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【コラム】 自社の未利用特許、どう活用する?

自社の未利用特許を活用する場合にどのような活用方法が考えられるのか、代表的なアプローチとともに解説する。

イントロダクション

貴社が特許出願を行う場合、どのような目的で実施されているだろうか。多くの企業では研究開発の段階で技術シーズを整理し、既存事業もしくは新規事業に貢献すべき特許を出願しようとするだろう。

知財担当者は共有を受けた発明内容に従って特許出願する場合もあれば、技術者とともに発明の本質をより深く検討し、広い権利を取ろうとする場合もあるだろう。

しかしながら、例え既存事業であっても、我々は将来をすべて見通せるわけではない。出願時点では正しいと思っていた事業の方向性も変化することが多々あるのだ。

ここに特許権の利用状況をまとめたデータがある。このデータによれば活用されていない特許権の割合は2018年度で16.8%、防衛目的の未利用特許も含めると52.4%もの特許権が未利用の状況となっている。

特許行政年次報告書2020年版 図1-2-16より抜粋
特許行政年次報告書2020年版 図1-2-16より抜粋

出所: 「特許行政年次報告書2020年版」(特許庁)https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2020/index.html

 

特許権の維持には一定のコストがかかっており半数が未利用となっている状況下では、自社の未利用特許をどのように活用すべきかの検討は、日々その重要性が増しているといえるだろう。

そこで本コラムでは、自社の未利用特許を活用する場合にどのような活用方法が考えられるのか、代表的な4つの選択肢を解説する。

未利用特許の活用アプローチ

  1. 事業会社への有償ライセンス・特許譲渡
  2. NPEへの特許譲渡
  3. 自社の他事業部への展開
  4. 無償ライセンス許諾によるアライアンス・協業先の探索

1. 事業会社への有償ライセンス・特許譲渡

特許権について自社で活用余地がない場合、まずは事業会社へのライセンス許諾・特許譲渡が考えられるだろう。対象企業にアプローチする方法は下記の通り大きく3つある。

① 個別企業に単独提案

② 特許マーケットプレイスの利用(行政もしくは民間の特許取引データベース)

③ パテントプールへの提供

 

① 個別企業に単独提案

当該アプローチは、自社の担当者が自ら事業会社にライセンス/特許譲渡の提案を行う方法である。こちらは自社のみで行うため、収益も自社で独占でき、活用に関する意思決定を行いやすい点にも特徴がある。

ただし、このアプローチを採用する場合、特許交渉が可能なチームの設置や侵害立証を自ら行う必要があること、相手先からの先行技術により特許権が無効になるリスクがある点に課題がある。

また、提案した特許技術とは異なる事業分野に対して相手から反撃を受けるカウンターリスクにも警戒を払う必要がある。交渉先の事業会社が複数の事業を展開している場合、特許交渉で議論する事業分野とは完全に異なる分野において逆にライセンスを要求される場面もあり、思わぬ反撃を受けることがある点には注意を要するだろう。

 

② 特許マーケットプレイスの利用

当該アプローチでは、ライセンス許諾・特許譲渡を行いたい特許を特許取引データベースに登録し、登録特許の活用を希望するユーザーを待つ方法である。

工業所有権情報・研修館(通称INPIT)が運営する“開放特許情報データベース”(https://plidb.inpit.go.jp/)のほか、最近ではIPweなど民間企業による特許取引データベースも立ち上げられている(https://ipwe.com/

INPIT 開放特許情報データベース
INPIT 開放特許情報データベース
IPweホームページ
IPweホームページ

この方法では一度特許を掲載してしまえばその後はライセンシー・特許譲受人を待つのみとなるため、非常に簡易な方法であるが、買主が実際に現れるかどうかについては確証が得られず、特許活用について不確実性が伴う点には注意が必要である。

 

③ パテントプールへの提供

各種標準化団体が管理するパテントプールのほかにも民間企業が独自に運営しているパテントプールが多数存在している。もし自社の未利用特許が民間企業のパテントプールに合致する場合、当該アプローチは有効な選択肢になるだろう。

ここではパテントプールを運営している民間企業の一例を挙げる。

 

パテントプールへの参画については、自社から運営企業にアプローチする方法もあるが、パテントプールから参画への提案を受けることもある。

 

2. NPEへの特許譲渡

当該アプローチは事業実施を伴わない団体(通称NPE)に特許を売却譲渡する方法である。特許譲渡は主に自社の収益性を改善するために実施されており、特許ブローカーに売却譲渡するのが一般的な方法である。

・特許ブローカーサービス
特許ブローカーサービスはその名の通り特許の買主を探索できるサービスであり、特許ブローカーが直接買主にコンタクトする方法や特許オークションにかける方法などを提供している。特許ブローカーの例としてはP. J. Parker(https://pjparker.com/ja/)やOcean TOMO(https://www.oceantomo.com/ja/)などがある。

これらのサービスはうまく買主が見つかれば特許売却による収益が見込まれるが、一般的に買主を発掘するのに時間がかかる。成果報酬型の契約を締結しているのであれば、収益時期の予定も立ちにくい点には注意すべきであろう。また、特許ブローカーへの手数料も想定以上の負担になることもあり、思ったよりも売却益が出ないケースも想定して判断すべきである。

 

3. 自社の他事業部への展開

このアプローチは上述した第三者へのライセンス許諾や特許譲渡とは異なり、自社事業での新たな活用を目的としたものである。

一例として、筆者の経験を簡単に紹介する。

未利用特許の活用を業務として命じられた筆者は半導体製造に用いられる特定の材料について特許活用を検討していた。当該特許発明は半導体分野において陳腐化しつつある技術であり、発明提案を実施した事業部では未活用の状況となっていた。当時、他社へのアプローチを検討するも、どれも芳しくない結果となっていた。

しかしながら、粘り強く特許活用の道を模索し、複数の事業部と特許内容について共有する機会を得た。特許内容を議論するなかで、半導体分野と関係のない事業部の製造工場内で当該特許技術を利用できる見込みが立ち、実際に技術適用を検討した経験がある。

特許活用を検討する場合は発明提案書時点での事業分野に注目しがちであるが、当該事例のように自社で他事業を展開している場合は特許技術の横展開活用を視野に入れることで思わぬ活用の糸口が見つかるケースもある。

 

4. 無償ライセンス許諾によるアライアンス・協業先の探索

最後にライセンス許諾を実施するものの無償で許諾するアプローチを解説する。当該アプローチは2010年代から顕著にみられるようになっている。未利用特許の例ではないが近年のケースとしては2015年にトヨタが燃料電池自動車に関する特許、約5,680件を無償化した事例が挙げられるであろう*1

トヨタはさらに2019年にハイブリット車の開発において培った電動化に係る特許技術の開放も進めており、その特許件数は約23,740件*2といわれている。

また、同じ自動車メーカーとしてホンダ、日産なども特許開放に取り組んでいる。

特許を無償許諾する理由は各社固有の戦略により実施されるものであるが、一般的には自社が展開する市場の拡大、および自社技術をより多くのパートナーに利用してもらうことで、将来的に自社の周辺サービスへのロックインを企図しているものと考えられる。

自社の未利用特許においてある程度のポートフォリオを組めるものがあるならば、無償許諾を対外的に宣言することでこれまでにない新たなパートナーを得る可能性がある。活用されてこなかった特許技術の裾野が広がることで事業化の芽を誕生させていくことも、特許活用に向けた施策となるだろう。

また、最近では公益性という観点から特許開放を実施する企業の動きもみられており、例えば新型コロナウイルス対策に関連する特許を開放しようとする動きもある*3

*1:トヨタ自動車, トヨタ自動車、燃料電池関連の特許実施権を無償で提供, 2015/1/6, https://global.toyota/jp/detail/4663446

*2: トヨタ自動車, トヨタ自動車、ハイブリッド車開発で培ったモーター・PCU・システム制御等車両電動化技術の特許実施権を無償で提供, 2019/4/3, https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/27511695.html?_ga=2.200187946.586249889.1622698420-741633459.1622698420

*3: 日刊工業新聞2021年5月7日 トヨタもホンダも、自動車メーカーで知財開放が広がる理由

まとめ

以上、自社の未利用特許に関する活用方法について4つの代表例を解説した。

自社特許については定期的に評価を実施しているものと考えられるが、特許評価の際に幅広く活用の選択肢を検討することができれば、最終的に特許放棄という結論になったとしても、一定の合理性をもって意思決定することが可能である。

特許を未利用のまま塩漬けにするのではなく、他社サービスを利用するなどして活用を検討し、自社特許の活用可能性を幅広く考えることができれば、自社の収益性改善ならびに新たな事業展開につながる重要なきっかけになるだろう。

最後に、本コラムが貴社の知財活用および収益改善の一助を担うことができれば幸いである。

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