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気候変動にどう向き合うか ―取締役会議長へのインタビュー―

住友商事株式会社 中村 邦晴 氏

デロイトでは、取締役会や経営幹部の皆様が共通して関心を寄せる重要なトピックに取り組むべく、「Deloitte Global Boardroom Program」を実施しております。このプログラムの一環として「取締役会議長」にフォーカスをあて、気候変動・サステナビリティにおける取締役会の役割や各社の取り組みを中心にインタビューを実施しました。

<プロフィール>
中村 邦晴 氏
住友商事株式会社
取締役会長

住友商事株式会社取締役会長。
1974年住友商事株式会社入社。代表取締役専務執行役員、代表取締役副社長執行役員を経て、2012年、代表取締役社長に就任。その後、代表取締役社長執行役員CEO、代表取締役会長を経て、2018年からは取締役会長に就任(現職)。

中村 邦晴 氏のお写真

“議長として意識しているのは、社外取締役の知見をどう引き出すかということ”

Q. 事業精神とサステナビリティ・気候変動に対する考え方

A. 当社の根幹には、400年以上受け継がれてきた「住友の事業精神」があり、自社の利益だけでなく、社会の利益になるような事業をやりなさい、という教えが創業以来ずっと続いています。当社は現在サステナビリティ経営を推進していますが、これはまさに「住友の事業精神」に繋がるものです。また、当然ながら気候変動は重要なテーマですが、解決すべき問題は他にも数多くあり、あくまでも当社が取り組むべき課題の中の一つととらえています。当社は「住友の事業精神」を基に、取り組むべき6つのマテリアリティ(重要課題)を特定していますが、気候変動以外にも様々な社会課題に取り組んでいます。

 

住友商事グループの重要社会課題と長期目標の全体像

住友商事グループの重要社会課題と長期目標の全体像

出所:住友商事株式会社ホームページより抜粋
 

Q. サステナビリティの取り組みを促進・支援するために、取締役会が果たしている役割や、その役割を果たすために議⾧として意識していること

A. 先ほどのような考え方の下、当社は、新たな価値を創造し、広く社会に貢献できるグローバル企業を目指していますが、執行側がこれをどうやって実践し、目標に到達していくのかを監督することが、取締役会の役割だと考えています。

議長として意識しているのは、社外取締役の知見をどう引き出すかということですね。その1つがオフサイトミーティングの活用です。例えば重要な課題に対する議論や意思決定を行うときに、1回の取締役会で決めるにはあまりにも時間が足りません。それもあって、当社は取締役会の後にほぼ毎回オフサイトミーティングを実施し、各テーマに対して取締役の方々に自由に意見を言ってもらい、その意見を取り入れて執行側が案を作り上げていくという形を取っています。取締役会以外の場も含めて、トータルで社外取締役の知見や経験を引き出すための仕組みと言えます。柔らかい段階で社外取締役の意見を伺うことで、執行側が気づかなかったようなアプローチや視点が出てきますし、実際に、中期経営計画を策定する際は、最初のコンセプトの段階からオフサイトミーティングで議論して作り上げていきました。

社外取締役向けの事前説明にもかなりの時間をかけています。その際、取締役間で情報格差が生まれないよう、事前説明の中でどういう質問があったのか、業務執行取締役も含めて全取締役に質疑の内容を配るようにしています。

取締役会当日は私自身が議長として進行を担いますが、議論の中でエッセンスやポイントをどう引き出すかという点が重要ですので、それを準備するため、経営会議にオブザーバーとして参加しています。オブザーバーですので発言はしませんが、気になったところはメモしておき、取締役会の中で発言したり、あまり意見が出なかったときは各取締役に質問をしています。

また、社外役員ミーティングも活用していますね。当社では社外取締役と社外監査役が定期的にミーティングを開催していますが、そこに社内監査役も1名参加し、議論の内容をまとめて社長・会長に共有してもらっています。中には厳しい意見もありますが、そうした社外の意見や不満を1つ1つ改善していくことが重要だと考えています。

結局、取締役会が監督機能を果たす上では、実効性をどれだけ高められるかに尽きます。そのために当社は取締役会実効性評価の取り組みを進化させてきました。当社はこれまで、社外の第三者機関に依頼して無記名のアンケート・インタビューを実施してきました。ところが昨年、社外取締役の方から、「自分達で自由に議論ができているのだから、今年は第三者機関を使うのは止めて、記名式にして回答結果も全員に共有しよう」という意見が挙がったんですね。その結果、今年は記名式のアンケートの回答を全員に配って、その結果を全員で議論しました。また、そこで社外取締役から出た要望はとにかく改善していこうということで、社外取締役の方々が求める情報を提供したり、社外取締役の要望を社内に伝えて対応を促す等、社外取締役の活動をサポートする部署として、今年の4月から取締役業務部を発足させました。
 

“気候変動や女性の活躍推進では、社外取締役の発言が当社に刺激を与え、取り組みの後押しになっている”

Q. サステナビリティ領域の監督のための取締役会における具体的な取り組みや、印象に残っているエピソード

A. 気候変動も含めたサステナビリティの分野は、社外取締役の知見・経験が活かせる分野ですから、取締役会としても様々な取り組みを通じて監督を行っています。

当社は執行側にサステナビリティ推進委員会が設置されており、取締役会は年に2回、サステナビリティ推進委員会からの活動報告を受けることになっています。加えて、気候変動に関連する方針・施策等サステナビリティについて全社的な重要な議題として個別に議論することも増えています。

なお、社内には他にも様々な委員会があり、取締役会はそれぞれ報告を受けますので、サステナビリティの議論の時間を確保できるよう、取締役会で扱うべき重要アジェンダを設定するようにしています。今は7つ設定していますが、設定にあたっては社外取締役・社外監査役も含めて何回も議論をしましたし、毎年見直しています。また、年間を通じてこれらのアジェンダをどう割り振るか、いつ、何を報告するかは全てスケジュール化しています。

気候変動の目標と役員報酬を連動させる取り組みも行っています。これは、気候変動の目標を設定するときに、どうやってその実効性を高めていくべきかという議論があり、役員報酬との連動は社内でも検討していたのですが、「住友商事では導入しないのか」という社外取締役からの指摘もあって実現しました。

これは実効性を高めるだけでなく、社外の投資家や従業員に対して会社の本気度を伝えることにも繋がっています。目標を掲げるだけでなくて、実現に向けたロードマップを作成したり、マイルストンを設定したりすると、「本気だな」と従業員も感じるはずなんですね。それを通じて、みんなで達成していくんだ、という思いを持つことが重要だと思います。

その後、女性の活躍推進についても役員報酬と連動させる仕組みを取り入れました。何年に女性の管理職・部長職の割合が何パーセント、といった形で具体的な目標を定めており、達成できなかったらその報酬部分は減額になります。

女性の活躍推進について当社としても従来から意識していますが、社外取締役の方々からするととにかく「遅い」と指摘されており、後押しになっています。女性の社外取締役と女性社員との対話の機会を設けたり、かつて「主管者会議」という会議の中で女性の社外取締役に講演をいただき、冒頭から「この場に女性がいないのはおかしい」「皆さんは昭和のおやじです」と言われたりもしました。そうした指摘は当社にとっても刺激になります。

その他にも、社外取締役と執行側とのコミュニケーションの工夫として、役員懇親会を開いたり、コロナ禍を経て形態は変わっていますが、役員バーと呼ばれる、立食形式での執行役員クラスとの交流の機会を設けたりして、理解を深めてもらっています。

社外取締役の方には、海外も含めた事業会社訪問もしてもらっています。特に新任の取締役の方には、就任いただくとまず、住友家の事業の代表的な遺跡である別子銅山に登っていただきます。歩いて上り下りすると6時間くらいかかるので、途中まででいいですよと言っているのですが、皆さん最後まで登られるので驚いています。別子銅山に登ると、住友商事というのはこういう会社なんだっていうのを分かっていただけるようで、当社の根幹にある「住友の事業精神」を理解していただくのにとても役立っています。

 

別子銅山植林前と現在の比較写真

(写真左)別子銅山植林前(写真提供:住友資料館)
(写真右)別子銅山現在(写真提供:住友林業(株))

 

“取締役会議長の目線として、個々の問題だけに囚われず、経営全般を見た上での位置付けを考えることが重要”

Q. サステナビリティに関するステークホルダーとの対話・説明における課題

A. 時間軸に対する考え方の違いにはジレンマを感じていますね。例えば当社には石炭火力事業がありますが、CO2を排出しているからといって、これを急に止めます、というのが最善の方法とは限らない。火力発電所を止めて新しい発電所に変えていくと、当然ながらコストが高くなりますし、それが結果的に、途上国が先進国になる道をふさいでしまう可能性もあります。そうならないために、トランジションをどのように行うのか、というところから考えていく必要があります。石炭火力を止めます、というのは会社としては良いかもしれませんが、社会課題を本当に解決していると言えるのか。議論が必要ですが、それがなかなか理解されにくい状況にあることは感じています。

総合商社のビジネスを、ステークホルダーに向けてわかりやすく説明していくことも必要です。ウォーレン・バフェット氏は非常によく理解できる、と言っていましたが、総合商社は日本特有のものですし、外から見るとわかりにくい部分はあるかもしれません。ただし、そこは当社に説明責任がありますので、説明してもわかってもらえないというのではいけない。わかりやすく、自分達の考えや、これからやりたいことをきちんと説明することが、全ステークホルダーに対する当社の責務だと思います。

気候変動を含めた社会課題全般に対しても同様に説明責任があります。経営全般の中で、気候変動問題等がどのように位置づけられているのか、世界全体で何が起こっていて、それを、当社のノウハウやビジネスを活用して、どのように解決しようとしているのか、説明することが重要ですね。

Q.将来、取締役会の議⾧に就任される方へのアドバイス

A. 取締役会の実効性をどう高めるか、という点が一番重要だと思います。そのためには、まず取締役会議長の目線として、個々の問題だけに囚われず、経営全般を見た上で、それぞれの位置付けを考えていくことが重要です。そのための仕組みづくりも求められます。

その上で、議長としてどう取締役会を引っ張っていくのかという点では、社外取締役・業務執行取締役の間でどれだけフランクに議論ができて、意見を引き出して、良いものをみんなで作っていけるかということだと思います。

当社では、本社とグループ会社でも同様の目線で取締役会を通じた議論ができるように、「グループマネジメントポリシー」を策定しています。そこでは、一つ一つのグループ会社の自律的な経営執行を尊重し、取締役会を通じて本社の所管部門とグループ会社の経営執行陣が対話を行うよう求めており、若い人たちにも、事業会社との対話を通じて、必要な視点を身に付けていってほしいと思います。とにかく全体を見ること、木を見て森を見ず、にならないように、まずは森を見るということを心がけてもらえればと思っています。

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