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調査レポート
企業のイノベーションと変革を加速させる5GとWi-Fi 6
Deloitte’s Study of Advanced Wireless Adoption 日本版
ネットワーク接続されたデバイスの数が急激に増加する中、5GやWi-Fi 6 などの先進無線ネットワーク技術は、デバイスと人間をつなぐ不可欠な要素になると想定されます。本稿ではデロイトのグローバルサーベイ「Study of Advanced Wireless Adoption」をもとに、世界における5GとWi-Fi 6の導入状況や戦略的位置づけを比較するとともに、日本の特色について分析しています。
グローバル版:3つの主要な論点
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世界中の企業がどのように先進無線ネットワーク技術を導入しているか(動機、課題、意向を含む)を把握するため、デロイトでは2020年初頭に米国のネットワークを担当する経営層415人を対象に調査を実施した後、2020年第4四半期に新たに9カ国で5GやWi-Fi6の導入を計画しているネットワークを担当する経営層437人を対象に調査を行った。調査結果からは以下の大きく3つの主要な論点が導出された。
急速に企業の注目を集める5GとWi-Fi 6
COVID-19のパンデミックの影響が広がる中、今回の調査では各国のグローバル企業のネットワークを担当する経営層たちは5GとWi-Fi 6を自社のビジネスイニシアチブにとって最も重要な無線ネットワーク技術とみなしているという結果になった。COVID-19の流行により、リモートワーク、オンライン学習、自動化に対応するためのより品質の高いネットワークに対する需要が急増したことが主要因となり、いつでもどこからでもアクセスできる安全で高品質なネットワークに対する企業のニーズが明確に示されたといえる。
国別の導入状況からは、5GとWi-Fi 6は同時導入の傾向にあることが分かる。企業は先行して、両技術をそれぞれの環境に導入しており、屋内やキャンパス内、固定ネットワーク環境ではWi-Fi 6を、屋外、キャンパス外、モバイルネットワークの環境では5Gを好む傾向がみられる。企業は先進無線ネットワーク技術を使った幅広い利用シナリオをターゲットにしており、従業員保有デバイスや社内の機器間ネットワーク、顧客ネットワークのそれぞれの場面での活用を模索している。今回の調査ではすべての調査対象地域において、Wi-Fi 6の運用/試験運用が5Gの運用/試験運用を上回っており、ドイツ、ブラジル、UK、中国、オーストラリアではWi-Fi 6の導入率が70%以上に達している。(図表8)
イノベーションと変革の基盤となる先進無線ネットワーク技術
経営層は先進無線ネットワーク技術(5GとWi-Fi 6を含む)が3年以内に自社および自社の業界に変革をもたらすとともに、他の先端技術を活用するための基盤になると考えている。
具体的には、ビッグデータアナリティクス、クラウドコンピューティング、エッジコンピューティング、AI、IoTといった、デジタルトランスフォーメーションの取り組みの中核となる革新的な技術を展開するためには、先進無線ネットワーク技術が重要であるとの回答が多く得られた。(図表12)
企業はもはや先進無線ネットワーク技術ソリューションの導入・構築方法とその他の革新的テクノロジーの導入方法を切り離して判断することはできない。リーダーたちは先進的ネットワーク技術を自社のエンドツーエンドのエンタープライズアーキテクチャ(EA)の重要な構成要素として考慮していく必要がある。
先進無線ネットワーク技術導入の広がり
本調査では、企業内ではIT担当の経営層と実務担当者が先進無線ネットワーク技術の導入を主導しているとの回答が多く見られた。先進無線ネットワーク技術、特に5Gに関わる技術への取り組みを実現するには、アプリケーションプロバイダやクラウドプロバイダ、無線ネットワーク事業者、コンサルタントおよびシステムインテグレーター、機器メーカー、インフラプロバイダなどのプレイヤーで構成される複雑なエコシステムが必要になる。5Gのネットワークアーキテクチャは、仮想化、オープン化、プログラマブル化が進み、ベストオブブリードのコンポーネントが普及することが見込まれる。通信事業者であれ、テクノロジープロバイダであれ、システムインテグレーターであれ、すべての要素を取りまとめるオーケストレーター(調整役)の役割は今後ますます重要になるだろう。
導入に当たってセキュリティと既存システムとの下位互換性が重要課題となっている点や、無線ネットワークアプリケーションとサービスにクラウドとエッジを導入することが想定される傾向にあることにも注目すべきだ。
グローバル版:先進ネットワーク展開におけるポイント
無線ネットワーク技術を導入している企業が現在行っている戦略的意思決定は、その企業の将来の地位に影響を与える可能性がある。企業が先進ネットワーク導入に関する意思決定を行う際には、以下の点を考慮する必要があるだろう。
■導入企業の意思決定におけるポイント
- 最終ゴールを意識する:導入企業は実現したい利用シナリオを検討し、状況に応じてどの無線ネットワーク技術(一つまたは複数)を選択するのが最適かを判断する必要がある。
- データ戦略:接続された機器やセンサから大量のデータが流入する場合、データの保存・保護・分析方法について、企業には熟考された戦略とポリシーが必要になる。
- イノベーションインフラ:企業は先進無線ネットワーク技術を個別の検討事項または後回しとするのではなく、自社のイノベーションインフラおよび戦略の中核に据える必要がある。
- インテグレーションとネットワーク管理:企業は複雑なインテグレーションを自社で行うか、パートナーを探すか決定する必要がある。また、何千ものデバイスが存在するネットワークを自社で管理・認証・保護できるかを評価する必要がある。
一方、次世代ネットワーク製品やサービスのサプライヤーは、以下の点を考慮するとよい。
■サプライヤーの検討ポイント
- 課題をチャンスとして捉える:導入企業が課題として挙げるセキュリティや下位互換性、事業価値の把握や適切なユースケースの特定といったテーマについて、経験豊富なベンダが自分たちの専門性や価値をアピールするチャンスがある。
- エコシステムにおける自社のポジショニングの明確化:無線ネットワーク技術の導入企業が支援を求める可能性が高いソリューションの構築やコンポーネントのインテグレーションに関して、専門知識を提供できるかどうかを検討する。
- イノベーションパートナーシップ:ネットワーク製品およびサービスを提供するだけでなく、イノベーションや変革のための信頼できるパートナーとなることを目指す必要がある。
日本の見解:5G/Wi-Fi 6の普及シナリオとROIの罠への処方箋(要旨)
「日本の見解」では、日本における5G/Wi-Fi 6の現在地や導入状況、今後への意向を他国との比較を通じて分析し、確実に待ち受ける5GやWi-Fi 6が普及する将来に向けて、日本企業が抱える課題や取り組むべきポイントを整理した。
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5G/Wi-Fi 6の特徴と、日本における現在地
5Gサービスは国内では2020年より各通信事業者が展開し始めており、都市部を中心に提供エリアが拡大している。段階的ではあるが「高速・大容量」、「低遅延」「多数接続」を特徴とした5Gネットワークのメリットを享受できるような環境が整備されつつある。一方、Wi-Fiは注目を浴びる機会が少ないが、高速・大容量化や同時接続数の増加、省エネ性能向上などの特徴を兼ね備えた新規格のWi-Fi 6が登場するなど着実な進化を遂げている。5GとWi-Fi 6には通信速度や遅延・距離といった機能面での違いのほか、認証方法やライセンスの要否、コストにも差異がある。こうした特性の違いから利用シーンやユースケースの使い分けが行われ、両通信規格の補完・共存関係が進むと想定される。(図表A)
先進無線ネットワークに対する日本企業の導入状況・スタンス
今回の調査結果からは、日本では5GとWi-Fi 6ともに、準備中のステータスである企業の割合が最も多いことが分かる。具体的には「使用に向けて準備中」とする回答が5Gは45%、Wi-Fi 6が35%と調査国平均に比べて多く、「複数部署で試験的な運用/実験」は双方とも平均程度であることから、先進無線ネットワーク導入への意欲はあるが、まだ「多数の部署で業務用に展開」「企業全体で展開」するには至っておらず、本格導入には慎重な姿勢であることが見て取れる。(図表B)
本調査の日本の回答企業では、5Gでは展開しやすさ、Wi-Fi 6ではコスト面、また技術の成熟度とネットワークの管理・カスタマイズのしやすさが評価されており、図表Aにあるようなポイントに加え、こうした特徴を踏まえて5GとWi-Fi 6の使い分けが模索されると考えられる。
導入に向けての主要課題に関しては、日本の回答では(1) 先進無線ネットワーク導入における不透明なROI、(2) セキュリティ面での懸念、(3) 適切なユースケースの特定が上位に挙げられている。(図表D)
先進無線ネットワーク導入は、通信のインフラとしてだけではなく、デバイスやエッジコンピューティングを含むデジタルアーキテクチャとしての大規模な投資が求められる一方、導入効果に対する不確実性が大きく、意思決定に際して決定打を欠いている状況にあることが見て取れる。他方でROIやユースケースの課題は5G/Wi-Fi 6に限らずAIやデジタルテクノロジーの普及時の課題と共通点が多く、幻滅期に差し掛かった最先端技術が乗り越えるべき典型的なハードルと考えられる。
先進無線ネットワークの普及パターンと競争戦略
5G/Wi-Fi 6が次世代テクノロジーとして期待先行で捉えられていた時期は終わり、現在はROIの特定やユースケースの確立といった「幻滅期」に向けた典型的な課題に直面するステージにある。ただし、4Gまでの通信規格の進化と普及パターンが示すように、将来的には「普及期」へ移行が進み、新たな通信の基盤となる確実な未来が待ち受けている。そのなかで企業としてどのようなスタンスで5G/Wi-Fi 6 等の次世代ネットワークに取り組むべきであろうか。一律の解は存在しないため、(1) 従来の通信サービスの普及パターンと5Gの相違点、(2) 導入企業にとって次世代ネットワークが競争領域なのか非競争領域なのかという視点を踏まえて自社のスタンスを定義することが必要と考える。
無線ネットワークは変革期にあり、各産業領域にとってビジネスチャンスが豊富に存在する。この状況を自社の成長の機会として捉えることが肝要である。次世代の通信ネットワークの普及は確実に訪れる未来であり、次世代ネットワークを競争領域として捉える企業は他社の成功事例を待つだけではなく、ROIの罠を乗り越えアーキテクチャや人材への投資を能動的に加速させることがより一層求められる。