Posted: 26 Oct. 2020 3 min. read

第8回 日本企業の内部通報制度が抱える課題

連載:内部通報制度の有効性を高めるために

本連載の第1回で、内部通報制度の設置は大規模組織を筆頭に小規模組織にまで浸透しつつあり、その制度によって不正が明らかになる例があることをお伝えしました。では、日本の多くの内部通報制度は有効に機能しているのでしょうか。前回第7回では、官庁および民間の調査結果とデロイトが受信した多くの通報の性質から、通報のほとんどは通報者自身の処遇に関する不満の表明であって、内部通報制度を有効に機能させることは、実はそう簡単ではないということに触れました。では、どうして日本の内部通報制度が組織不正の告発ではなく従業員の不満の受け皿になってしまっているのでしょうか。筆者は公益通報者保護法施行直後の状態がその発端ではなかったかと考えています。


「なんでも相談窓口」への転換という考え方の登場

公益通報者保護法施行直後は一部の大企業から内部通補制度の導入が始まりました。しかし、企業側も手探りであれば、通報者となる従業員側も内部通報制度がどういったものか、ということをとらえきれていなかったようで、不正を告発することと人を陥れるための告げ口との違いが明確にされない状態でのむなしい議論もそこかしこで発生していたと記憶しています。そのため筆者の知る多くの企業の内部通報制度は受信件数0の開店休業状態でした。

この状況を改善するために考案され徐々に広まっていった施策が、とにかく敷居を下げて、気づいたことがあったらなんでも通報してもらうフレンドリーな「なんでも相談窓口」への位置づけ転換です。この方針転換により受信件数は間違いなく増加しました。筆者の知る範囲でも、受信件数をKPI(Key Performance Indicator)の一種のように位置づける企業があり、年間通報数のランキングを掲載するビジネス誌も現れるようになりました。


調査結果が裏付ける内部通報制度の課題

改正前の公益通報者保護法施行直後の通報過少の状態から、その後の過程で通報数を増加させる施策を多くの日本企業が採用したという仮定が正しいすると、現在はどういう状態なのでしょうか。第7回でも紹介した筆者の所属組織であるデロイトの調査結果[1]からその状況と課題を探ってみたいと思います。


課題①:国内海外ともに増加傾向にある不満の表明

図表7で示すデロイトの調査結果から導き出される通報受信件数の増減に関する考察は以下のとおりです。

  • 窓口設置は外部窓口も含めて日本国内のみではなく徐々に海外にも広がっている

→ 国内のみに窓口あり:2018年63.6% → 2019年54.6%(減少)

→ 国内・海外それぞれに窓口あり:2018年14.5% → 2019年19.8%(増加)

→ グローバルで統一した窓口あり:2018年14.2% → 2019年20.7%(増加)

  • 国内の通報受信件数は増加傾向にあり、海外も窓口設置に伴って微増傾向にある

→ 国内通報の年間受信件数10件未満:2018年68.1% → 2019年57.6%(減少)

→ 海外通報の年間受信件数10件未満:2018年64.8% → 2019年58.8%(減少)

  • 一方で、国内海外ともに不正の告発を1割未満しか受信できていない企業の比率(2019年)は、国内通報80.8%、海外通報68.6%と非常に高い

 

[1] デロイトトーマツリスクサービス株式会社 内部通報制度の整備状況に関する調査2019年版
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20200217.html

 

図表7:窓口設置と受信件数の増減

※画像をクリックすると拡大表示します

 

つまり、日本企業の内部通報制度が受信する通報の多くは、通報者自身の職場内での人間関係の悪化に起因する不満や待遇への不満ということになります。こういった事案の多くは、事業上の法規制だけでなく、職場の特性や働く人の価値観といった風土や文化に対する前提知識がないと対応が困難です。日本国内であればまだしも、このような性質の通報を海外から受信して、それに日本本社が対応することに合理性があるのでしょうか。疑問とともに以下の課題を提示したいと思います。

課題①:日本企業は国内・海外ともに、従業員からの不満の表明の受信件数を増やしていくのか


次回は、引き続き日本企業の内部通報制度が抱える課題についてお話しします。

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執筆者

亀井 将博/Masahiro Kamei

亀井 将博/Masahiro Kamei

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー

内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事 ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員 金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援 その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験 外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。主な著書 「統制環境読本」(翔泳社、共著)、「攻めと守りのブランド経営戦略」(税務経理協会、共著)等

和田 皇輝/Koki Wada

和田 皇輝/Koki Wada

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 マネジャー

J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験 2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事 金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援 現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当 主な執筆 電気評論(寄稿)、「炎上リスク」に備えるWebモニタリングのすすめ方(共著)、マンガ 銀行員のためのSNS利用ルール(共著)