Posted: 20 Oct. 2020 3 min. read

第5回「免責」に関係する法規制の例

連載:内部通報制度の有効性を高めるために

第3回および第4回で触れた法規制は、日本とEUにおける内部通報に関する統括的な法令の事例でした。それとは別に防止すべき不正行為ごとに制定されたそれぞれの法令中に内部通報に関する条項が存在する例として、独禁法や腐敗防止法といった法規制があります。

 

独禁法や腐敗防止法関連の法規制と内部通報制度

主に海外のグループ会社で価格カルテルや公務員への贈賄等の不正行為が起こってしまったときに、内部通報制度の適切な運用が功を奏する場合はおおむね以下のとおりです。

  • 独禁法違反の場合:価格協定や供給協定等のカルテルに参加してしまっていても、いち早く当局に申告すれば、課徴金・罰金が大きく軽減される可能性がある。
  • FCPA(海外腐敗行為防止法)の場合:公務員に贈賄をしてしまっても、ガイドに示されたコンプライアンスプログラムを整備・運用し、不正を当局に自己申告し、当局の捜査に協力することで、課徴金・罰金が大きく軽減される可能性がある。

そして、FCPAのResource Guide[1]には以下のような記載があります。

「有効なコンプライアンス・プログラムには、組織の従業員やその他の者が、疑わしいあるいは現に行われている違法行為または企業が定めた規則に反する行為を、匿名ベースで報復を恐れることなく通報できる仕組み(メカニズム)が含まれるべきである。企業は、たとえば匿名のホットラインやオンブスマンを採用することできる。さらに、なんらかの申し立ての発生に備え、企業は、その申し立ての調査および、あらゆる懲戒あるいは再発防止策が含まれた企業の対応が文書化された、効率的で信頼性が高く、適切に費用が投下されたプロセスを有している必要がある。」

こういった記述の実効性を裏付ける証拠として、実際にペナルティを免れている企業もあります。以下は経済産業省「コンプライアンス体制の構築により法人への処罰が免除された事例」[2]より個社名を抽象化し抜粋、加工したものです。
 

事案の概要:

  • 投資銀行の不動産グループの上海事務所にマネージング・ディレクターとして勤務していた者が、現地における不動産投資に関し、中国の政府機関の役職員に対して贈賄行為を行った
  • 当該マネージング・ディレクターには、刑事罰として9か月の禁錮刑が科せられ、また、民事上の制裁として、違法収益の吐き出しとして約24万ドルの支払及び贈賄行為により得た利益の放棄が命じられ、また行政上の制裁として米国証券取引委員会より証券業等への永続的な従事禁止が命じられた。
  • 所属先の投資銀行に対しては、同社が行為当時に従業員が贈賄行為を行っていないと合理的に信じるようなコンプライアンス体制を構築していたこと、米国司法省に本件違反行為を自主申告して調査に全面的に協力したことなどを考慮し、同省は米国 FCPA 違反に基づく執行をしないこととした。

この事案のポイントを図表5に整理しました。

 

[1] U.S. Securities and Exchange Commission「A Resource Guide to the U.S. Foreign Corrupt Practices Act」http://www.sec.gov/spotlight/fcpa/fcpa-resource-guide.pdf (PDF, 3.11MB、外部サイト)

[2] http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/zouwai/pdf/fcpa/fcpacase02.pdf (PDF, 375KB、外部サイト)

 

図表5 投資銀行の事案における減免のポイント

※画像をクリックすると拡大表示します

 

こういった法規制の内容や事例を見る限り、内部通報制度を“免責”の目的で適切に整備・運用することには一定の効果を見込むことができるでしょう。しかし、注意しなければならないのは、上例で示された免責の恩恵を受けるために必要となる8つのコンプライアンス体制の要素(⑨は①から⑧までの継続的な改善)のうち、内部通報制度が占めるのは⑤のひとつに過ぎないという点です。

仮に内部通報制度をどれだけ充実させたとしても、もし、その他7つの要素が不十分であると認定されてしまえば、この例のような免責が自組織にも期待できるとは限りません。内部通報制度を充実させることと同時に内部通報制度を含むコンプライアンス体制全体を充実させることにも力を注ぐ必要があります。

 

次回は、内部通報制度に関連する内外の基準についてお話しします。

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亀井 将博/Masahiro Kamei

亀井 将博/Masahiro Kamei

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー

内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事 ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員 金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援 その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験 外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。主な著書 「統制環境読本」(翔泳社、共著)、「攻めと守りのブランド経営戦略」(税務経理協会、共著)等

和田 皇輝/Koki Wada

和田 皇輝/Koki Wada

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 マネジャー

J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験 2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事 金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援 現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当 主な執筆 電気評論(寄稿)、「炎上リスク」に備えるWebモニタリングのすすめ方(共著)、マンガ 銀行員のためのSNS利用ルール(共著)