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「上場企業における不祥事予防のプリンシプル」について

中長期的な成長を阻害する不祥事を自律的に防止・発見するために

2018 年3月30日に日本取引所自主規制法人は「上場企業における不祥事予防のプリンシプル」の策定を公表しました。企業不祥事は、企業を取り巻くステークホルダーからの信頼を失い、企業価値を大きく毀損する原因となります。このような不祥事を自律的に防止・発見し、中長期的な企業価値の向上を図るために、上場企業に求められる行動原則と位置づけられる本プリンシプルについて解説します。

上場企業による不祥事が多発したため、不祥事を防止・発見する体制に関するプリンシプルが策定された

近年、大手の上場企業における不正会計や製品品質の改ざん、労働基準法違反等のコンプライアンス違反事件が大きく報道されています。

このような重大な不正・不適切な行為、すなわち不祥事は、その内容を問わず、企業価値の毀損を招きます。また、このような不祥事について、企業が主体的に発見し公表に至ったのではなく、外部からの指摘により発覚するケースも多く、自律的に不祥事を防止・発見する体制が不十分であったと言えます。そのため、不祥事の発生そのものを予防する取り組みが上場企業の間で実効性を持って進められることが必要です。

また、このような状態を放置することは、資本市場から日本の上場企業全体のコンプライアンス意識が希薄なのではないかという疑念の目が向けられ、市場全体の信頼性を失うことにつながります。

そこで公正かつ透明な市場を構築するため、日本取引所自主規制法人が、不祥事の予防にあたり上場企業に期待される行動原則を取りまとめたものが、「上場企業における不祥事予防のプリンシプル」です。

本プリンシプルは上場企業に事前対策として期待される行動原則である

本プリンシプルは、すべての上場企業を対象としており、不祥事を予防するために平時の事前対応として期待されている行動原則です。

上場企業の不祥事対応への取り組みは、ガバナンス体制や規模、業態などにより異なるため、各社の実態に即して決められるべきであり、一律のルールとすることは困難です。そのため本プリンシプルは、いわゆる「プリンシプル・ベース」の指針として策定されました。規制ではないため、充足度が低いことを直接の理由として罰則が科されるものではありません。

不祥事予防のための「6つの原則」が示された

本プリンシプルは6つの原則からなります。各原則について、その内容を説明する「解説」と「不祥事につながった問題事例」が示されています。

各原則の関係について、不祥事発生を未然に防止するサイクルの定着を目指す原則4の目的を果たすために、原則1~3の各視点からの取り組みを求めています。これに加え、昨今の特徴的な不祥事事例から教訓として得られた2つの視点として、原則5のグループ会社経営と原則6のサプライチェーンを据えています。
 

原則1:実を伴った実態把握

自社のコンプライアンスの状況を制度・実態の両面にわたり正確に把握する。明文の法令・ルールの遵守にとどまらず、取引先・顧客・従業員などステークホルダーへの誠実な対応や、広く社会規範を踏まえた業務運営の在り方にも着眼する。その際、社内慣習や業界慣行を無反省に所与のものとせず、また規範に対する社会的意識の変化にも鋭敏な感覚を持つ。
これらの実態把握の仕組みを持続的かつ自律的に機能させる。
 

自社のコンプライアンスの実態の正確な把握を求めており、解説として、以下の点を踏まえることの重要性が示されています。

  • コンプライアンスに係る制度や運用状況だけでなく、自社の弱点や不祥事の兆候を認識すること
  • コンプライアンスには明文の法令・ルールの遵守だけでなくステークホルダーへの誠実な対応を含むこと
  • 通常の業務のレポーティングラインのほか、内部通報や外部からのクレーム等、実態把握の仕組みを持続的・自律的に機能させること
  • 自社の状況や取り組みを対外発信し、外部からの監視による規律付けを機能させること
原則2:使命感に裏付けられた職務の全う

経営陣は、コンプライアンスにコミットし、その旨を継続的に発信し、コンプライアンス違反を誘発させないよう事業実態に即した経営目標の設定や業務遂行を行う。監査機関及び監督機関は、自身が担う牽制機能の重要性を常に意識し、必要十分な情報収集と客観的な分析・評価に基づき、積極的に行動する。
これらが着実に実現するよう、適切な組織設計とリソース配分に配意する。


コンプライアンスに係る経営陣と監査機関及び監督機関に求められる行動が示されており、解説として、以下の点を踏まえることの重要性が示されています。

  • コンプライアンスに対する経営陣のコミットメントを明確にし、全社に浸透させること
  • 監査機関である監査役等と内部監査部門、監督機関である取締役会や指名委員会等によるけん制機能を発揮させること
原則3:双方向のコミュニケーション

現場と経営陣の間の双方向のコミュニケーションを充実させ、現場と経営陣がコンプライアンス意識を共有する。このためには、現場の声を束ねて経営陣に伝える等の役割を担う中間管理層の意識と行動が極めて重要である。
こうしたコミュニケーションの充実がコンプライアンス違反の早期発見に資する。


執行機関の階層のうち、経営陣と現場部門のコミュニケーションの充実が示されており、解説として、以下の点を踏まえることの重要性が示されています。

  • 現場と経営陣の双方のコンプライアンス意識の共有を図ること
  • 現場と経営陣をつなぐハブとなる中間管理層の機能を十全に発揮させること
  • 現場と経営陣の間の双方向のコミュニケーションの定着化を図ること
原則4:不正の芽の察知と機敏な対応

コンプライアンス違反を早期に把握し、迅速に対処することで、それが重大な不祥事に発展することを未然に防止する。早期発見と迅速な対処、それに続く業務改善まで、一連のサイクルを企業文化として定着させる。


不祥事につながる可能性がある「不正の芽」となるコンプライアンス違反を早期に把握し迅速に対処することを求めており、解説として、以下の点を踏まえることの重要性が示されています。

  • 原則1~3の取り組みを通じたコンプライアンス違反の早期把握と迅速な対処への取り組みをおこなうこと
  • 経営陣が取り組み姿勢や実績を示して全社的なコンプライアンス意識を涵養すること
  • メリハリをつけ、要所を抑えた対応を継続しておこなうこと
原則5:グループ全体を貫く経営理念

グループ全体に行きわたる実効的な経営管理を行う。管理体制の構築に当たっては、自社グループの構造や特性に即して、各グループ会社の経営上の重要性や抱えるリスクの高低等を踏まえることが重要である。
特に海外子会社や買収子会社にはその特性に応じた実効性ある経営管理が求められる。


グループ会社で発生した不祥事は上場企業の企業価値に甚大な影響を及ぼすことから、企業集団単位での経営管理の重要性を示しています。

原則6:サプライチェーンを展望した責任感

業務委託先や仕入先・販売先などで問題が発生した場合においても、サプライチェーンにおける当事者としての役割を意識し、それに見合った責務を果たすよう努める。


委託・受託・元請・下請・アウトソーシングが一般化している実態を踏まえ、上場企業がサプライチェーン全体を展望し、先を読んで危機に備えておくことの重要性を示しています。

詳しくはこちらをご覧ください。
「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」の策定について(外部サイト PDF)

デロイト トーマツは、本プリンシプルに基づく体制構築や開示を支援します

本プリンシプルはすべての上場会社に対応が求められているものの、「プリンシプル・ベース」の指針であり、具体的な行動や対応について、細則が定められているわけではありません。そのため、各企業が自社の状況を踏まえた体制を構築・運用し、その体制の有効性を確かめる必要があります。また、取り組みについてステークホルダーに開示することで、企業価値の向上にも貢献していることを理解してもらう工夫が必要です。

デロイト トーマツは不祥事対応、コーポレートガバナンスの強化、内部統制の再構築、高度化などの豊富な実績があり、不祥事予防に関するベストプラクティスの知見を有しています。本プリンシプルに基づき、企業の状況に即した不祥事予防体制の構築と開示をデロイト トーマツが支援します。

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