因として事業自体に課題を抱えていることも多い。たとえば、創業の事業であるとの理由で事業の実態を把握するためのメスが入れられることもなく長期間粉飾が重ねられた事例や、新規事業の目玉としての期待からデータ偽装に走ってしまった例など、事業の本当の姿から目をそらせていたこと、あるいは実態が見える仕組みをもっていなかったことが重大な原因であった例も多々ある。その場合、トップマネジメントによる事業ポートフォリオの見直し、事業戦略・計画の見直し、およびその実行が必須となる。自然災害の場合でも、自然を相手に戦うことは難しいが、自然災害の可能性を前提とした事業構造になっているかどうかを再検討し、大きな構造改革が必要であるとの判断に至る場合もある。これらの場合、ガバナンスやコンプライアンスの強化、企業風土改善といった是正策では十分ではないのである。

さらに、損害賠償等の係争対応費用を含むリカバリーコストの試算にあたっても、法的責任という観点にとどまらず、企業体力を勘案した資金繰りを見据える必要もある。そこには、レピュテーション回復のために問題製品の製造停止と工場の長期閉鎖や広範囲の製品回収などといったトップマネジメントの意思決定も反映しなければならない。もちろん、これら一連の方針や施策について、積極的な開示やステークホルダーコミュニケーション戦略も必須である。

トップダウンによる統合的プロジェクト管理が鍵

このように、クライシスの内容や状況によってRecoveryステージで多数の複合的なプロジェクトを走らせる必要がある。Recoveryステージになると、時間の経過とともに、これらのプロジェクトが個別プロジェクトとして組織の機能ごとの分業となりがちである。しかしながら、Recoveryステージを成功させるには、これらを統合的なプロジェクトとして、組織がクライシス前の状態に回復するまでトップマネジメントの指揮下で統合的に管理しなければならない。

Recoveryステージでもさまざまな重要な意思決定を連続して行う必要があるが、そこには正解というものはなく、経営判断の問題となる。したがってトップの指揮下で統合的に管理されずに分業体制となると、方針や方向感がぶれたり、タイミングが遅れたりといった問題が起こり、ステークホルダーからの信頼もなかなか回復できないばかりか、場合によっては企業の業績回復の機会を逸し、再生を通り越して企業の存続そのものが危うくなりかねない。

外部専門家の活用が成否を分ける

Recoveryステージは個別の事象への対処ではなく、経営そのものの舵取りであり、法律面のみならず、事業実態や数字をしっかり把握することが肝要なのである。デロイト トーマツでは、事業会社で自らクライシス対応をリードした経験をもつ専門家も含め、さまざまな専門家が総合的支援をする体制を整えている。また、事と次第によってはRecoveryステージでトップマネジメント自体が交代する場面もありうる。内部あるいは外部から急遽新たに経営を担うことになったチームにもResponseステージに加え、Recoveryステージでも外部専門家の支援は必要であろう。

 

まとめ

デロイト トーマツはResponseステージでの事実調査、クライシスコミュニケーション、24時間モニタリング等の面で多くの企業支援を行ってきたことはもちろん、ReadinessやRecoveryのステージでもグループの総力を結集して、多くの企業を支援してきている。必要に応じてデロイトグローバルの総合力をもって即応体制を取ることもある。例えば、東日本大震災やタイの大洪水でも多くの日系企業が被害を被ったが、世界各国からデロイトの専門家が現地に結集し、多くのクライアントを支援した。このような大規模自然災害への対応はもちろん、個別企業のさまざまなクライシスに対しても三つのRのすべてのステージで多くの支援の実績がある。
 

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