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「変革」志向のM&A「一貫」戦略

M&Aトランスフォーメーション戦略

海外や新たな市場への進出が必須となる中で、これまで培ってきたものを「変革」することに迫られている企業も多い。そしていくつかの企業はM&Aを通じて「変革」を起こし、成長を実現している。本寄稿では、ブレークスルーに苦しんでいる日本の企業の成長の一助となればと思い、M&Aを通じて「変革」を起こすために必要となる「一貫」戦略を紹介している。

M&Aを「変革」のトリガーに

国内市場の成長が滞る中で、成長に苦しんでいる日本企業は多い。これらの企業の多くは、海外や新たな事業領域に希望を見出すも、必ずしもその試みが成功しているとは言えない。なぜ試みがうまくいかないのか。その理由として、新たな領域へ踏み出す際に、その領域における成功要因を理解し実現に必要となる自らの変化に対応できない企業が多いように見える。多くの企業は、変化が必要であることを当然の如く認識しているものの、これが「変革」といえるほどの非連続な変化が必要となった際に、「総論賛成・各論反対」の例に見られるような抵抗のモメンタムが発生し、当初の目論見は腰砕けとなり、「変革」には至らないのである。

そのような「変革」を引き起こすトリガーの1つとして、M&Aが有効である。M&Aのタイプには大別すると「機能補完型」と「市場獲得型」があるが、より深く、DNAレベルからの融合・化学反応を目指す「企業変革型」のM&Aを提言したい(図1)。単なる「足し算」ではなく、「掛け算」のM&Aと言ってもよい。市場も機能も共に異なる企業同士が融合して、自己変革し合うイメージである(図2)。

図1. M&Aの3類型
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図2. 「変革」志向のM&Aの特徴
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その好例が、日系グローバル機械メーカーA社の中国進出である。A社は、中国進出に向けてそこで求められる戦い方・能力を客観的に見定めた結果、自社にとっては大きなチャレンジと判断し、その実現には従来の成功体験の延長では全く通用せず、抜本的な「変革」が必要だと判断した。中国市場における多様性、競争の激しさ、そもそもの勝算の厳しさ、最精鋭人材の必要性を早期に見据えていたのである。そこで、中国で小型買収を積み重ね、現地でビジネスを回すための中国人優秀層を取込みながらA社と現場レベルで融合することにより、企業DNA、価値観、発想そのものを転換して新規市場に対応できる組織を再構築し、非連続な変化である「変革」を成し遂げた。

M&Aを通じて成長に必要な「変革」を起こすために、私たちには何が求められるのであろうか。M&Aはこれまで、ケイパビリティやこれを支えるリソースを獲得するために用いられてきたが、新たな市場やビジネスモデルに挑むためには、多くの場合において、売り手の仕事スタイルを許容するだけでなく、買い手自らがスタイル・発想の仕方を変える「変革」を起こす必要がある。そしてそのためには、ケイパビリティやリソースの深層にあるDNAまでを取り込み、融合する必要がある。つまり、「変革」志向のM&Aにおいては、買い手(自社)と売り手(相手)のコア・コンピタンスをDNAのレベルまで掘り下げて理解すること、また、相手のDNAを受け入れられるかを自社の視点で理解するだけではなく、自社のDNAを曝け出し相手が自社と一緒に成長機会を創造していけるか、相手に拒絶反応が起きないか、を理解することが追加的に必要になる(図3)。このような過程を経ることで、初めて相手のDNAを取り入れ自社のDNAに突然変異を起こし自社の「変革」に至るのである。さもなければ、「『新生●●』のビッグピクチャーへの橋頭保として異文化の会社を買ったはいいが、乗りこなせずに当初の目論見は頓挫した」という結末に終わりかねない。
 

図3. コア・コンピタンスの階層構造
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また、買い手と売り手が自身のコア・コンピタンスを拠り所に、何を成長の基軸とし、統合会社において互いにどう貢献できるのかを明らかにしておくことも必要だ。買い手に求められるのは、相手依存・他力本願ではなくギブ・アンド・テイクの関係であり、寧ろ何を与えられるかが求心力として重要となる。結果として、統合会社のコア・コンピタンスはどう進化・昇華するのか、そもそも基底のDNAレベルで融合し合えるのか、それを以てどのような価値を創造できるのか、インパクトはどの程度か、などについて言語化したブループリント「仮説」を(ポストM&Aフェーズではなく)プレM&Aフェーズの早い時点で構築し、これを段階的に互いに検証し合う。従来型のM&Aプロセスから一歩踏み出した相互検証の形による検討・交渉の過程を踏むこととなる。
 

 

「一貫」戦略でブレなく「変革」を牽引

上述のような構想・交渉は、これまでM&Aを活用してきた企業においても新たな試みであることが多く、一朝一夕にできるものではない。では具体的に何をすればよいのか。私たちは、(前述の)ブループリントを鑑としながら、自社が何を成し遂げたいのか、そのためには自社をどこまで深く「変革」しなければならないかをM&Aプロセスを通じて「一貫」して問い、明らかにし続けることがポイントと考えている。

確かに、プレM&Aフェーズにおいて、成長戦略と自社の現状ケイパビリティを比較してケイパビリティ・ギャップを整理し、このギャップを埋めるためのM&A戦略を策定することは一般的に行われている。ただし、単なる足りないケイパビリティ及びリソースの獲得・強化・放出に留まらない、「事業のスピード感」等について、企業の根底からの「変革」が必要となることがある。この段階において、「変革」を起こすために自社にはどのようなDNAを取り入れる必要があるのか、これを用いて非連続な変化を起こしどのような姿になるべきか、という道筋を問い続け、これをブループリント仮説へと落とし込むのである。「表面的」なケイパビリティ獲得だけを追っていては、隙が生まれ、キーマンの流出等を許し、「変革」にまでは至らない。

このブループリントは、非連続な変化を成功に導くために骨太かつ構造的に作り込む必要があり、常にWhyを問い続けケイパビリティやリソースのレベルに留まらずDNAのレベルにまで深め、理解を練り上げ続ける必要がある。そして、いざM&Aの交渉が進みデューデリジェンス(DD)の段階に入った際にも、検証を進める中で明らかになった対象会社と手を携えブループリント「仮説」を実現することができるのか、そもそも相容れない、DNAレベルでの「相性の悪さ」の根が無いか、を深く検証することが必要となる。また場合によっては、DDのプロセスを進めつつも、そもそもの成長戦略まで立ち戻り対象会社のDNAに応じてブループリント「仮説」を再構築し、検証し直すことも必要となる。このようにブループリント「仮説」を軸として、戦略からDD検証まで(ヨコの一貫)の、かつ、コア・コンピタンスからDNAまで(タテの一貫)の「一貫」ストーリーを構築し、それに照らしながら検討を進めることが「変革」を起こすM&Aでは重要となる。すなわち、①コア・コンピタンス再解釈→②ポートフォリオ戦略再構築→③Make or BuyのM&A戦略策定→④統合的DD→⑤バリューチェーン機能単位での新たな価値のビルトイン、というプロセス(図4)を、いかにフロントローディングで回し始め「一貫」して問い続けるかが「変革」成功の鍵となる。

また、この考え方は持ち込みによって始まるM&Aにおいても有効となる。持ち込み案件の場合は、準備不足であることが多く時間的制約があるため、「対象会社の資産査定」のような「表面的」な検討に基づき意思決定が行われることも多いが、限られた時間の中でも、持ち込まれた対象会社から「逆算」的にブループリントを構築することによって、M&Aの意味合いを深く検討することができる。そして場合によっては、持ち込み案件をトリガーとして「変革」に至ることも可能だ。
 

図4. プレM&Aフェーズで「変革」を組み込むプロセス
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総括

企業間のM&Aは個人でいう結婚に喩えられることが多いが、とかく「愛だけでは結婚できない」と言われる通り、結婚生活の維持は必ずしも容易ではない。「新たな家族をつくり、新たな命を育む」こと。それは新たな価値創造に向けた自己「変革」のプロセスに酷似している。家計(固定費をシェアしつつ、将来に備え資金形成していける経済力も重要だ)や生活スタイルの見直しに、価値観のすり合わせも必要だ。子供が生まれれば、子育てプランも考える必要があるが、「親の心子知らず」、子供は親が願う通りには必ずしも育たない。その場合に、夫婦で何を拠り所にするか、どう助け合うのか。片方に丸投げのままでは、いつか不満は溜まり、夫婦関係は破綻する。独り善がりであったり、奔放、優柔不断であったりする夫や妻にはパートナーもついていかない。たとえその過ちに気づいても、心が離れた後では、時既に遅しだ。取り返しはつかない。逆に、家族で真の信頼関係を築ければ、どんな苦難にも立ち向かう力、絆が生まれるし、行く末にはきっと幸福が待っている。こうしたことは家族を持つ身なら誰しも痛感しているものだが、個人レベルですら困難な道のりである。ましてや、企業レベルであれば経営の複雑性が絡むため、尚更に難易度は高くなる。だからこそ、M&Aを梃にした企業変革においては、「そもそもなぜM&A(結婚)したいと思ったのか」「根本の価値観は共有できていたのか」「お互いにどう助け合うべきだったのか」「どんな新会社(家族)を築きたかったのか」という立ち返るべき原点、ブループリントを(状況変化に応じてアップデートしながらも)早期から持ち続けること。これがまさに「変革」の“礎”となるのである。

かような点を踏まえながら、モニター デロイトは、日本企業の変革パートナーとしての実績を積み上げてきており、M&Aディール単発の支援だけでなく、M&Aはあくまで手段、トリガーとして、企業変革と目に見える成果・価値創造までを一貫して支援することが可能である。

 

著者

山口 剛史/Takeshi Yamaguchi
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

外資系戦略コンサルティング、大手監査法人系財務アドバイザリーファーム等を経て現職。
商社、化学業界、電気機器・重電機器、自動車業界の幅広い業界のクライアントやプライベートエクイティファンド等に対し、10年以上のコンサルティング経験を有する。
近年は中期経営計画・事業戦略策定からM&A・アライアンス実行支援に注力し、M&A・アライアンスを活用した戦略実行のアドバイザリー案件を数多く手がけている。

(2020.09.09)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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成長戦略策定、新規事業開発、海外進出等のシーンにおいて、外部企業との連携や協業(出資・買収・JV・提携)は今や日常的手段ですが、構想・交渉面で固有の難しさも存在します。難しさに対処しながら、創発的活動としての戦略策定と、適切なリスクテイクを支えるファイナンスの双方を融合した、In-Organicな戦略策定を支援します。また「相手ありき」のM&Aでも画餅化しない構想策定と、Post M&A局面の、着実なバリューアップ(Tangible Value-up)施策や事業創造の実現ステップまで、戦略と実行を融合させる打ち手を包括的に支援します。
 

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