第13回 内部通報制度の有効性を高める方策 ブックマークが追加されました
本連載の前回第12回までで、内部通報制度には、組織不正の告発に対応するという本来の目的ではなく、組織内部の要員の不満の対応に終始してしまっているという課題があることを整理しました。今回はそれらの議論を踏まえて、内部通報制度の有効性を高める方策についてお話しします。
第11回の仮説Bの棄却で、内部通報制度は不満の表明を吸収すべき仕組みではないと述べました。不満の表明を吸収すべき仕組みは“従業員満足度の向上(ES:Employee satisfaction)”活動等ではないでしょうか。筆者が有効と考える切り分けの案を図表12に示します。
図表12:内部通報制度とESを明確に切り分ける例
まず、内部通報制度に関しては以下を従業員に周知します
そして、ESに関しては以下を従業員に周知します。
筆者の通報受信経験において、特定の上司を陥れるために内部通報制度を悪用しようという通報者は極めて少数です。不仲に始まる不遇と抑圧に苦しみ助けを求めているだけのように聞こえます。しかし内部通報制度ではその期待にうまく応えることが困難です。内部通報制度は、社会への被害を抑制するという倫理性を示すことによって“組織”を救うための制度なのであって、“従業員”を救うための制度ではないと割り切った方が、組織にとっても通報者にとってもよいものになると思います。
このような切り分けを事前かつ入念に従業員に周知すれば、従業員が「困った上司を匿名でやっつけてくれる内部通報制度がある」という期待ギャップを生むことなく、両制度を有効に活用してもらえるのではないでしょうか。また、どちらの担当部門も通報者の過大な期待に対処するプレッシャーから一定程度解放されるのではないでしょうか。特にこの切り分けは、内部通報制度の担当者およびESの担当者にとっての、改正公益通報者保護法の守秘義務違反による刑事罰からの一定のリスクヘッジにもなるものと思います。
いずれにしても企業は、内部通報制度の担当者およびESの担当者の双方が、より安心して職務を遂行できるように環境を整えるべきです。通報者も、そしてそういった制度の担当者も、どちらも保護されるべき組織の大切な従業員なのですから。
次回は、引き続き内部通報制度の有効性を高める方策についてお話しします。
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【連載】内部通報制度の有効性を高めるために
亀井 将博/Masahiro Kamei
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社
内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員。
金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援。
その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。
和田 皇輝/Koki Wada
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社
J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援。
現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当。
※所属などの情報は執筆当時のものです。