第5回「免責」に関係する法規制の例 ブックマークが追加されました
第3回および第4回で触れた法規制は、日本とEUにおける内部通報に関する統括的な法令の事例でした。それとは別に防止すべき不正行為ごとに制定されたそれぞれの法令中に内部通報に関する条項が存在する例として、独禁法や腐敗防止法といった法規制があります。
主に海外のグループ会社で価格カルテルや公務員への贈賄等の不正行為が起こってしまったときに、内部通報制度の適切な運用が功を奏する場合はおおむね以下のとおりです。
そして、FCPAのResource Guide[1]には以下のような記載があります。
「有効なコンプライアンス・プログラムには、組織の従業員やその他の者が、疑わしいあるいは現に行われている違法行為または企業が定めた規則に反する行為を、匿名ベースで報復を恐れることなく通報できる仕組み(メカニズム)が含まれるべきである。企業は、たとえば匿名のホットラインやオンブスマンを採用することできる。さらに、なんらかの申し立ての発生に備え、企業は、その申し立ての調査および、あらゆる懲戒あるいは再発防止策が含まれた企業の対応が文書化された、効率的で信頼性が高く、適切に費用が投下されたプロセスを有している必要がある。」
こういった記述の実効性を裏付ける証拠として、実際にペナルティを免れている企業もあります。以下は経済産業省「コンプライアンス体制の構築により法人への処罰が免除された事例」[2]より個社名を抽象化し抜粋、加工したものです。
事案の概要:
この事案のポイントを図表5に整理しました。
[1] U.S. Securities and Exchange Commission「A Resource Guide to the U.S. Foreign Corrupt Practices Act」http://www.sec.gov/spotlight/fcpa/fcpa-resource-guide.pdf (PDF, 3.11MB、外部サイト)
[2] http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/zouwai/pdf/fcpa/fcpacase02.pdf (PDF, 375KB、外部サイト)
図表5 投資銀行の事案における減免のポイント
こういった法規制の内容や事例を見る限り、内部通報制度を“免責”の目的で適切に整備・運用することには一定の効果を見込むことができるでしょう。しかし、注意しなければならないのは、上例で示された免責の恩恵を受けるために必要となる8つのコンプライアンス体制の要素(⑨は①から⑧までの継続的な改善)のうち、内部通報制度が占めるのは⑤のひとつに過ぎないという点です。
仮に内部通報制度をどれだけ充実させたとしても、もし、その他7つの要素が不十分であると認定されてしまえば、この例のような免責が自組織にも期待できるとは限りません。内部通報制度を充実させることと同時に内部通報制度を含むコンプライアンス体制全体を充実させることにも力を注ぐ必要があります。
次回は、内部通報制度に関連する内外の基準についてお話しします。
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【連載】内部通報制度の有効性を高めるために
亀井 将博/Masahiro Kamei
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社
内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員。
金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援。
その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。
和田 皇輝/Koki Wada
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社
J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援。
現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当。
※所属などの情報は執筆当時のものです。