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イノベーションとリーダーシップの融合:アマゾンのイノベーション文化

2017年12月21日、デロイト トーマツ コンサルティングはイノベーションとリーダーシップをテーマにしたセミナーを開催し、アマゾン ウェブ サービス(AWS)の中村氏および一柳氏にご講演いただきました。本記事では、インダストリー4.0が迫る中、日本が競争力を維持する上で求められているイノベーション文化とそれを生み出すメカニズムや起業家精神について、アマゾンを例にとり考察しています。

2017年12月21日、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下、DTC)は、アマゾン ウェブ サービス(AWS)の事業開発部マネージャー 中村武義氏および東京オフィス事業開発部マネージャーの一柳健太氏を講師に迎え、セミナーを開催しました。当日は中村氏よりAWSソリューションやIoTエンゲージメントモデルが紹介され、続いて一柳氏よりAWS Machine Learning、AIアプリケーションについて解説いただきました。講演後のネットワーキング・レセプションには、DTCのInnovationリーダー 藤井剛が参加しました。

本セミナーは、業界を超えて破壊的な技術が必要とされている昨今、イノベーションがいかにビジネスに影響を与え組織に価値をもたらすかということを考える場となり、学術研究機関のほか航空宇宙、自動車、化学、消費財、金融、ヘルスケア、保険、テクノロジー・メディア・通信(TMT)業界など、幅広い業界からの参加者から大変高い評価を受けました。

今回、登壇企業として参加いただいたアマゾンは、2017年にテクノロジー、ビジネス、デザインのトレンドを発信する米ビジネス誌、ファスト・カンパニーにて「世界で最も革新的な企業」として選出されています。AWSのサービスは、日本でも幅広く活用されており、そのAIソリューションは多数の企業で採用され成功を収めています。例えば金融サービス業界においては、大量の業務を特定のプラットフォームに移管させることにより、高性能コンピューティング、データ解析、デジタル変換、セキュリティとコンプライアンス、災害時復旧作業の効率化・改善を実現しました。また、ラジオ放送局では「AIアナウンサー」を開発し、放送システムを完全に自動化することにより、災害発生時に重要な情報を幅広く放送できるようになりました[1]。携帯キャリアにおいては、AWSのサーバー上に音声認識アーキテクチャを構築することにより、トラフィック量の急増時におけるパフォーマンスを改善し、拡大し続ける顧客基盤に対応しています[2]

AWSのクライアントは、同社のサービスを利用してイノベーションを実現し、新たな事業機会を創出しています。しかし、日本企業が競争力を維持するためには、これらのソリューションを導入するだけではなく、イノベーション文化、それを生み出すメカニズムと起業家精神を持つことが重要となります。

日本は世界で最も革新的な国の一つです。青色LED、ポータブル音楽プレイヤー、高速鉄道、ビデオテープレコーダー、ポケット電卓、コンパクトディスク、フラッシュメモリー、動体検知機能付きのテレビゲーム用コントローラ、アンドロイド型ロボットなどを発明しており、かんばん方式などの減量経営の原型も日本企業が生み出した優れたメカニズムです。こうしてみると、日本は決してイノベーションが不足してきたわけではありません。欠けているとすれば、イノベーションを受け入れる企業文化、イノベーションを支援するメカニズムや起業家精神なのです。

では、こうした課題を打開するために必要となる考え方や取るべきアクションは何でしょうか?アマゾンの事例から、それぞれの要素についてポイントを解説します。

イノベーション文化

日本企業内のトップダウン型の意思決定構造は、アイディアを実行に移すまで相当な時間を要し、残念ながらイノベーションに向けた取り組みを阻んだり、遅らせる要因となっています。アマゾンをはじめ、欧米で広く浸透する効率性重視のイノベーション文化は、この課題を解消する力を持っています。イノベーション文化を醸成するために、能力主義や成果主義を組織に導入すれば、結果を生み出すための取り組みが一層強化されるでしょう。

ただし、効率を過度に重視すれば、短絡的な思考に偏り長期的に競争力を維持できなくなる可能性があるため、注意が必要です。AWSのCEOであるAndy Jassy氏は、「私たちは、大きな失敗を恐れることなく、新たな取り組みに積極的に注力している」と述べています。イノベーション文化におけるリーダーは多くの事柄について「正しく」、「優れた判断力と直観力」を持ち合わせる必要がある一方で、多様な意見を求め、自身の考えを検証する能力も求められているのです。

イノベーションを支援するメカニズム

アマゾンのイノベーション・メカニズムは、「顧客」から始まります[3]。そのメカニズムは、顧客の視点をとらえ、顧客からの質問に答え、成功の測定基準を定め、予測を検証し、それを繰り返すことにより成り立っています。また同社では意思決定プロセスの一環として仮説づくりや談話を取り入れており、アマゾニアン(アマゾンの社員)はアイディアや考えを書き留めることでそれらをより明確にしています。メカニズム全体は、チームワークを基に成り立っており、その点に関しては、集団合議を重んじる日本の企業文化が役立つでしょう。

起業家精神

アマゾンCEOのJeff Bezos氏は、起業家精神とは「実験する意欲と失敗する意欲」であると述べています。日本企業は、最先端市場の研究、分析、学習、理解には積極的に取り組んでいますが、リスク回避を優先するあまり、実験や試行に関しては保守的かつ慎重な姿勢を維持する傾向にあります。このため、日本は他に先駆けて新たな物事を作り出すというよりは、生み出されたものを見て、それを追いかけることになりがちです。これが、日本には「効果的な決断を下せる強いリーダー」が少ない、「日本企業は危機的な局面に陥ってから、西洋のリーダーを探すことが多い」と言われる所以です[4][5]

イノベーション文化とそれを支援するメカニズムを構築するには、まずは実験と失敗の両方を果敢に求めることができる起業家精神を持ったリーダーが必要であるといえるでしょう。


文責

Kenjiro Suzuki(kensuzuki@tohmatasu.co.jp
Anthony Chang(yuxzhang@deloitte.com


[1]FM和歌山の事例(https://aws.amazon.com/solutions/case-studies/fm-wakayama/
[2]NTT ドコモの事例(https://aws.amazon.com/solutions/case-studies/ntt-docomo/
[3]アマゾンは、14か条から成る自社の「リーダーシップ原則」の一つに「顧客第一主義」を掲げている。
[4]上智大学国際経営学教授、Parissa Haghirian氏の著書“Understanding Japanese Management Practice”より引用
[5]アカマイ・テクノロジーズ エグゼクティブ・アカウントマネージャー、Buster Brown氏の発言より引用

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