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Chair of the Future - 取締役会議長インタビュー
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 久保山 路子氏
デロイトでは、取締役会や経営幹部の皆様が共通して関心を寄せる重要なトピックに取り組むべく、「Deloitte Global Boardroom Program」を実施しております。このプログラムの一環として「取締役会議長」にフォーカスをあて、インタビューを実施しました。
目次
- “社内サポートメンバーとの連携を綿密にとり、取締役会における議論の活性化に努める“
- デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリー
- デロイト グローバル コーポレートガバナンス センター
- お問合せ
- プロフェッショナル
<プロフィール>
株式会社三越伊勢丹ホールディングス
社外取締役(取締役会議長)
久保山 路子 (Kuboyama Michiko)
1980年に花王石鹸株式会社(現 花王株式会社)に入社。同商品広報部部長、センター長を歴任。多摩大学大学院の客員教授を務める。
2018年に初の女性取締役として、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外取締役となり、2021年には取締役会議長に就任。
その他に現任で株式会社三井住友銀行、株式会社Kids Smile
Holdings、株式会社Kids Smile Project、明治ホールディングス株式会社の社外取締役を務める。
“社内サポートメンバーとの連携を綿密にとり、取締役会における議論の活性化に努める“
Q. 取締役会議長就任後の意識・役割の変化や、メンバーの意見を引き出すために意識していること
A. 2021年4月から議長に就任し、その役割や意義について改めて強く実感しています。議長は当該年度の通期に渡る取締役会の運営を意識し、中長期戦略や企業価値向上の本質的な議論を深めるため努力を求められます。議長になって、この全体感と議論の到達点、更には監督機能への意識が高まったと感じています。
以前は会長が議長をされていたので、年間の議題設定や個別案件の議論の到達点については、執行に通じた会長自身の頭の中で明確になっていたと思います。しかし社外取締役の議長ではそういう仕切りは及びませんから、運営事務局である取締役室と綿密に準備段階から意見交換することになります。取締役会の積み残し論点を整理し、執行へのフィードバックや取締役会での再議論の時期を決めたり、私と並走する取締役室の負荷は増えたと思いますが、運営の透明性は向上していると言えるでしょう。
議長になって一取締役のときと比べて発言の機会が減ったとは感じていません。まずは皆さんにどんどん発言いただくようにしていますが、自分の意見も適時に発言させてもらっています。
取締役会はチームでパフォーマンスを発揮すると思っていますので、違うフィールドとか、違う専門性をもつ社外取締役が自由闊達に多角的で大所高所の議論ができることが、良い監督機能に繋がると思います。その意味では、現在の三越伊勢丹ホールディングスの取締役会は、多様性があり、バランスもとれており、お互いをリスペクトし、違うフィールドの意見にも耳を傾けながら忌憚なく話すことができるいいチームであると感じています。
監督機能の強化という意味においては課題を感じる部分もあります。社内対社外の質疑応答にとどまらず、本質的な議論を目指したいと思っています。そういう意味では、監督やモニタリング強化の視点は共有されていますが、監督機能の中身については様々な見解があるかもしれず、議論を通して確認していくことが大切です。社内の取締役も自身の管掌領域外の案件については監督機能を果たすべきですが、この実践は簡単ではありません。取締役会に上程する前の執行役会で管掌領域を超えた活発な議論ができてこその到達点かと思います。
これらを踏まえ、取締役会における議論の活性化に加え、執行サイドの意識変革も重要なポイントであり、トータルのガバナンス向上への寄与を意識しています。
Q. コロナ禍前後で中長期の戦略・事業計画についての議論の変化
A. 百貨店ビジネスやリアルな売り場に当社のコアな価値があることは間違いありません。しかしお客様のニーズが変化し、百貨店の中身も変化しつつあり、2~3年前からECあるいはデジタルの取組みも含め、リアルとオンラインの両方でお客様につながりご提供する価値を拡げることを加速してきました。
コロナ禍にデジタル活用が飛躍的に伸長し、これらのトライアルに手ごたえが出てきているのは嬉しいことです。
新中期計画の議論では、当社がこだわる高感度上質について掘り下げ、百貨店をどういうふうにビジネスとしてリメイクするかということをしっかりと議論することができました。
基幹店を磨き上げ、中型店、小型店、ECとシームレスにつなぎ、お客様としっかりつながっていく百貨店再生フェーズ、その先の長期ビジョンまで議論が進み、長期ビジョンの構想を社内で共有しました。
アフターコロナの生活者のニーズやお買い物行動の変化を織り込んだ、「高感度上質戦略」や「最高の顧客体験の提供」が中核となっており、デジタルツールやそれを用いてどのように顧客とつながりを持つかの具体策を含め、2021年11月に新中期経営計画を策定・公表しています。
この議論の進化には、機関設計の変更後の(指名委員会推進の社長サクセッションによる)2021年4月からの新社長就任と新体制の基盤形成、それに伴うガバナンス向上が寄与していると感じます。
Q. 企業と社会の関係変化、特にサステナビリティ動向・気候変動
A. 企業は商品やサービス等の本業による価値提供や雇用機会創出、法人税などで社会に貢献していますが、これからはSDGsの視点で社会的責任が更に重要になると認識しています。
私自身は企業の存在意義、良き企業市民であることを意識しています。サステナブルな社会実現にむけて、誰もが自分にできることを考え、実行していく時代です。当社としてそれに応える取組みについては、現在取締役会や執行役会の中で検討を進めています。取締役会としての気候変動についての議論は、CO2排出量削減などが主な論点となっています。今後、取締役会の重点テーマとして議論を深めていきます。
Q. 東証市場区分見直し、コーポレートガバナンス・コードの改訂などガバナンスに関する資本市場の要請
A. 私自身は好ましいことだと受け止めています。当社は2020年機関設計を変更し、監査役設置会社から指名委員会等設置会社になりました。2020年、指名委員会が社長のサクセッションを推進し、2021年春新社長を指名、就任に至っています。社外取締役が中心となり推進したプロセスは日本において大変先進的なものであると思います。
執行と監督の分離は端緒についたところですが、効果は明らかに随所の意識変化に現れています。日本企業がガバナンス強化に取組むことは、グローバルな投資家目線の評価に応えるための必要条件ですが、取組みの成果は事業そのものに大きい価値をもたらすと期待しています。
今、取締役会議長として監督機能を果たすために意識していることは、執行役会など社内での議論の実態について質問を投げかけ執行の実効性を確認すること、また、月次で社長とのミーティングを実施しガバナンス進化についての目線合わせを行うことです。
Q. 対面ではなくオンライン形式での議事運営を円滑に進めるにあたって工夫した取り組み
A. 対面だと皆さんの目線とか、前のめりの具合とかから場の雰囲気を共有することができますが、オンラインだと単に挙手マークが見えるだけで、雰囲気が見て取れないところは不便ですね。視点や意見の連鎖や発展、あるいは納得感とかそういう部分も雲泥の差があると思います。対面ではない分、表情やうなずきなどノンバーバルのコミュニケーションが不足しますので、丁寧に取締役会メンバーの意見を拾うよう心掛けています。必要に応じて、普段の発言や専門領域を踏まえて議長から発言者を指名することで、議論の広がりを作ることもあります。
Q. 次世代の取締役会議長に対してアドバイス
A. 社外取締役が議長として取締役会運営にしっかり参画するためには、運営スタッフの体制整備と信頼関係の構築が必須です。社外取締役の意志を受け止め、率直な意見交換を重ね合意形成し、運営に反映する。この積み重ねで透明性の高い運営マネジメントが作られていくでしょう。
まずは今年度の「取締役会の実効性評価」の結果を受け課題や改善点を整理する中で、議長評価についても忌憚のない意見を頂戴してパフォーマンスの向上に役立てていきたいです。
デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリー
デロイト トーマツ グループでは、コーポレートガバナンスに関するインタビュー記事や、各種の調査・研究結果レポートをリリースしております。デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリーでは、これらの調査・研究の結果を公表しております。
デロイト グローバル コーポレートガバナンス センター
デロイト トーマツ グループでは、デロイト グローバル コーポレートガバナンス センター(Center for Corporate Governance) のポータルサイトを通して、企業に世界各国のコーポレートガバナンスに関する情報を提供しています。日本を始めとする世界各国のデロイト メンバーファームが緊密に連携し、海外で積極的に事業活動している企業のグローバルなコーポレートガバナンス活動をご支援いたします。
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