第9回 日本企業の内部通報制度が抱える課題~その2 ブックマークが追加されました
第8回では日本企業の内部通報制度が抱える課題として
課題①:日本企業は国内・海外ともに、従業員からの不満の表明の受信件数を増やしていくのか
を挙げました。今回はさらにもう二つの課題についてお話しします。
デロイト調査の中で、以下の図表8で示す、受信した通報のエスカレーションや窓口担当部門に関するものを考察します。
図表8:内部通報のエスカレーションおよび担当部門の増減
通報を受信した部署自体が事案の重要性を判定し、どういった対応組織に情報をエスカレーションするかをすべて単独の部署で判断する構造は、外見的に“握りつぶしが容易である”と見られかねません。よって、受信窓口部署がエスカレーションを判断する比率が低下し、受信した通報を全件委員会組織にエスカレーションする比率が上昇していることは、内部通報制度の透明性を判断する上で歓迎すべき傾向だと思います。
そして、窓口担当部門は総務部門・リスク管理部門からコンプライアンス部門に移行される傾向にあり、法規制上の観点からの冷静な判断が下されるという、内部通報制度の遵法性という観点でこちらも歓迎すべき傾向であると思います。
一方で、前回第8回の課題①で示したとおり、通報数は漸増傾向であり、不正の告発の受信比率が低く、不満の表明の受信比率が高くなっています。この状況で、内部通報制度の透明性と遵法性の向上は実務的に機能するのでしょうか。疑問とともに以下の課題を提示したいと思います。
課題②:エスカレーションの透明性は高まり、コンプライアンス部門が担当部署となる、歓迎すべき傾向だが、通報受信件数が漸増しその殆どが不満の表明という実態に対して機能するのか
図表9はデロイト調査の中で、外部窓口の組織との関係、重篤通報の共有先、通報者の減免(報奨)等をまとめたものです。
図表9:通報取り扱いの客観性と通報者保護(報奨)
上表から、日本企業の内部通報制度における以下のような現状がうかがえます。
素直に考えると顧問弁護士は企業の味方です。企業の味方である顧問弁護士が務める外部窓口に、企業が困ることになるであろう重篤な不正事案を通報したいと考える通報者は多いのでしょうか。また、重篤な通報の対応が社外取締役や監査役に共有されない内部通報制度に通報者は不安を感じないのでしょうか。さらに、通報しても罰を減免されず、不正行為に加担していない場合の褒美もない制度に、積極的に通報しようとする通報者は多いのでしょうか。それならば最初から行政の窓口に通報したほうがよいのではないでしょうか。疑問とともに以下の課題を提示したいと思います。
課題③:客観性に疑問のある窓口、社外役員等に共有されない通報対応、リニエンシー(減免)・報奨のない内部通報制度に重篤な通報をする通報者はいるのか
次回は、内部通制度に対する暗黙の仮説についてお話しします。
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亀井 将博/Masahiro Kamei
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社
内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員。
金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援。
その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。
和田 皇輝/Koki Wada
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社
J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援。
現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当。
※所属などの情報は執筆当時のものです。