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間接機能外部化(アウトソーシング)ディールの要諦
売り手が迫られる社内・候補先との“二正面作戦”、その難しさと回避・突破方法
間接機能外部化(アウトソーシング)検討の際、社内・候補先に同時に対峙する「二正面作戦」状態に陥りがちである。克服のためには、事前に確実に社内をコントロールした上で、候補先との協議に臨むことが肝要である。社内(経営層・対象会社幹部・一般従業員)からの抵抗や候補先との協議で差がつきやすいポイント、そしてそれぞれに対する対応策について解説する。
導入:外部化検討ニーズと、特有の難しさ
柔軟で多様な働き方が社会的に広く認められるようになった昨今、優秀な人材を獲得し繋ぎとめるために、旧来の硬直的で画一的な人事制度から脱却し、付加価値に応じたメリハリのある処遇を実現する必要性がますます高まっている。その実現のため(あるいはより端的に企業自体の存続のため)、従来の間接機能のあり方を見つめ直し改革に着手するケースが見受けられる。
「外部化」(アウトソーシング)は、間接機能改革のソリューションの1つとして認知度が高まっているが、ディールの進め方において一般的なM&A案件とは異なる特有の難しさがあり、思うように検討が進まない場合がある。その要因として、自社内と候補先とに同時に対峙する調整の難しさ(いわゆる「二正面作戦」)が大きいと考えられる。以下、親会社が間接機能子会社を対象に外部化を検討する事例を念頭に置いて、検討リーダーや実務担当者目線での難しさと対応策を取り上げる。
第1の戦線:社内の“抵抗勢力”との対峙
外部化案件では社内各部門・対象会社に潜在する“抵抗勢力”と対峙する場面を生じやすい。事前の社内合意形成が不十分では、候補先の選定・詳細協議といった後段プロセスへの着手が難しい。また、仮に候補先との協議に進んでも、社内の抵抗が大きくなると検討自体が停滞・中断しかねない。
そもそも「二正面作戦」を強いられないよう、社内調整は候補先との対峙前に確実にコントロールすべき事項として捉え、そのための準備を徹底的に行うことが求められる。社内から示される様々な不安感・抵抗感はあるが、いずれも適切な方針やスキームを構築し説明することで払拭が可能なケースが多い。その際、不安・抵抗を示す相手によって対応に変化を持たせる手法論も重要となる。候補先を巻き込む前の社内合意形成に沿って、①親会社(売り手)経営層、②対象会社経営層、③対象会社従業員からの典型的な不安・抵抗についてそれぞれ述べていきたい。
① 親会社経営層:目的・進め方について認識が一致しないケースが想定される。
A) 思惑・目論見が異なり方向性が定まらないケース
まず、対象会社をグループから切り離したくないために外部化自体への反対があり得る。他に、外部化には賛同するものの目的意識や期待感が異なるケースがあり、コスト削減手段としてオペレーショナルな領域を外部化するのか、成果主義導入などを見据えて企画系も含め聖域なく外部活用を進めるのかで意見の相違を生むことがある。
対応として、経営陣で外部化検討そのものの是非を問い議論を交わす絶好の機会と捉え、課題認識から目的・目標、Go/No Goの判断基準(経済効果・雇用維持・その他メリットの優先順位付け等)までを密に合わせることが望ましい。後々のプロセス全体を見据えたときにも経営陣としての意思統一は推進力を生み出すために非常に重要である。
B) “特定候補先ありき”でプロセスを進めようとするケース
検討開始時から、懇意にする特定ベンダーのみを対象にプロセスを進めようとする場合がある。しかし、既存取引の有無と外部化の成功とは必ずしも結びつかないだけでなく、特定ベンダーありきの進め方を疑問視する声が社内で上がり検討自体への疑念が生じる可能性もある。
対応として、複数社でのコンペ形式で各候補先からの業務知見や改善提案を比較する正攻法を採ることが必要である。それでも特定ベンダーの選定に傾く場合は、当該ベンダーとの(既存取引との関連性も含めた)折衝に注力し、より良い提案を引き出すことも一案として想定される。
② 対象会社経営層:外部化構想と検討指示が伝えられた際、対象会社視点での理由とともに強い反発が生じる場合がある。
C) 自助努力により十分改善可能であるとの反発
「コスト削減施策を自力で検討・実施しており、今後さらなる削減も可能であるため外部化は不要である」との反発がよく見受けられる。
対応として、まずは過去・今後の施策内容と削減額を詳細に定量化することが必要である。その上で、「契約上のコミットメントを得られる外部化候補先の提案削減額と比較しても実現可能性の高い自助努力と言い切れるのか?」を合理的に判断することが求められる。また、施策内容によっては必ずしも外部化と自助努力のトレードオフではなく、双方を合わせたコスト削減効果を獲得できる、との説得を行うことも考えられる。
D) 業務の性質上、外部化できないとの反発
「対象会社はグループ外に外部化できない業務を有するため、外部化検討自体に意味がない」との反発も起こることがある。
対応として、そもそも対象会社が業務を整理しきれているのかの確認が必要である。業務が整理されていれば、オペレーショナル業務は外部化、判断業務等は対象会社に残置(親会社に移管)、等と決断できる。根強い反発が起こり得るが、候補先や外部アドバイザーの目線も活用して、「他社では類似業務が何件も外部化されたが、なぜ自社では不可能なのか?」を改めて問い、むしろ候補先の知見も用いて業務を整理しきる絶好の機会と捉えることも一案である。
③ 対象会社従業員:不確かな報道・情報も巻き起こる中で現場ならではの不安や抵抗が想定される。
E) 外部化後の雇用・処遇への不安感
「候補先子会社の一員となった後、雇用や処遇条件はどうなるのか?自分たちの経験・スキルでキャリアパスが開けるのか?」との声が出るケースがある。
対応として、候補先との交渉においては、最低限守るべき条件を設定し契約に盛り込むことが多い(例:一定期間の雇用・処遇条件維持)。同時に、親会社・対象会社から従業員に対する真摯な説明が欠かせない。具体的には、現状ではグループとして投資が難しく、いずれ規模縮小を余儀なくされる実情や、外部化後はベンダーにとってのコア事業メンバーとなるためキャリアアップ機会が望める将来像について、(必要に応じて候補先とともに)説明を行う。
F) 現グループへの帰属意識
「グループとしての対象会社、グループとしての一従業員という意識が大きく、帰属意識を感じていたグループから切り離されるのは納得できない」との声も聞かれる。
対応として、こちらも現状・今後に関する説明が必要であり、株式保有や役員派遣により親会社との繋がりも残ること、サービスの主要提供先は現グループ各社のままで関係性・業務内容は激変しないこと、将来的にはグループ外への業務提供機会も広がること、等を伝え納得してもらうケースが多い。
第2の戦線:外部化候補先企業との対峙
将来の外部化パートナーとなる候補先企業とも、対峙しなければならない時が来る。候補先の選定・協議プロセスを進める中で、社内に外部化の知見・経験や検討リソースが十分に備わっておらず、百戦錬磨の専業者である候補先に主導権を握られてしまう、というケースが想定される。
候補先は様々な業界・企業に対して間接機能子会社の外部化を提案し実行するため、ディールプロセスの要諦から対象業務の見極め及び今後の提供サービスの訴求ポイント整理、最終契約条件に関する交渉術まで、知見・経験面で売り手を大きくリードしていることが多い。特に差が大きくなりがちなリソース、プロセス知見、業務知見の3点を例に挙げる。
G) 検討プロセスに投入するリソースの差
候補先は外部化の提案から実行までを本業と捉え、投資活動として取り組んでいるため、各領域のスペシャリストを十分に揃えたチームを組成し検討に臨むことが基本である。一方で、売り手親会社及び対象会社としては、外部化検討は本来の業務に追われる中での非定常的業務であり、膨大なタスクを処理するのに必要なメンバーを確保しきれないことが多いと想定される。
H) ディールプロセスに関する知見の差
関与メンバーを確保できたとしても、ディール経験や類似業務経験の無い/少ないメンバーで対応せざるを得ないケースも多い。ディールの“慣例”や“常識”を知らないまま検討を行うと、候補先の主張する通りに動くことになりがちであり、売り手・対象会社として各種条件(前述のコスト削減額や対象従業員の処遇条件等)を守り切れないリスクが生じる。
実際の事例として、「対象会社全従業員の年次・役職・過去数年間の給与詳細・所持資格やスキル等について、個人を特定可能な形で開示してほしい。これは外部化検討でのスタンダードな対応である」と候補先が売り手側に迫ったことがある。何の制約も無く詳細人事情報を共有することは対象会社従業員のチェリーピック※に繋がるため、特に慎重を期すべきである。
※ M&Aにおいて、複数の会社・部門から自らの利益になる対象を選別して買収すること。ここでは、年次や適性、スキルにより従業員を選別して移管対象とすること
I) 外部化対象事業に対する知見の差
候補先は外部化対象事業について各業界・会社へ提案・サービス提供を繰り返しており、対象会社の事業に対してもコスト面・品質面での改善提案を行えるだろう。売り手としては「もっとコスト削減できるのではないか?」「さらなる品質向上を提案してもらえないか?」と考える。
これら検討リソースや知見不足への対応としては、
- 現在付き合いのあるベンダー任せではなく、コンペ形式を採り複数の候補先に競わせること
- 外部化検討支援の経験が豊富なアドバイザーを起用し、可能な限りプロセス全体を通じて候補先との調整・交渉等をハンドリングさせること
等が効果的だと考えられる。
とはいえ、検討プロセスでは時に対峙することになる候補先企業も、最終的に選定されてからは今後数年間あるいは更に長期に渡る協業のパートナーとなることにも触れておきたい。たとえ契約協議中に互いの主張をぶつけ合い、摩擦を感じていたとしても、契約締結・クロージング後は双方“ノーサイド”の精神で仕切り直し、新たなステージに共に進むのである。
最後に
外部化は、特定の業種に限ることなく、経営の効率化及び事業の競争力向上に直結するテーマであり、多くの企業がこれまでに経験し、また、将来に向けても直面していくテーマであろう。外部化を推進していく上での本質的な課題は共通しており、各企業がそれら課題への対処に試行錯誤を繰り返しているものと考える。本稿が外部化に取り組む関係者に対して、間接機能改革の推進と、その先にある経営変革の実現へ向けた一助になれば幸いである。
執筆者
有馬 雅博/Masahiro Arima
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー
M&A戦略検討・ディール実行支援を多く手掛ける他、複数の大規模グループ組織再編の経験も有する。ディール実行支援の中でも、買収/売却方針検討、ターゲット/候補先選定、ビジネスデューデリジェンス、契約交渉助言等の支援実績を数多く有しており、ノンコア事業・子会社の売却検討や、間接機能部門・子会社の外部化検討における売り手・対象会社への支援を得意とする。
(2022.03.07)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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