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Deloitte Insights
人とAIが協働する組織
企業がAIのポテンシャルを享受するために
真に人とAIが協働する組織となるために、ビジネスにおいてどのように関与し合うのかを根本的に考え直す必要がある。AIは、新たなビジネスモデルやオファリングの開発手段であり、決して小さな改善施策ではないのである。
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Tech Trends 2019-Beyond the digital frontier
日本のコンサルタントの見解
人かAIか、ではなく人とAIがいかに協働するか
近年、AIやロボットで代替可能な職業や労働人口はどのようなものか、国内外でリサーチ結果が纏められニュースを賑わしている。どの職業なら永らく生業としていけるのか、あるいはそれを獲得するためにはどのような教育を受けるべきか、その議論のトーンはどちらかと言えば将来に対する不安感が表れているように思う。
この文脈を踏まえ、デロイト「Tech Trends 2019」の本編では「人とAIが協働する組織」と題し、AIが、企業のコア業務に組み込まれ、人間の知的労働を支え拡張しながら自律的に動いていく将来像を描いた。邦題は「人がAIと協働する組織」としたが、原題は、AIが車の燃料のように隅々に行き渡りながら人がAIを制御し、企業の価値創造活動にレバレッジを掛けていくニュアンスを有している。
Thomas H. Davenportは2015年に『オーグメンテーション:人工知能と共存する方法』1 において、AIが人間に取って代わるのでなく、大量のデータ処理や高頻度の繰り返し処理によって人間をサポートする世界観を描いた。本編においても、直近3年間のアップデートを踏まえて、更なる将来像を述べ、将来像実現に向けたユースケース、アーキテクチャ、組織やプロセスの論点を概観したうえで、AIをどのように組織のオペレーションに組み込むのが良いか模索する先進企業の取組みを紹介している。そこでは、自動運転をはじめとするこれまでの代表的なユースケースに留まるのではなく、AIの存在を前提としてオペレーションを組み直していくことを推奨している。読者においてはこの機会に、AIを用いた仕組みを上手く乗りこなせる組織、またそうした仕組みを作り出せる組織に向けたムーブメントが始まっていることを理解してもらいたい。
AI時代に向けて人間が現在行っておくべきこと
さて2018年の「Tech Trends」では「ノーカラーワークフォース」と題し2 、来るAI時代において、人間がAIにできないこととして発揮する能力は何か、俯瞰した。人間がAIに取って変わられることは無いものの、組織が競争に勝ち残るためにはAIを用いて人間だけでは成し遂げられなかったことを実現する必要があり、そこへの変革を支える人材が育っていかなければならない。
いま「AI教育」がニュースで頻繁に取り上げられるようになっている。例えば、幼少の発達期にはモバイルデバイスやレゴを用いたプログラミング教育が、中高生向けには読解力や論理性といった言語能力の基礎を高めるための教育研究が始まっているようだ3。また大学では、データサイエンス教育を謳うカリキュラムが増え、ビジネスセンスも兼ね備えたデータサイエンティスト育成のための産学連携の事例も現れるなど、注目を集めていることはいうまでもない。
それでは、企業の一般的な社員に対してはどうだろうか。特に新卒採用をはじめとする若手社員に対しては、これまでの業務のやり方を知り一人前になるまで叩き上げることは当然重要であるものの、それだけで終わってしまっていることが未だ多いのではないかと懸念される。
テクノロジーの進歩と変化が速すぎ、先々を見通して必要な教育研修を組むことが難しいのは事実である。しかし技術的観点から見れば、AIに対してデータを学習させ人間の判断に近づけていく仕事や、AIが判断した後に人間がレビューし必要に応じてネクストアクションを修正していく仕事、またそれらを組み合わせながら業務にAIを組み込む企画を行っていく仕事は、これから増えていき、また当面は人間の力を必要とするため、人材を育成する価値はあるものと考えられよう。
またそもそも、これまでにも長らく存在し確立できておかしくないはずのもの、即ちデータから得られる限りの知識を駆使し、行動に活かすという教育啓蒙活動が充分に成功している話もなかなか聞かれない。アメリカに限っても、データサイエンス人材は14万人から19万人不足するのに対し、データをもとに効果的な意思決定を行えるマネジャーは150万人不足するという予測が8年前にレポートされたが4、その状況は大きくは変わっておらず未だ教育・推進を行っていくべきテーマである。
若手社員、特にミレニアル世代は、インターネットやモバイルデバイスに触れて多感な時期を過ごし、テクノロジーを活用することに馴染んでいると言われる。ビジネス感覚や自社のオペレーションを身に着けたら、次は、このような世代の力で組織を変えていく取組みの機会を与えてはどうだろうか。もしそのようなことが実現可能な組織がベンチャーやハイテク企業に限られてしまうように思われるのだとしたら、遠からず彼らの職場選びに影響してしまうことであろう。勿論そうした取組みにもROIの説明責任は求められる必要がある。しかし、これから確実に訪れる変革を前に、将来にわたる負債を残すことのないよう、マネジメントは適切な委譲の仕方を一考しておくべきではないだろうか。
いつどこから始めるのか
昨年は様々な業界で、データの利活用とその推進に悩むクライアントと討議の機会を得られた。そこで語られるのは、AIを活用して新たなビジネスモデルが生まれ、業務の生産性が向上する姿であり、それを支えるための人材が育っていく将来像である。一方で共通して聞こえてきたのは、いざ始めてみたがROIが出ない、ユーザに使われない、概念実証を実施しているものの現場に受け入れられないガジェットに留まっているといった所感、あるいはこうしたケースが繰り返されることによって生じてしまう「新しいテクノロジーに関するプロジェクトを中途半端な形で始めるのは良くない」などといった疲労感や幻滅である。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の困難に対しては、組織横断で、かつビジネスとITに跨って変革をドライブしていく経営層として、チーフ・デジタル・オフィサーあるいはチーフ・データ・オフィサーを設ける企業が海外で増えている。更に、本編でも触れたような新たな局面として、AIとの協働を組織的に推進するために、チーフ・AI・オフィサーの設置に係る議論もある。一方日本では、こうしたポストが見られるのはまだ一部に留まり、経営のコミットメントさえあればという声が現場で聞かれることも珍しくない。鶏が先か卵が先かの議論に陥りがちだが、前記のような疲労感や幻滅のうちはROIが出ていない状況が多く、そこへ経営から踏み込むのは難しいというのも真であり、どこかの専任組織や特定のCxOが変革を始めてくれることは難しいということを弁える必要もあるだろう。
全社として今後必要な取組みであるとの認識が一致しているならば、組織横断で立ち上げられるソリューション構築のプロジェクトの中に、こうした人材の育成や、業務プロセスの再構築、あるいはQuick-winを重ねるためのプログラムガバナンスをマストアイテムの一つとして組み込んでおくべきである。決して業務課題の一つとして現業部門側の整理作業に渡すだけでなく、積極的に組織間ですり合わせを行い一歩一歩進化していく姿を共有しなければならない。
本編中でも触れられた通り、海外の有力企業ではAIを構築し活用し続けていくためのプロセスや、組織体制、人材育成、アーキテクチャ等を包含した戦略とロードマップの整備を進める企業が増えてきており、間もなく日本にも同様の潮流が訪れるだろう。決してIT部門だけで出来る仕事ではないものの、かつてないほどデータとテクノロジーに対するビジネスからの期待は高まっている。IT部門においては、サイバーセキュリティ、個人情報保護など「守り」の難しさも一層高まる今日ではあるが、是非この機をとらえ、自社のなかで他ならぬ専門家として、来るAI時代に対する「攻め」のイニシアティブに乗り出してもらいたい。
参考文献
1. Thomas Davenport:Harvard Business Review『オーグメンテーション:人工知能と共存する方法』(2015)
2. デロイト「Tech Trends 2018」『 労働力の新しい概念:ノーカラーワークフォース』(2018) https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/technology/articles/tsa/no-collar-workforce-techtrends2018.html
3. 新井紀子・尾崎幸謙:NIRAオピニオンペーパー『デジタライゼーション時代に求められる人材育成』(2017) http://www.nira.or.jp/pdf/opinion31.pdf
4. McKinsey Global Institute "Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity"(2011) https://www.mckinsey.com/business-functions/digital-mckinsey/our-insights/big-data-the-next-frontier-for-innovation
執筆者
三木 聡一郎 マネジャー
外資系ソフトウエアメーカー、日系コンサルティング会社を経て現職。金融・
製造・サービス業を中心に、システム構想策定や業務立ち上げ、クロスボー
ダー・大規模トランスフォーメーションプロジェクトに従事。
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