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「本業リバイブ」によるビジネストランスフォーメーション
事業創出を軸とした変革について日本企業の置かれた現状と課題の概観を整理したうえで、本業を軸としたビジネスモデル変革の考え方、「本業」をリバイブさせることを契機としたインパクトある事業創出について考察する。
はじめに
昨今、既存事業の停滞を背景に、日本企業におけるイノベーション投資・新規事業創出による事業トランスフォーメーション(変革)への取り組みは増加している。「既存(≒本業)」と「新規」という事業の両輪を回すことが、持続的成長の実現に必要であるとの認識は広がりつつあるが、株主・社会・従業員等のステークホルダーが求めるインパクトを生み出す事例は多くはない。つまり、経営者が求められるインパクトある成果を生み出す変革には、イノベーション・「新規」事業創出を軸とした取り組みは打ち手として十分ではない可能性がある。
過去、日本企業の成長を牽引してきた要素は何であろうか。製造業であれば設計力・製造プロセス・現場力等が挙げられるが、これら本業のコア・ケイパビリティとも呼ぶべき要素はもはや成長ドライバーとなってインパクトを生み出すことはできないのであろうか。確かにイノベーション観点では活かせない部分もあろうが、ビジネスモデル観点では活用余地は十分にあると考える。イノベーションとは技術革新と同義ではない。ビジネスモデル革新もイノベーションなのである。既存、すなわち「本業」の力を今一度活性化(リバイブ)させる手法は、インパクトの観点で有効な打ち手と成り得る。
本稿では、事業創出を軸とした変革について日本企業の置かれた現状と課題の概観を整理したうえで、本業を軸としたビジネスモデル変革の考え方、「本業」をリバイブさせることを契機としたインパクトある事業創出の観点を提供する。
1 新規事業によるトランスフォーメーションの難しさ
1.1 顧客が求める価値の変化
COVID-19を契機に社会全体が「集積」から「分散」へ舵を切り、SDG’sの浸透により企業の存在意義が多様化するなど、企業の置かれた環境は旧来価値の転換点にいる。産業革命以降の「伝統的な」産業が造り出す「モノ・サービス」に求められる価値は、顧客の行動様式の変化に応える変革の必要性に迫られ、イノベーションによる新規事業創出を軸にした変革を指向する企業は枚挙に暇がない。本業を維持しつつ、将来を見据えて新たに加えるべき価値の創出を目指すという打ち手に、企業としての変革に対する考え方が見て取れる。
1.2 なぜ変化に応えられないのか
企業は、本業に引き続きフォーカスするリスクを認識している一方、引き続き本業を維持することを第一義的なゴールとして置く傾向が見られ、新規事業により価値を転換し、十分なインパクトを生み出すには課題が多い(図1)。
- 喫緊性に「肌感」を持てない
本業を取り巻く環境変化が現実となるには時間的余裕があるという肌感のもと、足元の業績にフォーカスしてしまい気付いた時には後発になるリスクを過少評価している(外部環境評価が適切でないことによるゆでガエル状態)。 - 組織内部の障壁が高い
経営者から従業員に至るまで過去の成功体験を捨てきれず、変化に必要な文化・組織変革への精神的障壁が大きい。この障壁は結果的に社内政治・本部等事業間のパワーバランスの問題へつながり、取り組みの推進を遅滞させる要因になる - 成果に繋げられるイメージがわかない(リスクを評価・マネージできない)
本業に比して、新規事業は規模が小さい割に、成功確率が低い(総じてリスクの高い)取り組みであると認識される。これは本業における成功体験・リソース・ケイパビリティ等これまで自社を支えてきたものと新規事業取組に必要なものとの差分・アンマッチに起因する。自社が有する・得意とするタイプの取取り組みないため、必要なリスクを取り切れず成果に繋げられない - 取り組み意義が見出せない(なぜ当社がやるのか)
新たな事業・転換の結果生まれる事業は、本業に比して「小さい」動きになりがちである。この「小ささ」が社内において「自分たちには関係ない」「成功しても失敗しても、自社に与える影響が小さいのだから、取り組まなくても良いのでは」という機運を醸成してしまい、本来目指していたインパクトを阻害する
本業におけるホラーストーリーは「本業の無料化」である。元来売上・利益の源泉であった本業が安価に提供され、周辺領域等バリューチェーン上の他の部分でマネタイズされるケースでは、本業の位置付けが低下し事業は停滞し、破壊される。変革の必要性を認識してはいるが、喫緊度の低さ、推進の障壁、インパクトの小ささが、取り組みを難しくしている。
2 本業のリバイブ
前述の難しさを鑑みた際、仮に「過去の成功体験と本業を活かす道がある(=リバイブ)」としたら、企業は変革を進めることができるだろうか。事業を変革することは手段であり、そのゴールはステークホルダーが求めるインパクトを最大化することである。本業に比して新規事業の規模感は限定されている一方、本業を軸とした周辺領域のシナジーを活用したイノベーションの最大化は以下の観点で有効な手段となる(図2)。
- インパクトの大きさ
潤沢なコア・ケイパビリティを有効活用できれば、一から積上げる部分の多い新規事業に比して、有効な拡大施策をアクションレベルで推進できる。加えて、リバイブされた本業を軸にVC全体を変革することで、本業を生かして事業全体でのスケールを目指せる - シナジーの大きさ
本業と新規事業との「距離」は重要である。飛び地の事業とのシナジーは周辺領域のそれと比して限定されることが多い。インパクトの源泉はシナジーであり、本業のケイパビリティを可能な限り活かしたシナジーにおいては、その効果は大きくなる - 推進するのは「ヒト」
事業を推進するのは社員であり、過去の成功体験も含めて本業への思い入れがある。この「思い」の部分を捨て去ることは企業文化の観点から容易ではない一方、本業を軸にすることが出来れば推進の障壁は低くなる。本業の矜持を捨てることなく変革に取り組むことは、組織としての取り組みを容易にすることを認識する必要がある
3 リバイブの要諦
前述のとおり本業を軸とした変革には、「本業」をリバイブすることである。リバイブとは古き良き時代の本業を今一度目指すという意味ではない。将来の自社事業全体を見た時に、本業の位置付けを「再定義」し、新たな事業を含めた全体の中で新たな「本業」として位置付けることである。新規事業を本業周辺で創出し、同時に本業を再定義することで、新たな事業の全体像を目指すべきである(図3)。
- 要諦①:自社「全体」が自分ごと化する
- 本業の位置付けを再定義
既存顧客に提供するサービスライフサイクル全般をマネタイズの源泉ととらえ、本業の位置付けを再定義する。建設業を例にとると、収益の源泉となっていた新築建屋は「価値提供の場」と再定義し、建物ライフサイクルにおけるサービス全般の収益化を目指す。顧客接点の維持・向上、スイッチングコストの増大を伴うグリップを目的とし、デジタルを活用した顧客情報を握ることでこれが可能となる。 - 本業の巻き込み
「新たな事業への取組を局所的な小さい動きにしてしまわない」ことが、変革の成果を最大化する肝になる。本業のリバイブにより自社のコアとなる事業への影響の大きさを認識させることにより、新規事業を注視し、協力する必要があると認識させることで、自社の強みである本業の成功体験・人材・ケイパビリティ等を活用したレバレッジが利いた変革が可能となる。 - 変革に向けた土台作り
変革はトライ&エラーを繰り返すことで洗練される。新たな事業を実践し、その成果・経験を本業のリバイブに活かす、そして再度新たな事業造りに取り組むこのサイクルを回せるよう、評価制度、変革に向けたカルチャーを醸成していく取り組みが必要になる。
- 本業の位置付けを再定義
- 要諦②:本業を軸にしたインパクトの追求
- 「とがった」事業モデルの構想
変革は業務改革とは異なる。本業を軸とし、周辺領域を組み合わせて、今までの自社が取り組んできた事業モデル・バリューチェーンを「破壊する」ほどの事業構想を策定すべきである。その際、自分ごと化した本業サイドが協力して取り組むことで、構想は局所的な取り組みで終わらず、大きな成果を見据えて取り組むことが可能となる。 - 外部の力を活かす
外部環境・デジタル時代の変化スピードに適応するため、外部の力を取り込むことで、オーガニックな取り組みに比して、スピード・スケール共に高めることが可能である。バリューチェーン全体を俯瞰した際、周辺領域の規模が本業を生かすのに十分な規模に成長するには時間がかかる一方で、外部連携・M&A等インオーガニックなアプローチはその時間を短縮し、本業のリバイブの効果をクイックに高めることが可能となる。また、変革を通じて本業の位置付けが変化しビジネスモデルが変わることには、特に自社内部での理解の浸透・行動変容が求められる。自社とは異なった観点・知見・経験を踏まえてこの変化を「翻訳」し、本業と新たな事業を結びつけるための触媒として、また本業と新規事業をつなぐビジネストランスレーターとして、外部の力を借りることは、取組を迅速・円滑に進める観点で有効である。
- 「とがった」事業モデルの構想
おわりに
周辺領域での事業創出は、その領域・内容によっては単なる垂直統合に混同される。本アプローチの特徴は「本業を再定義」することで、バリューチェーン上における位置づけの強弱を転換し、マネタイズ手法を再検討する点にある。バリューチェーン全体での価値を高めることで、本業が引き続き重要な役割を担い続けることができる。
また、機能・組織の変化は外部の力によりスピードアップできるが、社員含む組織としての変化は地道なカルチャーチェンジ・評価等制度設計・オーガニックな推進力の強化を併せて進める必要がある。本取り組みを実際に進めるのは組織に属する「ヒト」であり、取り組みを継続する観点でも、本業を中心として変化していく組織風土醸成するための取り組みは並行して進めるべきである。
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