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事業撤退 ~最悪を想定し、最善を尽くす意思決定~

経営者としての重要な責務である「事業撤退」の意思決定を行うための考え方

不確実な時代を乗り切るために、これから企業経営は、今まで多くの企業が逡巡してきた「事業撤退」を自立的にマネージしていくことの重要性がますます高まってきている。従来、日本企業では「事業撤退」に対して負のイメージが強く、積極的に取り組む企業が少なかったが、不確実時代における「耐久力(生き残る力)」を支える最も有効な手段の一つとして「事業撤退」をしっかりと企業経営に組み込んだ企業が生き残っていく。

経営者にとって「事業撤退」の意思決定は容易ではない。「外部環境への対応」「選択と集中」「株主への説明責任」等々、様々な観点から経営者として不可避で、かつ、最も重要な意思決定の一つであり、判断の遅れが企業の将来を左右すると言っても過言ではない。

一方で、「事業撤退」に際しては、「過去からのしがらみ」「莫大なサンクコスト」「労務問題」「顧客影響」「残る成長事業への影響」など、頭を抱える問題から「意思決定を先送りする誘惑」にかられるのもまた事実である。眼前の事象に応じた「事業撤退」手法と、状況変化に即した判断の考え方を整理し、遅滞なく「最悪を想定し、最善を尽くす意思決定」を行うことは経営者としての重要な責務である。

 

「悩みの種」である事業撤退の決め手は何か?

「過去からのしがらみ」や「発生する諸問題」を超えて本当に「事業撤退」の意思決定ができるのか、手段の選択をいかに行うべきか、説明責任をいかに果たすのか、経営者の悩みは尽きない。意思決定に際しては、①複数シナリオの相対評価、②インパクトの定量化、がポイントとなる。そもそも「事業撤退すべきなのか」を検討する際には、「事業再生シナリオ」との経済効果の比較が必要となり、「事業撤退」を前提として撤退手段の選択を行う際には、複数の「事業撤退」シナリオを比較することで、「ワースト(最悪)シナリオから、ベターな条件を見出す」という発想が可能となる。清算完了までに想定される清算コストを「損失の最大値」と仮定し、当該清算コスト未満を「他社への売却」シナリオの譲歩可能ラインと考えることもできる。「事業撤退」の検討が、初期検討段階なのか、実行段階なのか、によっても精度は異なるが、一定合理的なシナリオの前提を置いた上で、様々な変数を考慮し、定量的に比較可能な数値に落とし込む。それにより、企業として進むべき方向性が明確化される。勿論、定量化を行う経済合理性の観点以外にも多角的に各シナリオを相対評価し、最終的な総合判断を行っていくことは言うまでもない。

<図表1>
複数シナリオの相対評価
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「事業撤退」シナリオ評価には多角的な視点とバランスが必要

「事業撤退」シナリオの相対評価に際しては、経済合理性の観点は勿論、「労働争議リスク」「取引先との紛争リスク」「レピュテーションリスク」「事業撤退完了までのスケジュール」など様々な観点を考慮に入れる必要がある。また、撤退の対象となる事業が、海外現地法人や海外拠点を有する場合、各国の法制度や税制、市場環境を念頭におき、「事業撤退」を行うことによる影響やスケジュールを国別に検討する必要がある。多角的な視点での影響分析を前提として、「事業撤退」の意思決定において何を重視するのか、「撤退までの時間や確実性」「撤退コストの最小化」「レピュテーションの維持」等、置かれている環境下において重視する視点や、望ましいバランスを踏まえ意思決定を行う必要がある。

<図表2>
相対評価時に考慮すべき要素
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「事業撤退」で大事なことは外的環境変化へのスピーディーな対応

企業を取り巻く環境は常に変化する。特に「事業撤退」シナリオに影響を与える外的環境変化に対応して、どのように最善の意思決定を行えばよいのか。「事業の悪化速度」「(予測を超えた)市場環境変化」「潜在的な買い手候補の有無」「買い手からの提示条件」等、「事業撤退」シナリオに影響を与える外部環境は様々である。元々ベスト(最善)だと思っていたシナリオが、外的環境変化により「実現の見込みが立たなくなる」、「(想定よりも)損失が膨らむ」、など時間の経過による変化に応じたスピーディーな判断が求められることになる。そういった外的環境変化に対応して臆することなく「事業撤退」の意思決定を行うためにどうすればよいのか。①複数のシナリオを一時点までは並走、または両にらみにしておく、②シナリオを絞り込む/別のシナリオに切り替える際の「判断ポイント」や「判断基準」を予め設定しておく、などの対策を取ることで、経営者自身がぶれない意思決定を行うことができるとともに、「事業撤退」という痛みを伴う意思決定への説明責任を果たすことにもつながる。

<図表3>
外的環境変化に応じた意思決定を可能とする「判断基準」の明確化
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モニター デロイトの強み

「事業の先行きが暗いことは薄々分かってはいるが、意思決定が先送りにされている」、日本企業の経営者・企業の将来を担う人材の中で、こう言った場面に遭遇しつつも、打ち手を講じることのできなかった経験を持つ方は多いであろう。弊社はこれまで経営者と伴走しながら、企業の命運を左右するような「事業撤退」、「事業売却」の意思決定の場に立ち合い、それを実行するといった経験を積み上げてきた。また、会計、税務、法務、人事、ITなど各領域のプロフェッショナルが国を跨いで連携、各国特有の法制度や税制を踏まえることで、グローバルにわたる事業撤退の意思決定/実行を多く支援してきた実績を有している。デロイト ネットワークとして蓄積された経験、グローバルベースのプロフェッショナルプラットフォームを最大限活用し、悩める経営者の伴走者として価値を提供できれば幸いである。
 

著者

地口 知広/Tomohiro Chiguchi
デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネージャー

大手酒類・飲料メーカーを経て現職。M&Aコンサルティングに従事し、参入市場調査、事業/M&A戦略立案、ビジネスDD、セルサイド/バイサイドM&Aアドバイザリー業務、事業撤退戦略、PMI(買収後の統合検討)に経験を多く有する。

(2020.8.18)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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