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データモダナイゼーションがDX成功のカギ
DXの真価を決めるデータモダナイゼーション
昨今話題のDXとはユーザーへの価値提供とCXサイクルを目指すものであり、その評価は提供するサービスの源泉である企業内外のデータから創出される価値によって計られます。企業内データのほとんどは唯一手段的に丁寧に正規化されたリレーショナルデータベースに格納されています。これらをクラウドネイティブの多種多様なデータモデルに変換し、価値創出を目指すデータモダナイゼーションの方法や技術を紹介します。
1.『データモダナイゼーション』 – クラウド時代の成熟期のDXやCX成功のカギ
DXやCXの実現と早期の効果獲得を目指し多くの企業がクラウド移行を始めています。クラウド移行はマイグレーションとモダナイゼーションの2つに大別され、さらにはアプリケーション、データ、プラットフォームの移行の対象と方法の組み合わせで手法が定義されます(図1 参照)。アプリケーションを対象としたモダナイゼーションでは、Webインターフェイスによるデータラッピング、ソースコード分析によるリファクタリングやコンバージョンなどを支援するツールや技術が主要な言語を対象に存在しており、多くの企業で検証・評価が進み本格展開も始まりつつあります。
図 1 モダナイゼーションの6つの手法(6R)
モダナイズされたアプリケーションはマイクロサービスアーキテクチャやコンテナ、サーバレスなどクラウドネイティブな技術やソリューションで要件に基づき最適化されますが、利用するデータも同様にモダナイズされ有効活用されなければ真のDXやCXの実現には片手落ちです。特に、企業内の既存データは、アプリケーションが利用するデータをシステム管理の都合で構造化されたデータモデルで管理されている(※)ことがほとんどです。データモデリングの方法や技術の背景からこれは必然かつ最適解でした。クラウド時代も成熟期に入った現在では、アプリケーションが利用するデータは、新たな技術やソリューションの恩恵を受けている一方で、既存データは既存データモデルのままクラウドに移行(データマイグレーション)されていることが多いのが現状です。クラウド時代も成熟期に入った今、『データモダナイゼーション』によって既存データの利用価値を高めることを提言します。
※業務データをデータ重複排除のためのキーと関連データセット(エンティティ)により分割された正規化表により、システム管理の観点からリレーショナルデータベースで管理されている。
【データモダナイゼーションとは】
- 既存データモデルをクラウドネイティブで活用しやすいデータモデルに変換すること
- モダナイズされたアプリケーションの新たなデータとモダナイズされた既存データから価値創出を目指すこと
図 2 既存データの活用パターン
最近では,データモデルの変換にも様々な方法論やテクニックやツールが存在します。実際にはデータの移行には、高く厚い壁(※)があり、データモダナイゼーションを回避するケースもあります。しかし、このことが投資対効果としてのDXやCX実現の足かせになる可能性があります。当然ながら本格的な取り組みに際しての事前の検証や評価が重要です。今回、 “データモダナイゼーション”にフォーカスした連載の前半では、“データモダナイゼーション: これまでとこれから”と題して、“データモダナイゼーション”にまつわる昨今の動向について深堀していきます。本稿が事前の検証や評価を含めデータモダナイゼーションに取り組む契機となれば幸いです。
※技術変移と経年対応から、変換不能な拡張文字の扱い、データバグのプログラムパッチの解読と対処、移行完了判断の難解さなど技術では解決不能な課題(高く厚い壁)です。乗り越えるためには知恵と経験と時間と労力と英断が必要です。
2.『データモダナイゼーション』におけるデータマネジメント
データモダナイゼーションは従来既存システムに眠っていたデータをクラウドネイティブの環境の適した形で利活用できるようにします。これにより顧客接点でのCXの向上とこれに伴う新しいビジネスモデルや新サービスの創出の可能性が高まります。このようにCXの世界では新しいビジネスモデルやサービスが生まれる日々の新陳代謝が盛んに行われるため、CXサイクルにおけるデータモデリングの変化やデータの移動、形式、ひいてはデータの使われ方などに追随したデータマネジメントが求められるようになります。近年、こうしたデータ利活用の活発化に対して、データマネジメントにおける全体的なデータ統制を行うための役割が定義され、徐々に企業にも採用されつつあります。システム全体のデータ統制の実行責任と結果責任を担う“データスチュワード”、ある問題を解決するためにデータに対する分析を行う“データサイエンティスト”、そしてこれらのデータ利活用においてデータを適切な状態に整える“データエンジニア”などの役割です。これに加えて、既存の“データサイエンティスト”だけでなく、業務部門の担当者が自部門の課題を解決するための示唆を得るために集められたデータを利活用して分析する動きが出はじめています。このようにデータ利活用に対する敷居を下げて広く様々な人が自らの目的に沿って自由にデータを分析できるようにする動きは“データ民主化”と呼ばれ注目を集めています。“データ民主化”はデータ利活用による可能性を大幅に広げる一方で、データの流動性や拡散化・分散化を加速させ、データに対する統制・管理を難しくします。このため、データに対して統制をかけて正しく利活用することが前提となり、データ統制を含むデータマネジメントが“データ民主化”による組織全体でのDX推進の成否を握る重要な要素となってきます。
図 3 データモダナイゼーションにおけるデータマネジメント全体像
“データモダナイゼーション“にフォーカスした連載の後半では“データモダナイゼーションにおけるデータマネジメント – 変化するデータに追随するための新しいデータマネジメント”と題して、データ利活用における、データの流れ、変化、などのデータ来歴を見える化するデータカタログ管理とデータリネージの技術について紹介します。このなかでCXサイクルの中でモダナイズされるデータとデータモデリングをどう効率良く管理するのかなどの課題と今後のあるべき姿について取り扱います。今後ますます重要となる“データモダナイゼーション”を中心としたDXにおけるデータマネジメントについて考える契機となれば幸いです。
著者
松谷 和明 / Kazuaki Matsutani
デロイト トーマツ コンサルティング スペシャリストディレクター
Systems Delivery & Modernizationユニット データモダナイゼーション オファリングリーダー。
前職ではアプリケーションアーキテクトとしてSOAやマイクロサービス設計のメソドロジー開発やプロジェクトに従事。2022年1月より現職.現在は自らがリードするクラウドネイティブ開発プロジェクトにてCenter of Excellence(CoE)を創設し、ユースケース駆動開発のメソドロジー開発やパプリッククラウド活用を前提とした標準規約の策定、DevOpsツールチェーンの構築に取り組んでいる。
森村 知弘 / Tomohiro Morimura
デロイト トーマツ コンサルティング シニア・マネジャー
Systems Delivery & Modernizationユニット ソリューションチーム(Modernization Solution Studio:M-S2)リーダー
前職時代よりオンプレミスのオープン系システムおよびプライベートクラウドの構築から、ハイパースケーラのパブリッククラウドへの移行、モダナイゼーションについてアーキテクトとして様々なプロジェクトに従事。2021年10月より現職. 現在はクラウドネイティブ環境へのモダナイゼーション全般をテーマとしたソリューション創生に取り組んでいる。