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Chair of the Future - 取締役会議長インタビュー

株式会社日立製作所 望月 晴文氏

デロイトでは、取締役会や経営幹部の皆様が共通して関心を寄せる重要なトピックに取り組むべく、「Deloitte Global Boardroom Program」を実施しております。このプログラムの一環として「取締役会議長」にフォーカスをあて、インタビューを実施しました。

<プロフィール>
株式会社日立製作所
社外取締役(取締役会議長)
望月 晴文 (Mochizuki Harufumi)

1973年に通商産業省入省。2002年には経済産業省大臣官房商務流通審議官を務め、2003年に同省中小企業庁長官、2006年に同省資源エネルギー庁長官、2008年に経済産業事務次官、2010年に内閣官房参与を歴任。

2012年に株式会社 日立製作所の社外取締役となり、2018年には同社取締役会議長に就任。

“取締役間で意見が割れるような場面で、執行側の意見も踏まえて今後の調整が可能かどうかを考えながら議事進行して結論を出すことが議長の役割“

Q. 取締役会議長就任後の意識・役割の変化や、メンバーの意見を引き出すために意識していること

A. 現在の取締役会は、13名のうち私を含め独立社外取締役が10名という構成となっております。実際の取締役会では、普通の議題だったら1議題につき1時間くらい討議しており、ほぼ全員が意見を述べています。社外取締役からは、本当に様々な意見が出るため、自分が意見を言うというよりも、議長として各取締役の意見の取りまとめや、議論の時間管理、論点が漏れないよう俯瞰した議事進行をしていくことが重要だと思っています。また、取締役会内のダイバーシティが進んでいるので、国籍・性別・業種などのバックグラウンドを考慮しながら、順次ご発言いただくことを意識しています。私はアジェンダ毎にご発言頂く取締役を決めるようなことはせず、みなさんに自由・公平にご発言頂くようにしています。経営に対する考え方や国際性などのコアとなる要素は、取締役全員が持っていると思っているからです。

 あと、重要な案件について、取締役間で意見が割れたときに適当なところで議論を尽くし可決するかどうかという判断が議長には求められているので責任は感じます。この場合、①議論終了とともに可決する、②あるいは採決しないで一旦反対と指摘された方の問題点を執行側で再考してもう一回提案してもらう、③否決する、という3つの選択肢があります。この選択において、議長には判断力が問われていると思います。頻繁にあるわけではないですが、そういうギリギリの場面では、CEOをはじめとする執行側の意見も踏まえて、今後上記のような調整が可能かどうかを考えながら議事進行して結論を出すことが、議長としての一番の役割かと思います。自らの意見は最後に短く言うことにしており、この点が議長になる前と後の変化だと思っています。

 そのために、事前説明の充実や報告の簡素化を通じ、会議の効率化を図っています。事前説明の際には、案件の担当部署と取締役会室からの説明に加え、議題によっては、事前に開催されている執行役会の録画も見ていただいております。例えば、中期経営計画策定の過程や進捗状況について議論した執行役会の録画を社外取締役に配信しました。これらの対応により、取締役会では執行役会の報告に付随する内容は割愛し、なるべくディスカッションに時間を割く形にしています。

Q. コロナ禍前後で中長期の戦略・事業計画についての議論の変化

A. 直近の約2年ほど、コロナ禍によって、一次的に変化した部分と恒久的に変化した部分があると思います。

 2つの大きな変化があって、1つめはデジタル化の進展がコロナ禍によって加速したことです。コミュニケーションのやり方の変化や働き方がリモートになることによってデジタル化が進み、世の中が変化しました。
日立の中長期の戦略・事業計画には、もともとデジタル化への大きな流れはありましたが、コロナ禍によってその時間軸、スピードが上がりました。そして、日立のお客さまが以前よりデジタルを意識するようになったことで戦略のスピード感と幅広さに変化があり“デジタル化”が脚光を浴びるようになったと思います。

 2つめは、コロナ禍と直接的な因果関係はないかもしれないですが、先進国がカーボンニュートラルにコミットし始めたということです。2050年に実質ゼロカーボンを目指すということは、2050年には今ある技術はみな陳腐化しているわけですから、そこに向かう道筋は圧倒的な技術開発のための資源を直ちに投じないといけないということが推測されています。したがって、今の技術の延長戦で物事を捉えるのではなく、2050年からバックキャストして物事を捉え、道筋を描くためには大胆なイノベーションが必要であり、それがグローバルスタンダードになっていると思います。日立にもエネルギーのある種の専門的な事業分野があり、関わり合いがあることなので、バックキャストして議論すべきことが山のようにあると思います。

 デジタル化とカーボンニュートラル戦略が、日立の社会イノベーションにおいて二つの大きな柱になっており、現在の中長期経営戦略は数年前に考えていたものに比べて、はるかに変貌しています。加えて、サステナブルな企業であるためにどうしたらいいのか?という意識は強くなってきたと思います。

 また、2021年の初めくらいから、社外取締役の皆さんも関心が高いリスクマネジメントの議論を取締役会で増やすようになりました。サイバー攻撃や今回のパンデミックなど、日立がグローバルでビジネスを行っていくうえで、経営に大きな影響を与える可能性があることが世界中で起きており、リスクについて注意を払いながら経営をしていかないと予想もつかないことが起きてしまうということをリアルな現実として感じています。そこでチーフリスクマネジメントオフィサーに定期的に現状や問題点を報告してもらっています。

Chair of the Future - 取締役会議長インタビュー : 株式会社日立製作所 望月 晴文氏 (PDF, 3.5MB)

“取締役会メンバーと執行メンバーの両者がお互いにリスペクトすることが大事“

Q. 企業と社会の関係変化、特にサステナビリティ動向・気候変動

A. 日立は日本企業では唯一、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)のプリンシパル・パートナーとして参加しており、その役割を果たすためにも環境問題・気候変動問題には積極的に取り組んでいます。

 自社の事業、技術、プロダクツといったものだけに視点をおいて物事を考えると見落とすところがあるので、日立という企業が、地球環境問題のなかでどういう位置づけで、どのような役割を果たすべきなのか、ということを軸に物事を見ていくことが必要だと思います。環境問題・気候変動問題に対し革新的な役割を担うべく、各事業が連携して何ができるか、社会課題の解決にどう結び付くか、議論しています。日立自身のCO2の問題であると同時に、サプライチェーン全体やマーケットとの関係で日立の貢献すべきことを考えています。

 また、私は報酬委員会の委員長も兼務しておりますが、売上・利益という業績だけでなく、気候変動問題への寄与というのも個々の役員に役割を果たしてもらうべく、報酬制度の中で評価に取り入れる試みを行っております。

Q. 東証市場区分見直し、コーポレートガバナンス・コードの改訂などガバナンスに関する資本市場の要請

A. 日立はこれまでコーポレートガバナンス・コードに対し、エクスプレインというよりコンプライしようという姿勢をとってきたと思っています。だからこそ現在の取締役会の構成・運営となっています。私は、それが今の日立の強みになっていると思います。2009年に赤字を出した後、様々な改革を2、3年かけて遂行しました。さらにはグローバルリーダーとして、海外でも通用する会社になろうということを決心し、体制を整えてきました。これはコーポレートガバナンスが、日立の体力、戦闘力を高めたという結果だと思っています。

 コーポレートガバナンスというのは、社会的に使命を持った立派な企業であるべきだということももちろんありますけれども、それ以上に株主やステークホルダーの皆さんが企業に寄り添っていこうという気になるような強い会社になる指針だと捉えております。

Q. 対面ではなくオンライン形式での議事運営を円滑に進めるにあたって工夫した取り組み

A. 日立の社外取締役10名のうち7名は海外にいらっしゃる方ですが、基本は毎回、日本に来て対面での議論をお願いしています。コロナ禍で難しくなり、やむを得ずリモートで実施していますが、執行サイドの方々が説明をした上で、取締役会メンバーがそれに対する自分の意見を伝えてディスカッションするという仕組みは、なかなかリモートでの実現が難しいと思います。もともと知っている人同士のリモートなら別に変わらないと思いますが、執行役として、実際にビジネスをしている人たちが、取締役会メンバーから意見を対面で直接言われることによる納得感は、リモートとは異なるものと考えています。可能になったら、コロナ禍以前のように対面での取締役会を開催するのが一番良いと私は思います。

Q. 次世代の取締役会議長に対してアドバイス

A. 取締役間で意見が対立したときに相手を言い負かすのではなく、お互いの意見を耳を澄ませて聞くことが非常に大切です。日立の取締役会では、異なる意見が出て、それを受け、出直してもう一度議論するということもあるのですが、これが大事なのです。

 もう1つは、取締役会メンバーと執行メンバーの両者がお互いにリスペクトするということが大事です。リスペクトというのは、戦略や会社のあるべき姿、会社の向かっていく方向について、深い議論をして認識を共有するということです。それを前提にすることで、個別案件について意見が異なるときでもお互いをリスペクトする気持ちを持って議論をすることができるようになります。

デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリー

デロイト トーマツ グループでは、コーポレートガバナンスに関するインタビュー記事や、各種の調査・研究結果レポートをリリースしております。デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリーでは、これらの調査・研究の結果を公表しております。

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