Posted: 10 Nov. 2020 3 min. read

第11回 内部通報制度に対する暗黙の仮説の棄却

連載:内部通報制度の有効性を高めるために

第10回で日本企業の内部通制度には暗黙のうちに四つの仮説が存在する、というお話しをしました。今回はその仮説をすべて棄却していきたいと思います。


仮説Aの棄却:通報受信数と不正の告発に相関はない

まず、仮説A「通報には一定の割合で不正の告発が混在するため、通報受信数を増やせば不正をより多く検知できる。」は統計分析的な判断により棄却されるべきです。

図表10および11は筆者の所属組織が運営する内部通報の中継サービスで受信した通報を、横軸:受信数、縦軸をそれぞれ不正、不満として、その相関を検証するために作った散布図です。

 

   図表10:受信数と不正の関係                        図表11:受信数と不満の関係

※画像をクリックすると拡大表示します

出典:デロイト トーマツ リスクサービス株式会社のグローバルホットラインサービスの受信通報を集計


ちなみに、受信数と不正の相関係数は0.43、受信数と不満の相関係数[1]は0.96でした。つまり“通報受信数を増やせば増やすほどより多くの不満を受信することになるが、不正を受信できるとは限らない、不正の受信を増やすためには受信数以外の何らかの要因が必要である”という結論を得たこととなります。この検証結果は筆者の実感値ともぴったりと符合しています。フレンドリーな窓口と位置付ける企業には受信数に比例する不満が寄せられ、対象を不正の告発に限定し、対応言語も絞る受信数の少ない企業には不正の告発がある、といった経験を幾度も重ねてきました。


[1]2変数の線形な関係の高さを検証するために用いられる指標。-1以上1以下の範囲の値をとる。一般的に相関係数が0.7~0.8に達すると相関が高いと見なされている。

 

仮説Bの棄却:不満の表明を内部通報制度で受信すべきではない

次に仮説B「不満の表明も組織風土を改善するためのヒントとして有益であるため内部通報制度で受信すべきである」は、一点だけ“内部通報制度で”の文字列を削除すれば大いに賛成できます。どのような組織にも不満はつきものであり、要員に不満がまったくないという組織は薄気味の悪い団体ではないかと思います。筆者も所属組織に対しては幾分なりとも不満をもっています。そのような普通にあるはずの不満を遮断することは組織にとって非常に大きなリスクとなるはずです。不満を吸収し優先順位をつけて解消する努力を重ねる組織であれば、要員は不満を持ちながらも前向きに勤務できるでしょう。

しかし、その不満を受け止める仕組みとして内部通報制度は適していません。その筆頭が匿名性の堅持です。内部通報制度には暗黙的に匿名性が求められてしまいます。ところが、筆者が最も多く目にする通報「無能で有害な上司Aを本社の力で懲らしめてほしい」に「私は匿名で」の条件を付されると、ほぼ解決不能になります。被害者を特定せずに被害の状況を明らかにしなければならないのだから当然です。

さらに、元来制度に求められる機能の違いも問題になります。内部通報制度にとって最も重要な点は通報内容が事実か否かです。しかし、不満はそのほとんどが対人関係の悪化に起因して発生しており、たとえ不愉快な言動の有無がはっきりしたとしても、互いの心情で許しあうことができなければほとんど解決に向けて前進しません。事実の追及よりも当事者同士の理解や和解を見出すことができるかどうかがカギになってきます。不正の告発を処理する担務および求められるスキルとはまったく異なる技能が必要になりますので、内部通報制度とは別の機能で対応すべきでしょう。

さらに、不満の対応策として有効性の高いものに当事者の異動があります。どうしても修復が困難な人間関係は無理に修復しようとせずに、両者を離して冷却させるという極めて合理的かつ昔から行われてきた効果的な対策です。しかし、この対策は不利益取扱の典型例である“報復人事”とよく似ています。通報者から「私に非はない、左遷させるなら上司Aだ、この異動は通報したことに対する報復だ」と主張されると、この有効な対策も打ちづらくなってしまいます。

よって、この仮説Bも棄却されるべきです。

 

次回は仮説C:「いざ不祥事が発生した場合に内部通報制度の有効性に外部からの疑義を生じさせないように、免責のための受信件数を一定数確保したほうがよい」と仮説D:「内部通報制度は不正検知の主要機能となるべきである」の棄却についてお話しします。

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執筆者

亀井 将博/Masahiro Kamei

亀井 将博/Masahiro Kamei

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー

内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事 ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員 金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援 その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験 外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。主な著書 「統制環境読本」(翔泳社、共著)、「攻めと守りのブランド経営戦略」(税務経理協会、共著)等

和田 皇輝/Koki Wada

和田 皇輝/Koki Wada

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 マネジャー

J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験 2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事 金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援 現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当 主な執筆 電気評論(寄稿)、「炎上リスク」に備えるWebモニタリングのすすめ方(共著)、マンガ 銀行員のためのSNS利用ルール(共著)