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グローバルガバナンス高度化の取組みのポイント

経営者は本社、および国内外のグループ企業の業務の適正を確保するために、目指すビジョンを達成するための戦略や、それを成功させるための計画、組織、制度、インフラ、プロセスなど多くの要素を整合させ、それを運用する人材を育成することが必要です。これらは「グローバルガバナンス・フレームワーク」に整理することが出来、以下ではその具体的な取り組み事例を紹介します。

1.グローバルガバナンス高度化の検討プロセスに関する事例

本稿ではまず、「グローバルガバナンス・フレームワーク」について、実際の取組み事例をもとに、標準的な検討プロセスの内容と、取組み上のポイントや留意事項を解説します。

<図表1>デロイト トーマツが考える「グローバルガバナンス・フレームワーク」

デロイト トーマツが考える「グローバルガバナンス・フレームワーク」
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Step1:現状課題の把握

グローバルガバナンス高度化にあたっては、まず現状の体制のどこに課題があるかを診断することが出発点となります。現状課題の把握方法としては、1)関係当事者へのヒアリング、2)評価モデルを用いた同業他社比較(詳細は下記「2.Maturity Modelを活用した現状診断の事例」を参照)等があります。実務的には、通常1)のみ実施、あるいは、1)と2)の併用等のパターンが考えられますが、グローバルガバナンスに関する課題は、各社毎に個別具体的な論点を含んでいるため、関係当事者に対するヒアリングは必ず実施すべきプロセスです。

ヒアリング対象の候補としては、通常、本社機能部門、本社事業部門、(ある場合)地域統括会社、中核となる海外子会社等が考えられます。
 

【取組み上のポイント・留意事項】

実際の事例では、海外事業は国際部、国内事業は経営企画部という役割分担で事業運営をしていた会社が、国際部を中心にグローバルガバナンス高度化を進めようとしたところ、経営企画部との間で役割分担を巡る主導権争いが発生し、推進体制の社内整理ができるまでプロジェクトが一時頓挫したというケースがあります。そのため、事業、機能、地域、資本関係等の軸の優先順位、将来的な各部門の役割分担や社内政治の力関係の変化といった観点にも目を配りながら、キーパーソンの巻き込みを意識したヒアリングの設計・実施が重要となります。

 

Step2:制度・体制の設計

次に、Step1の関係当事者ヒアリングで洗い出した課題の全体像に基づき、課題に対応できるような制度・体制を設計するフェーズです。具体的には、以下のような道具立ての中から、対象会社の状況に対応した処方箋を講じていきます。

 

A) 基本方針策定

グローバルガバナンス高度化を進める上では、まず基本となる理念や目的等を定めた最上位の方針を策定することが重要です。具体的な内容としては、既にある企業理念や倫理綱領をグローバルに解釈しまとめる精神的な部分と、グローバルでのガバナンスのあるべき姿を記載した部分という2つから構成される場合が多いです。
 

【取組み上のポイント・留意事項】

具体的に、基本方針がどのような粒度・レベル感の文書となるかは、各社のグローバルガバナンス体制(規程類の現状、関係各部門の役割分担)の整備状況次第となります。

例えば、グローバルなグループ内の役割分担(機能、事業、地域、資本関係等)が相応に整理されている場合は、その上に配置されるべき憲法のような理念や大きな考え方を示した「上位文書」を作成することになります。しかし多くの日本企業においては、そのような役割分担が明確でない場合がほとんどであり、その場合には、以下B)とC)で述べる規程類の分析や本社各部門の役割分担の再整理等を通じ、既存の規程類や業務分掌では対応できていない部分、つまり、機能、事業、地域、資本関係等の軸が錯綜し機能不全を起こしている部分を特定し、権限や報告ルートの交通整理を行う文書を策定することとなります。場合によっては、規程類の体系整備、本社各部門-地域統括会社-海外グループ会社の役割分担の再整理等を実施するため、より分量が多くなることは想像に難くありません。

 

B) 規程類体系の整備

上記A)の基本方針の文書化を進めるために必要となる分析作業の一つです。既存規程類を整理・分析し、グローバルガバナンスに関わる重要規程を絞り込み、ヒアリングで把握した課題感に基づき、既存規程類でカバーされていない部分を明らかにしていくことが重要です。また既存規程類の数が膨大である場合、グローバルに適用すべき重要な規程とそうでない規程(日本国内のみで適用する規程)との区別をつけ、軽重を付けた管理を行っていくということも現実的な観点から必要です。
 

【取組み上のポイント・留意事項】

実際のある事例では、経営企画部の力が弱く、海外について本社で各役割を果たす部門を束ね、全体を取りまとめる機能が十分ではありませんでした。そのため各機能部門が各々担当する分野に関する海外ルールを自由に発信する一方、全体を取りまとめた鳥瞰図的な把握が社内でなされていない(結果として全体最適が確保されていない)という弊害がありました。そこで、分野毎に各種規程類の上下の関係を整理する目的で、規程類 を新たに策定し、グローバルに適用すべき規程類の体系を策定し、関連する項目につき各種規程類間の優先劣後関係を明確化しました。

 

C) 本社各部門の役割分担の整理

上記B)と同様、基本方針を文書化するにあたっての前提として、関係当事者ヒアリングで把握した課題に基づき、機能、事業、地域、資本関係等の優先順位の考え方等に沿って、本社各部門(特に機能部門)の役割分担を再整理していくことが必要となります。この際、本社各部門の既存の役割分担や意向には留意しつつも、全体最適の観点から、業務移管や廃止を含め、あくまでゼロベースで役割分担の見直しを検討することが肝要となります。

 

D) グローバルガバナンスハンドブックの策定

上記A)~C)を通じ、規程類や各部門役割分担の再整理に基づく、グローバルガバナンス基本方針が整備できますが、あくまで規程であるため、これだけでは各部門や海外グループ会社に対し浸透を促進するのは難しい場合も多いです。そのような際に作成するのが、グローバルガバナンスハンドブック(以下「ハンドブック」)です。

これは、海外を含めたグループ会社に対し、経営管理、経理、財務、コンプライアス、法務、IT、内部監査等の各領域における、基本的なグループとしての考え方と、海外グループ会社に対し最低限求める要請事項等について、わかりやすく記載した手引書です。規程だけでなく、このようなハンドブックを整備することにより、特に海外グループ会社の経営層や管理職が、本社のグループガバナンス方針に則った経営管理を行う際の一助となると考えられます。ハンドブックの項目と記載イメージとしては、例えば、以下のようなものが挙げられます。

<図表2>グローバルガバナンスハンドブックの項目例と記載イメージ

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E) モニタリング体制の整備

モニタリング体制としては、3つのディフェンスライン*1の考え方に基づき、第2のディフェンスライン(本社機能部門)、第3のディフェンスライン(本社監査部)を構築し、3つのディフェンスラインの相互牽制を確保していくことが重要です。その場合、課題となるのが、第2のディフェンスライン(本社機能部門)、第3のディフェンスライン(本社監査部)双方での海外経営管理人材の不足です。

*1  組織がリスクとコントロールを管理する際、3つのディフェンスライン(具体的には、第1のディフェンスライン(主に業務執行部門)、第2のディフェンスライン(主にリスク管理部門)、第3のディフェンスライン(主に内部監査部門)をいう)に分けて、各々の役割と責任を検討・整理する考え方。

 

【取組み上のポイント・留意事項】

実際のある事例では、国際部に海外人材が集中しており、監査部や他の本社機能部門は海外に対応できる人材がいない状況でした。そのため、一定の集中移行期間(例:半年間)を設け、その間、国際部、その他本社機能部門、監査部から人材を集めたクロスファンクショナルチームを組成し、海外グループ会社に対するパイロットモニタリングを実施しました。これにより、国際部が持つ海外のノウハウ、監査部が持つ監査ノウハウ、本社機能部門が持つ各専門分野のノウハウを相互に吸収することが可能となり、OJTによる実践的な海外経営管理人材のプール及び育成に繋がることとなりました。

 

2.Maturity Modelを活用した現状診断の事例

海外子会社の管理を強化・高度化するにあたって、まずは現状の管理レベルがどの程度成熟しているか、自社のレベルを客観的に確認する必要があります。その際に、同業・同規模の他社と比較して、自社の管理機能の強み・弱みを明確に認識することが肝要です。

デロイト トーマツでは、自社の各管理機能を「ビジョン・戦略」「人・組織」「業務・プロセス」「システム・インフラ」「ルール・規程類」の5つの観点から分析・評価することを推奨しています。それぞれの観点を更に複数の質問・確認項目に細分化することで、客観的に成熟度が判断出来るように設計しています。

その結果、自社の強み・弱みを理解した上で、全社的に取り組むべき課題・強化するべきポイント・対応方針が明確になり、その際の評価として、「Deloitte Maturity Model」があります。

具体的には<図表3>のように、機能ごとに成熟度のLevelを評価し、レーダーチャート等のツールを用いて、競合他社と比してどの機能のどの部分が脆弱かを可視化します。

<図表3>Deloitte Maturity Modelを用いた評価(例)

Deloitte Maturity Modelを用いた評価(例)
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現状診断の結果、検出される問題点・課題は会社毎に全く異なりますが、デロイト トーマツがこれまでに直面した事例から、一般的には下記のような問題点・課題が多く見られています。

<図表4>現状診断時にみられる一般的な課題

現状診断時にみられる一般的な課題
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デロイト トーマツ グループは、「グローバルガバナンス高度化」の専門家チームを設置し、数多くのコンサルティング提供実績に裏打ちされたメソドロジーに基づき品質の高い業務を提供する体制を構築しています。グローバルガバナンスの高度化に向けた施策をご検討の組織の方は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

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