Deloitte Insights

テクノロジーマクロフォースの拡大

過去、現在、未来のテクノロジートレンドを理解する

クラウド、アナリティクス、デジタルエクスペリエンス、ブロックチェーン、コグニティブ、デジタルリアリティ、セキュリティとプライバシーを見据えたサイバーリスク戦略などを、テクノロジーマクロフォースと定義する。

>> Tech Trends 2019日本版はこちら <<

Tech Trends 2019-Beyond the digital frontier

日本のコンサルタントの見解

はじめに

テクノロジーの影響力が日増しに高まっていることは、本編をご覧いただいている皆様は常日頃から感じている周知の事柄であり、あえて論じる必要性を感じられないかもしれない。しかしテクノロジーの進化がどのように企業のビジネスモデルや市場の変化に影響を与えつつあるかを、3分野計9つのテクノロジートレンドに分類し整理している本編は、読みごたえがあったのではないだろうか。

本編ではこれらを9つのマクロフォースとして紹介している。クラウドやアナリティクスなどそれぞれが重厚かつ重要なテーマではあるが、各々を深掘りするだけではなくその組合わせが肝要であると論じている。本編では先行しているWalmart社やTalanx社、KONE社の事例が紹介されているが、各社とも複数のマクロフォースを縦横に組合わせて価値を最大化していることが見て取れる。マクロフォースが互いに連携しあうことでデジタル革命がより一層推し進められ、新たな戦略的、業務的機会が生み出されているのだ。コンサルタントの視点として、特に注目しているマクロフォースを3つ取り上げて論じたい。

トップダウンで進むデジタル化

近年デジタルディスラプションを企業経営に対する脅威ととらえ、トップダウンでデジタル化に取組む傾向が、特に大企業を中心に顕著に表れている。2018年4月に行われた日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査1 によると、デジタル化実施済み(検証中含む)と回答した企業の割合は全体で約20%。これに対し売上高1兆円以上の大企業では約70%と突出している。さらに着目すべきはその伸び率で、16年度の約50%に比べて20%近く増加している。実施済み企業のおよそ7割はデジタル化を企業の重要事項として認識し、経営会議等で議論・報告されるとしており、大企業を中心にトップの意識改革が大きく進展していることが見て取れる。

一方、デジタル化を実際に推進する現場レベルではどうだろうか。同調査によると、デジタル化を企画・推進する人材に求められるバックグラウンドとして、約8割の企業が社内のIT部門と事業部門両方を経験すべき、と回答している(1位~3位の合計)。ビジネスとテクノロジーの境界線が曖昧になった今日、複数の部署で経験を積みつつ社内における人的ネットワークを広げることは重要な取組みであり、特に日本では部署をまたがった異動が制度として確立しているため、これを強みとしてとらえ有効に活用すべきである。

マクロフォース「ビジネスオブテクノロジー」では、IT組織の再編・再定義について論じている。「Tech Trends」では、すべての企業がテック企業であり、すべての従業員がテクノロジストであるという考えをメインテーマに据えており、デジタルトランスフォーメーションはIT組織だけではなく経営層や事業部門も含めた総力戦であると位置づけている。レガシーシステムの保守運用や付加価値の低いルーティン作業からIT組織の人員を解放し、よりビジネスの成果に直結する活動へ注力させるよう、テクノロジーチームの在り方を変革することが極めて重要である。

ブロックチェーンの与えるインパクト

多くのクライアントから「ブロックチェーン」についての問い合わせをいただくが、その大部分はこれが自社のビジネスに将来どのように影響するか、利用する場合のメリットはなにか、いつから取組むべきか、といった点である。つまり裏を返すとすごく流行っているがメリットを感じ取れないので教えてほしい、という相談である。ビットコインが高騰しつつも様々な問題を露呈したのが2018年であるが、一方で着々と次世代情報伝達プラットフォームの基礎技術としてのブロックチェーンが育まれてきている。それはさながらインターネットの勃興期のような様相を呈している(つまり、まずはつながることが重要、その後に実装技術やセキュリティ等が追いついてくる)。中央集権的な仕組みを構えずに、高度に暗号化されたデータを各自が持ち合うことで、高い対改ざん性や可用性を提供できることがブロックチェーンのメリットであるが、実際はトータルで発生する費用は高くなるし投資効率を考えると中央集権的な仕組みの方に分がある。ではなぜ人々はブロックチェーンに熱狂するのか。それはプラットフォーマーから主権を取り戻すための民主主義活動である、というのは言い過ぎかもしれないが、実際のところ、そこまでイデオロギー色が強くない日本人の発想や感覚にブロックチェーンはなじみにくいと感じている。国内で既存の中央集権的なシステムをブロックチェーンで置き換えるプロジェクトが先駆的に進んでいるが、難航することは想像に難くない。

一方、グローバルでは金融業界を中心に着々と企業での採用事例が出始めている。デロイト グローバル ブロックチェーンサーベイ20182 によると、回答者の約3分の1以上が何らかの形でブロックチェーン導入を本番環境で行っており、約8割がブロックチェーンを導入しない場合自社の競争優位性を失うことになると回答している。同時に全体の3分の1に上る回答者が、現在のブロックチェーン技術へのROIは依然として不確かであるとも感じている。しかし、技術的ハードルやポリシーなどの制限の解消がさらに進めば、今後数年間で企業間のゲートウェイテクノロジーやEAIなどのインテグレーションレイヤにおいて飛躍的な進歩が見られることは間違いないだろう。日本企業としては、今すぐ飛びつく必要はないが技術トレンドから目を離さず、概念実証を通じて知見を蓄えながら機会を虎視眈々と伺う姿勢が必要であろう。

2025年の崖を超えるために

経済産業省のレポート3 により、唐突にトレンドワードとして世に躍り出た「2025年の崖」である。まだご覧になっていない読者は一読を勧めたいが、感じ取れるのは「コアモダナイゼーション」への取組みが鈍い日本企業に対する強い危機感であり、警鐘を鳴らすためにあえてショッキングな用語を用いた渾身のレポートである。既存システムの課題を克服できない場合、2025年以降最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性がある、といった危機的見通しが書かれているが、唯一のファクトは2025年に大部分の企業で現在稼働しているSAP ERPのバージョン(ECC6.0)がサポート切れとなる、というただ1点であり、それ以外はここから逆引きをして記載されていることが容易に読み取れる。

一方で、実際にクライアントと接する中で強く感じているのは、単にレガシーシステムをリプラットフォームするだけにとどまらず、クラウドテクノロジーを最大活用しデジタルビジネスの基盤となりうる次世代のERPコアを構築するためのロードマップ策定に本気で取組み、過去のアドオン負債からいかに解き放たれるかを本気で模索している企業が想像以上のペースで増加している点である。「御用聞きベンダはいらない」という言葉は、我々に対して直接発せられたものではないが、我々のこれまでのクライアントサービスが真に価値のあるものだったのか、改めて振り返る契機となった。彼らにとってみれば2025年を待たずいち早くコアモダナイゼーションに取組むことはリスクではなくチャンスであり、同業他社をデジタルビジネスで出し抜くための重要戦略の1つなのである。

おわりに

昨年の「Tech Trends 2018」ではテクノロジー再構築というテーマで、SoR (System of Record)とSoE (System of Engagement) の融合によるエンタープライズアーキテクチャの再構築を論じた。たった1年で軸が2軸から9軸に増えているのはテクノロジートレンドが複雑さを増している証とも言える。昨年は試験的な施策をバーチャルな組織で実施し、小さな成功体験を社内で積み上げてから組織とルールを漸進的に見直すべしと進言した。CxOの組織改編に対する理解は確実に進んでいるものの、組織変革については試行錯誤以前に「思考錯誤」を繰り返し、結局何も進んでいないという状況が散見される。これはテクノロジートレンドが複雑さを増していることと決して無関係ではない。クラウドやアナリティクスなど、各組織が担当しているテクノロジー領域を持ち寄ってイニシアティブを立ち上げるものの、既存組織間のシナジーや既存アセットの利活用を前提とした運営方針にがんじがらめになって、身動きが取れなくなっているのではないか。9つのマクロフォースを自在に操ることができる少数精鋭部隊をCxO直轄組織として組成し、大きな権限を与え様々なしがらみを超えて軽やかにデジタルビジネスを立ち上げる、そういった大胆な施策を実施する時期がきているのではないか。

参考文献
1. 第24回 企業IT動向調査2018(17年度調査) ~データで探るユーザー企業のIT動向~ (一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)
2. デロイト グローバル ブロックチェーンサーベイ 2018~ Breaking Blockchain Open https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/risk/articles/ra/globalblockchain-survey-2018.html
3. DXレポート ~ ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)  http://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

テクノロジーマクロフォースの拡大 (日本版) 【PDF, 1,673 KB】

執筆者

関川 秀一郎 執行役員 パートナー

外資系SIerおよび日系コンサルティング会社を経て現職。20年以上のIT経験を有し、業界を問わず様々な企業のIT戦略立案やシステム構想策定、基幹業務システム導入に従事。特にテクノロジー領域のコンサルティングに強みを持つ。

お役に立ちましたか?