Posted: 17 Nov. 2020 3 min. read

第14回 内部通報制度の有効性を高める方策~その2

連載:内部通報制度の有効性を高めるために

前回第13回は、内部通報制度の有効性を高める方策に関して「不正の告発と不満の表明を明確に切り分ける」ということについてお話ししました。今回はそれに続く4点の方策についてお話しします。
 

ハラスメントを内部通報制度の対象外とする

上述の切り分け案については、内部通報部門の担当者から「ハラスメント等は組織にとっての大きな脅威となりえるケースもあり、それを内部通報の対象から外すことになるようで不安だ。」という意見をいただくことがよくあります。しかし、筆者はそれでもハラスメントを内部通報制度の対象から明確に除外すべきだと考えています。その理由は以下の3点です。

① ハラスメント事案のほとんどが上司部下間の個人的な感情のもつれに起因しており、内部通報制度での対応が難しいため

② 内部通報制度が組織にとっての大きな脅威を検知する仕組みでなければならないという制約はなく、他にふさわしい仕組みがあれば、そちらに任せるべきであるため

③ ESで吸収したのちに重大なハラスメント事案であることが判明した場合は、すぐに組織の危機管理体制にエスカレーションすればよく、内部通報制度をあえて経由させる必要はないため
 

内部通報は全件監査役・社外取締役に共有する

さらに、内部通報制度の対象通報を「不正の告発」に限定すれば、受信件数を有効に圧縮することができます。そのため、ガバナンス上の理想とも思われる、通報受信全件を当初から監査役や社外取締役に共有するような、透明性の高い仕組みの導入が可能となります。これが実現できれば、通報者を安心させるだけでなく組織外にもその有効性を訴求しやすい内部通報制度と言えるでしょう。
 

匿名性ではなく通報者保護を絶対視する

日本では匿名堅持を通報者の不可侵の権利であるかのように考える方が多いようです。しかし、不正の告発の場合は、事実の特定と事案を掘り下げた再発防止のために通報者の協力が欠かせません。また不満の表明の場合は、その不満の軽減のために匿名は障害にしかなりません。さらに両仕組に共通の問題点として“匿名の者は保護できない”があります。どこの誰かもわからない人にボディーガードをつけることはできないため、通報者に不利益取扱いが起きているのか、いないのかさえもわからなくなります。逆に、匿名を解除した瞬間に通報者への不利益取り扱いが許可されるわけでもありません。通報者は匿名通報か実名通報かに関係なく保護されなければならないのです。

匿名は通報者保護のための手段のうちのひとつであり、場合によっては通報者保護のための障害になってしまうこともあります。匿名を絶対視するのではなく、通報者あるいは不満の表明者を不合理な不利益取り扱いから徹底的に保護する約束事や風土が重要なのである、という点を、組織および従業員の共通認識としていかなければなりません。
 

内部通報制度は「抑止」のため、「検知」を主目的にしない

第12回で仮説D「内部通報制度は不正検知の主要機能となるべきである。」を棄却した論旨がほぼこの主張の理由となります。筆者が考える理想の状態を図表13に示します。

 

図表13:内部通報の件数が合理的な数に収まる状態のイメージ

※画像をクリックすると拡大表示します

 

繰り返しますが、内部通報制度で不正を検知しなければならない、というルールはないはずです。内部通報制度以前の4プロセスで不正を検知するようにコンプライアンス体制を充実させ、そこで漏れてしまった不正事案をすくいあげる保険のような機能と考えるべきでしょう。

そして、不幸にして不正が発生してしまったら、経営者や取締役には、内部通報制度はさておき、まず「不正検知の4プロセスはいったいどうなっていたんだ」と担当部門を追及していただきたいです。重大交通事故を起こした自分の子供に親が開口一番で叱るべきは「どうしてもっと安全運転に徹しなかったんだ」であり「どうしてもっといい保険に入っておかなかったんだ」ではないはずです。
 

次回は、ここまでの論旨に基づいた内部通報制度の目的やKPIの設定についてお話しします。

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執筆者

亀井 将博/Masahiro Kamei
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社

内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員。
金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援。
その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。

 

和田 皇輝/Koki Wada
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社

J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援。
現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当。

 

※所属などの情報は執筆当時のものです。