Posted: 08 Oct. 2020 3 min. read

第1回 内部通報制度とは~日本企業への内部通報制度の浸透度~

連載:内部通報制度の有効性を高めるために

連載にあたって

2020年6月に改正公益通報者保護法が成立しました。この改正は、2006年に公益通報者保護法が施行された後に、公益に資する通報を行った通報者が組織から報復とも考えられる不利益取扱を受けるといった不幸な事案が発生してしまったために、本来それらの通報者を保護するためのこの法を改善する目的で進められたものです。この改正によって、組織は自組織の内部通報制度の見直しを検討せざるをえなくなるでしょう。

本連載記事は、そういった背景を踏まえ、組織の内部通報制度の運営に携わる管掌役員や担当者の方向けに不定期で執筆いたします。これまでに内部通報制度の運営に関わったことのない配属間もない方から、すでに一定期間その運営に携わった方を含めて、幅広い経験度の方々に有益な情報を提供できるものと思います。

一方で、内部通報制度を利用する可能性のある方、つまり組織の従業員の方々にとっても有益な内容となっているものと思います。もし、あなたが内部通報をすべき立場に立たされた時、自組織の内部通報制度がどのようなもので、法や外部の基準に照らしてどういったレベルにあるのか、という点を承知して通報するのと、あるいはそれらをまったく知らずに通報するのとでは、あなたにふりかかるリスクが大きく異なるはずです。

内部通報を発する立場の方にも、内部通報を受ける立場の方にも、内部通報制度の本質的な目的と機能を理解して利用あるいは運用していただくことを願い、今シリーズを全22回で連載します。今後も内部通報制度に関する大きなイベントが発生するごとに、複数回の連載を行うことを計画しています。

なお、本連載記事に記載の内容は筆者の所属する組織や参加する会議体の公式な見解ではなく筆者の私的な意見に基づくものであることをご了承ください。

内部通報制度とは

まず、本連載記事の主題である内部通報制度を定義しておきましょう。内部通報制度を定義するためには、まず内部通報を定義する必要があると思います。本連載で後述するISO37002(2021年6月公開予定の内部通通報制度に関するISOの基準)では「内部通報」が以下のように定義されています。「通報された情報が通報時に真実であると信ずるに足る相当の理由を有する通報者による不正行為の通報」。本連載記事ではこのISO37002の内部通報の定義に少し加筆して、以下の定義を使用したいと思います。

  • 内部通報:通報された情報が通報時に真実であると信ずるに足る相当の理由を有する通報者による不正行為の主体組織に対する不正行為の通報

ところで、内部通報の類義語としてよく目にする用語に、外部通報、内部告発、公益通報などがあると思います。これらについてもここで以下のように定義しておきます。

  • 外部通報:通報された情報が通報時に真実であると信ずるに足る相当の理由を有する通報者による不正行為の主体組織ではない外部に対する不正行為の通報
  • 内部告発:外部通報のうち、不正行為の主体組織に所属する通報者による不正行為の主体組織ではない外部に対する通報
  • 公益通報:通報された情報が通報時に真実であると信ずるに足る相当の理由を有する通報者による公益に資する通報。(日本の場合は公益通報者保護法における定義に拠る)

 

図表1:内部通報、外部通報、内部告発、公益通報の関係イメージ図

図表1はこれらの類義語の関係をイメージ図にしたものです。内部通報は公益通報を含んではいますが、すべては包含しておらず、外部通報や内部告発とは完全に別のもの、という考え方で今後のお話を進めます。そして、本連載記事では用語「内部通報制度」には以下の定義を適用したいと思います。

  • 内部通報制度:内部通報を受信した組織が運営する内部通報に対応するためのシステム

従って、本連載記事において、内部通報制度は外部通報制度でもなければ内部告発制度でもなく、あくまでも「内部通報」を処理するための組織のシステムと位置付けて議論を進めていきます。

内部通報制度の導入状況

ところで、内部通報制度は日本企業にどれぐらい浸透しているのでしょうか。様々な調査データからその状況を類推してみましょう。

内部通報受付窓口の設置状況(デロイト トーマツの調査より)

筆者の所属するデロイト トーマツ リスクサービス株式会社では、日本企業の内部通報制度に関するアンケート調査[1]を年次で実施しています。その回答によれば、「通報窓口がない」の回答は1.7%に過ぎません。「日本に海外からの通報も受け付ける窓口がある」との回答は40.5%、に達しています。日本にのみ窓口があると回答した54.6%と併せて、95%を超える企業が内部通報窓口を有しています。

[1]デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 内部通報制度の整備状況に関する調査2019年版
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20200217.html

内部通報制度の導入状況(消費者庁平成28年度調査より)

数年以上前の調査になりますが、内部通報制度の導入状況に対する消費者庁のアンケート調査結果が公開されています[2]。 従業員数問わずの全体で導入済みの企業は46.3%、従業員数50人以下の組織でも9.3%が導入済みとなっています。とくに従業員が1000人以上の組織では90%以上が導入済みという回答だそうです。

同調査には業種別の導入状況も整理されていて、とくに金融・保険業は他業種と比較して突出して導入率が高く、導入済みは90%を超えており、金融・保険業にとっては内部通報制度の設置は常識になっているようです。

 

次回は、内部通報制度設置の目的と機能、およびそれらに関連する法規制や基準についてお話しします。

 

[2]消費者庁 平成28年度(2016年):「平成28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」平成29年1月4日付
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/research/pdf/research_190909_0002.pdf (PDF, 2.11MB、外部サイト)

 

関連するリンク

デロイト トーマツ リスクサービスでは、グローバルホットライン(内部通報中継サービス)をご提供しています。

従業員、家族、取引先などからの内部通報を適切にお客様企業の担当部門へ中継し、お客様の回答を通報者へ伝達します。

本稿に関するお問い合わせ

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お問い合わせ

執筆者

亀井 将博/Masahiro Kamei
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社

内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員。
金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援。
その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。

 

和田 皇輝/Koki Wada
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社

J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援。
現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当。

 

※所属などの情報は執筆当時のものです。