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海外拠点の監査

内部監査の新潮流シリーズ(4):国内拠点とは異なる環境にある海外拠点に対しては実情に応じた内部監査が求められます。

日本企業の海外展開がますます拡大していますが、海外拠点に対するガバナンスの構築・維持が難しく、海外拠点に対する内部監査の重要性が高まっています。一方で海外拠点の監査には様々な制約による困難が伴い、効果的なグローバル内部監査体制の構築が必要です。内部監査の手順は国内監査と大きく異なるものではないですが、海外拠点ならではの想定外のトラブルが生じるのが常であり、しっかりと準備し臨機応変に対処する必要があります。

デロイト トーマツでは、「内部監査の新潮流」と題して内部監査のトピックスを全24回にわたり連載いたします。前半は、内部監査の基礎となる事項をとりあげ、後半は次世代の内部監査に求められる最新のトピックスを取り上げます。全24回の詳細はこちらのページをご覧ください。

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海外拠点監査の必要性

グローバリゼーションの進展に伴い、日本企業はその事業活動の範囲を海外に広げています。人件費等のコスト削減のために海外に生産拠点を移したり、少子化、老齢化等の理由により量的拡大が見込めない国内マーケット事情を背景に、これまでは国内販売中心だった小売業等のサービス産業が海外展開に活路を見出したりするケースが多くあります。

一方で海外拠点は日本本社より地理的に離れているだけでなく文化や商習慣の違いもあり、効果的なガバナンスの構築・維持が困難です。過去においては海外子会社における不祥事が、企業グループ全体の屋台骨を揺るがしかねないほどの大きな金額的影響や、レピュテーションの毀損に発展してしまった事例も生じています。したがって、海外拠点におけるリスクマネジメントと内部監査は、海外進出を行っている日本企業にとって以前と比べ飛躍的にその重要性が高まっています。では実際、日本企業は海外拠点の内部監査にどのように取り組んでいるのでしょうか。一部の海外進出歴が長い大企業を除いては、国内拠点に対する監査ほど力を入れていない、もしくは実施したくても様々な事情で十分にできていないという企業が多いようです。

 

海外拠点監査の困難性

国内の拠点に関する監査と比べ、海外の内部監査が難しいのは以下の事情によります。

(1)距離、時差、コスト

親会社から出張で海外拠点に監査に行く場合、当該国に到着するまでの移動に数時間~数十時間を要します。さらに、往査日程も含めると最短でも1社1週間程度の出張となります。出張のための航空運賃、宿泊代等のコストも負担となります。近年はコロナ禍でリモート監査を積極的に導入する企業が増えていますが、時差により内部監査人の深夜勤務等の負担が大きなものとなっている状況です。

(2)言語

内部監査手続きはヒアリングと書類閲覧が占める割合が大きいが、その際に言語の違いは大きな問題となります。ヒアリングは英語を共通言語とすることで対応できることが多いですが、閲覧する関連書類については英語以外の現地語のままということが多いです。必要な全ての文書を社外の専門家に翻訳させることも現実的ではなく、言語は海外拠点内部監査の非常に大きな障壁となっています。

(3)制度、文化、習慣

会社法や税法を含む法令等は一般に国や地域ごとに異なります。たとえ日本企業の100%子会社であっても、現地の法令に基づいて事業を行う必要があることはいうまでもありません。法令遵守領域を監査対象とする場合には、内部監査人は現地の法規制を理解する必要があります。

後進国では、国民1人当たりの所得、犯罪や贈収賄の発生率等は日本の水準と大きく乖離しています。現地の法令や文化、習慣では大目に見られている行為であっても日本の法令により処罰の対象となる場合があります。先進国では個人の権利意識が一般に高く、日本人にとっては比較的些細と思われることでも、巨額の賠償金を求める集団訴訟や、当局からの罰則、罰金の対象となってしまうリスクがあります。このように、拠点の所在する国によって法制度や文化、習慣が日本と異なっており、さらに各国それぞれに事情が異なります。内部監査の実施に伴い海外拠点のリスクを洗い出し評価する際には、日本の常識が必ずしも適用できないことに十分留意する必要があります。

(4)海外内部監査スキル・要員不足

上記の海外固有の事情を考慮すると、海外内部監査を実施する際は、監査を実施しようとする国の言語や法制度、文化、習慣に明るく、かつ必要な内部監査スキルを兼ね備えた人材が必要となります。多くの日本企業において、社内にこのようなスキルを保有している人間が見当たらず、監査を実施したくともできないという状況が十分ありえます。実務上は、日本企業にとって、この海外監査スキル・要員不足が海外拠点監査にとっての一番深刻な障壁となっていると思われます。

 

海外拠点監査を実施するグローバル内部監査体制

海外拠点の内部監査をどのような体制で臨むかということは重要な問題です。(1)日本本社に監査機能を集中する体制(集中型)、(2)海外にも監査機能を設置する体制(分散型)に大別できます。以下がそれぞれの体制の特徴です。

(1) 日本本社に監査機能を集中する体制(集中型)

この体制は日本本社の内部監査部門が、海外の拠点の全てをカバーする体制です。海外拠点の数が少ないうちは、効率面で有利です。海外拠点数が増えてくると監査効率の観点で海外にも監査機能を設置することが選択肢となってきます。日本国内に事業ノウハウが蓄積されていないビジネス領域の海外子会社を企業買収により取得した場合等も、ビジネスを理解する内部監査人による効果的な監査を実施するために、内部監査機能を現地に設置することを検討する必要があります。

(2)海外にも監査機能を設置する体制(分散型)

海外にも内部監査機能を設置する場合、ある程度以上の規模の子会社それぞれに内部監査部門を設置することが考えられます。また、北米地区、欧州地区、中国、アジアといった地域内の財務や法務等の管理業務を統合する目的で地域統括会社が設立されている場合には、地域統括会社に内部監査部門を設置し、そこに傘下の子会社の監査を集中的に実施させているケースもあります。 

これら(1)日本本社に監査機能を集中する体制および(2)海外にも監査機能を設置する体制に関して、体制別のメリット、デメリット、留意点は以下に解説します。

 

海外拠点監査体制ごとのメリット・デメリット
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海外拠点監査実施上の留意点

日本本社の内部監査部門から出張により海外拠点を往査することを想定して、内部監査の流れを大きく(1)国内における事前準備、(2)海外拠点往査、(3)監査報告および帰国後のフォローアップという3フェーズに分けて解説します。

 

(1) 国内における事前準備

国内において実施する事前準備は、年度計画策定、個別監査計画策定、個別監査事前調査の3つに分けることができます。

年度計画策定ではまず監査対象拠点の選定が行われます。国内拠点同様に拠点ごとのリスク評価を実施した上で、リスクが高く監査が十分に行われていない拠点を優先的に選定すべきです。次にリソース確保ですが、海外監査に対応できる要員には制限があります。社内の内部監査スタッフが出張するにしても、あるいは外部専門家に委託するにしても国内と比較して拠点当たりの内部監査コストは高くなり、海外監査初年度は監査規程、監査マニュアル、監査手続書等を開発するためリソースの負荷も大きくなりがちです。これらの諸状況を勘案し、年間に必要なリソースを見積もり、年度枠を予め確保しておく必要があります。

リソースを大枠で確保したら、監査対象の拠点と監査日程等のスケジュール調整を行います。年度決算や予算策定等の業務繁忙期、夏のバケーションシーズンや、クリスマス等の宗教的なイベントの時期も、地域によっては担当者の休暇等で監査を実施できない場合が多いです。複数の拠点を持つ日本企業にとっては、この調整が困難です。また、監査法人等の外部専門家に委託する場合には、監査対象ごとに必要なスキル要件(例:会計、サイバー、業界固有の知識等)を明確に伝え、該当する外部専門家を事前に確保することも必要です。海外拠点往査の日程決定後、なるべく早目に依頼したほうが、要件を満たす人材を確保できる可能性が高くなります。

個別監査計画として監査対象、監査概要、監査基準日、監査日程等が決定したら、拠点責任者に対して正式に「内部監査通知書」を送付します。往査までに国内で実施する事前調査に必要な関係書類の送付や、往査時に閲覧するため現地で必要な関係書類、現地ヒアリングの準備、工場視察等を依頼します。混乱を避ける目的で予めチェックリスト形式の一覧表を作成し、通知書に添付するとよいでしょう。

依頼した書類等を入手したら事前調査を実施します。事前調査の結果を踏まえ海外拠点を統括する部門の担当者、責任者にヒアリングを実施し、監査対象拠点のリスクや統制環境に関する情報を入手し、監査手続書に反映させます。海外拠点用の監査手続書の作成に関しては、一般に国内向け標準監査手続書をベースに、海外用に修正して活用しているケースが多くあります。国内向け標準監査手続書を海外用に修正する際には、特に以下の点に留意する必要があります。

  • 法令遵守関連の監査項目を中心に、拠点が所在する国の最新法令、規制を手続に反映する。
  • ヒアリングや資料閲覧等の事前調査で把握したリスクの高い分野を選択し、関連する監査項目の手続に反映する。
  • 経営現地化の進展状況や日本本社からのモニタリング、現地のガバナンス状況を考慮し、関連する監査項目の手続に反映する。

 

(2)海外拠点往査

拠点の所在する国に出張しての往査実務は、監査開始説明会、本調査、現地講評会の3つに分けることができます。

監査開始説明会は通常監査初日に実施され、往査チームと拠点主要メンバーが一堂に会します。往査チーム責任者が往査メンバー全員を紹介した上で、監査の背景、目的、スケジュール等を説明し、往査期間中の協力を依頼します。また、拠点責任者からは、現地の主要メンバーとそれぞれの担当職務の紹介を受けます。日本の本社から内部監査に来たというだけで、現地のメンバーは緊張し、防御的な姿勢になりがちです。内部監査の趣旨がいわゆるあら探しにあるのではなく、今後の拠点運営に役立つ改善提案を行うことにあることをこの場で伝えて協力を依頼します。監査開始説明会はセレモニー的な要素もありますが、効果的に実施すれば往査期間中のヒアリングや調査活動がよりスムーズに進められます。

監査開始説明会が終了したら、早速本調査に入ります。本調査の基本は監査手続書に記載されたとおりの監査手続を実施することにあり、これは国内拠点の監査と同じです。海外では予め作成した監査手続書が現地の状況に適合しない場合があります。このような場合には監査項目のリスクを念頭に代替的な手続を実施し、その旨監査調書に記載した上で結果を記録します。さらに、国内での事前調査段階ではわからなかった新たなリスクが現場で発見された場合には、サンプル数を増やす、調査対象期間を拡大する等の追加的な手続を実施します。手続を追加する際は、そのリスクの重要性に応じて臨機応変に実施する必要があります。

本調査終了後、通常往査日程の最終日に現地講評会を実施します。この講評会を開催する目的は、実施した監査の内容とその結果を拠点責任者および関係する主要メンバーにフィードバックすることです。さらに、発見事項の内容を伝え、改善方法を話し合うことも重要な目的です。発見事項一覧の形に取りまとめて説明するとよいでしょう。

講評会で重要なことは、往査チーム側が発見した事実に誤りがないことを関係者に確認するということです。事実確認を終えた後は、拠点責任者と往査チームが提案した改善案について討議します。指摘事項に対し、拠点のリソース等の現状を踏まえ、提案した改善案が現実的かどうか、現実的でないとしたらどのような改善策なら実施可能なのかについて議論します。

 

(3)監査報告および帰国後のフォローアップ

往査時に前述の作業を全て終了し帰国した後は、内部監査の最終行程である内部監査報告書を作成します。報告書に記載すべき内容は内部監査の概要、総合所見、個別所見、指摘事項、拠点責任者からの改善計画等です。この内部監査報告書を社内規程等で定められているとおりの報告先(社長、担当役員等、場合により拠点責任者にも写しを送付)に提出し報告します。

内部監査報告書の提出をもって、海外拠点の内部監査実務は一旦終了ですしかしながら、内部監査の本来の目的は、当該海外拠点がその目標を達成するために役立つ改善を提言し実施してもらうことにあります。したがって、一定期間経過後に拠点責任者が回答した改善計画の実施状況を確認することが重要です。

 

これらの内容につきまして、詳しくは「内部監査実務ハンドブック」をご覧ください。

 

また、トーマツでは「次世代の内部監査への変革を本気で取り組もう」という会社様向けに「次世代内部監査提言サービス」を始めました。外部品質評価(診断)や内部監査ラボなどを通してInternal Audit 3.0フレームワークとのFit & Gap分析を実施し、各社の実情に合った次世代内部監査モデルを提言いたします。ご興味のある方はぜひトーマツの内部監査プロフェッショナルまでお問い合わせください。

 

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