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技術リソースにレバレッジをかけるデータドリブンM&Aの活用

自社の技術を補完・強化する技術獲得目的のデータドリブンM&Aの企画・遂行

欧米型の財務起点のアプローチにとどまらず、日本企業が培ってきた開発者・技術資産などのリソースに着目したデータドリブンでのM&Aの企画・遂行が求められている。

目次

ものづくりを得意とした日本企業では、過去に多くの研究開発費を投じて技術を開発しており、豊富な技術資産を有している。一方で、事業活動がグローバル化する中で、自前の技術だけではグローバル競争を勝ち抜けない状況も生じている。近年、多くの日本企業がM&Aを事業強化・拡大の手段として活用しているが、技術獲得の手段としてのM&Aに踏み切る企業も出てきている。

その際に難所となるのが技術の「目利き」である。M&Aでは財務的な計数に基づき企業価値を算出し、評価額に応じて取引を行うが、技術の良し悪しは必ずしも企業価値にダイレクトに反映されるわけではない。また、自社の技術がどの程度の競争力を有するのか、またターゲット企業の有する技術との間でどのような補完関係があり、どのようなシナジーを期待できるのかを十分に検討できていない実態があった。その結果、思うような技術上のシナジーが出ないといったことが多く起こっていた。

また、自社が獲得したい技術を持つ会社を自ら能動的に探すのは時間・コストの観点で容易でなく、日本企業は技術獲得のためのM&Aの機会を逃していると見受けられる。米国では知的財産(知財)に係る訴訟が活発である故に、知財ポートフォリオ拡充に向けたM&Aを積極的に展開する企業が少なくない一方で、日本企業は知財獲得の能動的アプローチを取るケースが少ないのも一因であると思われる。

そこで、企業が有する特許などの知財情報に着目し、データドリブンで定量的に分析することで、ターゲット技術を有する企業の探索や自社のアセットとのシナジーを精度高くプランニングする手法が着目されている。

 

データドリブンでの知財情報分析
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技術起点の提携先探索アプローチ
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本アプローチでは、大量の知財情報を機械学習を用いてデータドリブンで整理することで、注目技術領域の発見や有力技術を有するプレイヤーの検討を「効率的」「網羅的」「客観的」に行うことができる。

従来であれば、特許の読み込みは当該技術領域に明るい技術者であっても多大な時間を要する作業であったが、機械学習を用いることで、圧倒的に短期間で、より多くの情報に基づき、定量的で客観的な観点から技術の分析を行うことができる。また、特定の技術に関する調査にとどまらず、欲しい技術に密接に関連する特許の広がりや件数も可視化することができる。技術に関する情報は情報の非対称性が大きく外部から把握するのが困難なケースが多い中、これらの情報を最大活用することで、目的達成に向けた技術獲得の範囲を戦略的に検討できる。

モニター デロイトは、日本企業のM&Aや知財機能の強化を数多く支援した経験があり、技術獲得に向けたM&Aの課題や難しさを理解したサービスを提供している。本アプローチにおいても、自社の獲得したい技術を持つ企業の特定がゴールではなく、その先にあるM&Aを実現していく必要があり、その点においてもシームレスな支援が可能である。M&A実行フェーズにおいては、知財特有の課題(提携・契約スキーム、果実の分配、税法上の留意点、撤退時の措置等)についても、より一層複雑性が増すことを念頭に置く必要がある。

デジタル化の進展により、従来は定量的な検討が難しかった技術情報に基づく戦略検討が、より身近なものになっている。多くの技術資産を抱える日本企業にとって、眠れる技術を活用し、新たな事業創出につなげるためにも、技術獲得目的のM&Aを有力なオプションとして考えておきたい。

著者

金田 あづき / Azuki Kaneta
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー

新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社、一貫してM&A・組織再編に関連するプロジェクトに従事。
製造業を中心に様々な業界に対し、M&A・アライアンス/組織再編/全社コスト構造改革/BPO活用アドバイザリー等の幅広い経験を持つ。
 

(2020.8.14)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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