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Deloitte Insights
次世代コネクティビティ
高度化ネットワークのスペクトルとポテンシャルを生かす
5G、低軌道衛星、メッシュネットワーク、エッジコンピューティング、超広帯域ソリューション、ソフトウエアによって定義されたネットワークやネットワークの仮想化により、企業は急速に拡大・進歩するコネクティビティを活用しやすくなる。
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Tech Trends 2019-Beyond the digital frontier
日本のコンサルタントの見解
次世代の通信インフラ5Gの到来が意味するもの
現行の通信規格4Gの10~100倍の通信速度で超低レイテンシを実現し、数十億台ものデバイスを同時にネットワーク接続できる次世代の通信規格が5Gである。5Gが自動車産業や医療現場などに普及することで、IoT・AIによる自動制御やAR/VRなどを活用した遠隔からのオペレーションの実現が加速すると考えられている。
本編に記載されている通り、世界最大の鉱業企業であるBHPビリトンは、次世代の通信インフラを最大限に活用することで遠隔オペレーションセンタを立ち上げるなど、積極的にバリューチェーンの自動化を推し進め、生産性向上やコスト削減の実現に成功している。企業は、5Gの活用を模索し、従来の人手を要するオペレーションからAIに委ねるオペレーションへと次々にシフトしていくと考える。その結果、様々な産業において、地理的な制約を受けにくくなり、これまで以上に自動化された社会が到来するのである。
英調査会社IHS Markitによると、世界全体での5Gによる経済効果は2035年までに最大で12.3兆ドルに達し、世界のGDPを2020~2035年に3兆ドル押し上げると予想されている。日本においては、総務省が5Gによる経済効果を約46.8兆円と試算し、特に交通分野や製造業・オフィス関連での効果が大きいと見込んでいる。今後、5Gによる新たなビジネスチャンスが急速に広がっていくことが想定されている。
一方で、5Gの普及は企業にとってメリットだけをもたらすものではない。様々な形態の大量のデバイスが新しい通信規格で接続する「ヘテロなIT環境」は、サイバー攻撃を受けやすく、情報保護の観点においても十分なセキュリティをどのように確保するのかが問われることも意味している。このような世界規模での社会インフラの革命を目の前にして、日本のIT産業はどう取組むべきなのか、また5Gを活用する企業のCIOに求められる、果たすべき役割は何なのか、以降にて考えていきたい。
日本のIT産業はどう取組むべきなのか
日本は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に合わせて5Gによるサービスを開始することを目標に、通信事業者が実用化に向けた実験を開始している状況にある。しかし、通信インフラの整備に必要な資金の問題などを抱えており、国策として取組んでいる他国との競争に遅れを取らないかが懸念されている。
日本経済新聞社の調査によると、2015年では7位であった光通信速度が2018年には23位に転落している。原因は、光回線の接続装置が年々増加するデータ通信量に対応できず、通信インフラへの投資が鈍化しているためであると指摘されている。オフィスや自宅においては無線LAN経由で光回線を利用することが多いため、このままでは5Gを導入しても接続装置がボトルネックになり、本来の通信速度が得られない。また、5G対応基地局などの通信インフラの整備には多額の投資が必要であり、これら資金面での課題を解決しなければならない。
総務省は、2020年の実用化に向けたロードマップを発表し、国際連携や産学官の連携を強調している。通信事業者は、資金面や技術面などの課題に対して政府や研究機関に協力を仰ぎつつも、投資に見合った回収をどのようにして実現するのか、マネタイズの検討が急務といえる。一時的な回収で終わらないよう、オリンピック以降も見据えた長期的な視点での検討が重要といえる。
また、通信機器メーカーも単独で取組むのではなく、商品化に一早く動き出しているアメリカや中国、韓国に遅れを取らないよう、5Gの普及に必要となる各プレイヤとのアライアンスを推進すべきである。例えば、ソフトウエア開発会社と連携し、デバイスの管理ツールやセキュリティ対策ソフトウエア等の開発を先行するといった取組みである。先行している海外企業を圧倒するには、同種のプレイヤと手を組むことも視野に入れる必要があるだろう。日本のIT産業がここで立ち上がらなければ、日本の社会インフラの変革は遅れを取り、ビジネスチャンスを逃してしまうことになる。日本は官民をあげた積極的な投資活動を通じて、昨今のデジタル技術と5Gを活用した新しいビジネスの創造をリードすべき時期に来ている。
日本のCIOが果たすべき役割とは
本編では、ビジネスの期待に応えるためのネットワークケイパビリティの向上をCIOの優先事項として挙げている。具体的には、拡大するデジタルアジェンダを支えるためのコネクティビティ戦略の立案や、5Gや低軌道衛星通信などの革新的な通信技術の展開を推進するための役割を新設するなどの取組みがある。
日本企業においては、先進的な通信技術の到来に備え、自社のIT戦略や組織、アーキテクチャの在り方を見直し、ネットワークの整備などに新規投資していくような舵取りは難しいのが実情である。既存システムのメンテナンスやビジネス部門からの日々の要望への対応に追われているケースが多く、定量的な効果が見えにくい新規投資は先送りになりがちであるからだ。
そのような状況を打破するためには、現場から声を上げるだけでなく、CIO自らがネットワークケイパビリティの向上の必要性を経営層に訴求していくことが有効ではないだろうか。先進的な技術が今後自社のビジネスに与える影響を理解し、競合他社に取り残されないためにも、取組みの必要性・意義を十分に示していく役割が求められる。既存ビジネスの保守的な投資に留まるのではなく、海外競合の動向を掴み、技術トレンドを踏まえた新たなビジネスの創出に資するIT投資をしていくための、長期的なビジョン・IT投資計画を策定すべきである。なお、「攻め」のITだけに目を向けるのではなく、「守り」のITについても注意したい。自社を取り巻くネットワーク環境が大きく変わることで、セキュリティ対策など従来のガバナンス態勢では凌ぎ切れない局面を迎えるからである。
加えて、「モノ」や「カネ」だけでなく「ヒト」、IT組織についても今後必要な知識・スキルを兼ね備えた人材の育成・獲得に向けた施策が必要である。経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計の調査結果」によると、今後の人口減少の影響に伴い、2030年にはIT企業およびユーザ企業を対象に約79万人ものIT人材が不足すると指摘している(2016年時点では約17万人が不足していた)。今後、必要なIT人材を獲得していくのは益々困難になるといえる。AI等のデジタル技術の活用を推し進め、保守・運用といった定型的なオペレーションは極力自動化し、戦略や企画立案といった非定型の業務に人を割り当てられる体制を現在から準備すべきである。
最後に
5Gや低軌道衛星通信などのネットワークの革新的な進化によって、全く新しい価値を生み出す「破壊的イノベーション」が起こり得る状況にあるといえる。各企業は従来製品・サービスの向上を進める「持続的イノベーション」に固執しないよう、注意が必要だろう。日本企業のCIO自身が「Chief “Information” Officer」から「Chief “Innovation” Officer」へとトランスフォームし、率先して新たな変革に取組む姿勢を示すのも打ち手の一つではないだろうか。日本企業がこの機会を逃さずに躍進することを期待したい。
執筆者
斉藤 宏樹 シニアマネジャー
金融、製造およびエネルギー産業を中心に多様なインダストリーに対して、IT投資・コストマネジメント、ITガバナンス強化、IT組織変革、システム化構想等のIT Business Management領域を軸としたコンサルティングサービスを数多く提供。
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