内部通報制度の整備状況に関する調査2020年版を公表 ブックマークが追加されました
調査レポート
内部通報制度の整備状況に関する調査2020年版を公表
上場企業412社を含む542の有効回答を集計
デロイト トーマツ リスクサービスでは、今回5回目となる「内部通報制度の整備状況に関するアンケート調査」の結果を公表いたします。本調査は、2020年10月に経営企画/総務/法務/内部監査/国際管理の担当者、および内部通報サービスに関心のある企業の担当者を対象に行い、上場企業412社を含む542の有効回答を得ました。
調査結果サマリ
- 93.7%が内部通報窓口を整備済みだが、通報件数の推移に大きな変化はない
- 監査役、社外取締役が不正告発の通報窓口を担当する組織は18.7%
- 報奨制度、社内リニエンシー制度のいずれかを導入しているのは14.9%、両方導入しているのは1.6%
- 外部窓口を設置済みの77.9%の企業のうち顧問弁護士のみの割合は55.7%で横ばい
- 改正公益通報者保護法の内容について「知っているものはない」が34.5%
- 内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)を登録済みの企業は4.4%。前向きに検討中を含めても11.0%
93.7%が内部通報窓口を整備済みだが、通報件数の推移に大きな変化はない
9割を超える企業が通報窓口を設置済みです。一方で、通報件数に大きな変化はなく、過去のすべての調査を含め年間10件未満という回答が過半数を超えます。内部通報には一定の割合で不正の告発が含まれるはずであるという仮定に基づいた、通報件数を増やすことが内部通報制度の有効性向上につながるという説を耳にしますが、件数は大きく伸びていないようです。
監査役、外部取締役が不正告発の通報窓口を担当する組織は18.7%
東京証券取引所(以下東証)に株式を上場している企業に求められるコーポレートガバナンス・コード(以下CGC)※1、消費者庁が発出する公益通報者保護法に関するガイドライン※2は、それぞれ経営幹部から独立した監査役、社外取締役が担当する内部通報窓口を設置すべき、設置することが適当であると記載しています。
その一方で本調査では監査役、外部取締役が通報窓口となっている回答は18.7%、(CGC全項目の実施が求められる東証1部2部合算でも18.9%)という結果となりました。
前述の、通報件数の伸長を目的とする内部通報制度においては、一般的に個人被害を訴えるハラスメントの件数が多くなります。個人被害の問題解決に経営からの独立は必須ではなく、通報者への傾聴や心情理解が重要になります。件数伸長を目標とする内部通報制度と、独立した窓口の設置にはこうした実務上の矛盾があり、監査役、社外取締役を窓口にしたくてもできない(あるいはそうする必要がない)という状況が推察されます。
※1 株式会社東京証券取引所 コーポレートガバナンス・コード (2018年6月1日)
www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000000xdn5.pdf
※2 公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン 消費者庁www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/pdf/overview_190628_0004.pdf
報奨制度、社内リニエンシー制度のいずれかを導入しているのは14.9%、両方導入しているのは1.6%
通報者に報奨を与える制度あるいは通報者の処分を軽減する制度(社内リニエンシー制度)は通報の大きな動機になりうると考えます。しかし、その導入状況は前回調査と変わらず低い回答率となりました。いずれの回答も過去3年の調査と大きな差がありません。
これらの報奨制度、リニエンシー制度はハラスメント等の個人被害を訴える通報には不要で適用されるケースはほとんどありません。もし、多くの組織がハラスメントを始めとして通報種別を問わずに受信件数を伸ばすことを目標としているならば、これらの制度の検討、導入は今後もそれほど進まないものと思われます。
社内リニエンシー制度、報奨制度の導入状況
外部窓口を設置済みの77.9%の企業のうち顧問弁護士のみの割合は55.7%で横ばい
内部通報制度の高度化を示す指標と考えられる外部窓口の客観性について「外部窓口は顧問弁護士のみ」が今年も最多回答でした。過去3年間の調査と比較しても大きな変化はありません。また「外部窓口は顧問弁護士のみ」の場合は他と比較して通報件数が少なく、かつ通報に不正の告発を含む比率が低い結果となりました。
改正公益通報者保護法の内容について「知っているものはない」が34.5%
公益通報者保護法は、300名を超える組織に内部通報制度の体制整備を義務付ける、通報の対応にあたる担当者が守秘義務違反をした場合に刑事罰が与えられる等の改正がなされ、2022年6月までに施行予定となっています。
多くの組織がこの改正の影響を受けるはずですが、関心が高いとは言い難い結果となりました。ただし、現時点では体制整備のよりどころとなる指針の具体的な内容が明らかになっていません。それが低い把握率の一因になっているのではないかと考えられます。
(公益通報者保護法の一部を改正する法律 2020年6月公布2年以内に施行予定)
内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)を登録済みの企業は4.4%。前向きに検討中を含めても11.0%
登録済み4.4%の回答者の自由記述で、その理由について以下のような回答がありました。
- 「採用活動で有利に働くことを期待」
- 「社内の通報制度の認知度・信頼性向上を期待」
「様子見」、「今のところ念頭にない」は含めると81.6%で、自由記述では以下と同主旨の回答が複数ありました。
- 「形式的なものであり効果につながらない」
- 「制度の認知度が高まれば検討したい」
また、少数ですが以下のような回答もありました。
- 「公益通報者保護法の改正で改定されるのか等、法令との関連が不明」
- 「良い点悪い点が明確になるなど、現状の制度の評価に利用できるのであれば検討したい」
通報内容を限定せず、自己被害の軽減を訴える種類の通報も含めて通報件数を増加させることが内部通報制度の有効性向上に寄与する、という考え方は限界を迎えていると思われます。これからの内部通報制度には異なる方向性の高度化、つまり、自組織外のステークホルダーが被害を受けるような、いわゆる「公益通報」の受信に的を絞り、客観性の高い窓口や対応体制および報奨制度・リニエンシー制度などを装備した、公益通報の動機を高めるような高度化が求められているのではないでしょうか。
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第1回 内部通報制度とは~日本企業への内部通報制度の浸透度~
2020年6月に改正公益通報保護法が成立しました。本連載では、組織の内部通報制度の運営に携わる管掌役員や担当者の方向けに、内部通報制度の本質的な目的と機能を理解し利用あるいは運用していただくことを願い、組織の内部通報制度について様々な観点から執筆いたします。