Posted: 20 Aug. 2019 3 min. read

試合が面白ければ観戦者は満足するのか?

―アメリカ・ドイツとの比較で見えてきた日本のスポーツ観戦のポテンシャル―

今年の夏も暑い、熱い。全国各地でスポーツの試合、イベントが行われている。そして間もなく開催されるラグビーワールドカップを皮切りに、今後3年に亘って世界的なスポーツイベントの開催が日本で予定されている。スタジアムでの観戦体験はきっと「一生に一度」の体験になるだろう。また、このチャンスを逃すまいと様々な関係者がこの「スポーツ」の可能性に猛チャージをかけている。

そもそもスポーツほどステークホルダーが多く、複雑な業界はないかもしれない。クラブ、選手、協会、地方自治体、地域住民、スポンサー、ファン、観戦者(ファンと観戦者は明確に違う)と、数え上げたらきりがない。(図1)

図1. スポーツビジネスを取り巻くステークホルダー(一部)
図1. スポーツビジネスを取り巻くステークホルダー(一部)

近年ではBリーグやTリーグ等のプロフェッショナルリーグの発足で、より一層スポーツが身近に感じられるようになった。観戦者が増えるに伴い、観戦スタイルや嗜好も多様性を増している。SNSやブログには個々人の観戦体験が投稿され、イイネや反論、シェアが盛んだ。

こうしたトレンドに呼応するように、観戦者を意識したスタジアムでのサービスやVR / ARを駆使した動画サービスなどが市場を賑わせている。顧客中心の考え方には大いに共感するのだが、なぜか払しょくできない違和感がある。単独、単品のソリューションがほとんどだからである。

スポーツの観戦体験はスタジアムや競技場の中だけにとどまらない。それは、試合情報を知った時から既に始まり、観戦後の仲間との食事、SNSでの情報収集・発信そして翌日のニュースで結果を確認するまでの一連のものである。だから、観戦体験を考えるには、そうした個々の体験に伴う観戦者の感情の流れを、ひと続きの「スペクテーター(Spectator=観戦者)・ジャーニー」として見る視点が重要だ。

こうした視点に立ち、日本、アメリカ、ドイツにおけるサッカーの観戦体験の違いを調査したのがスポーツ観戦体験グローバル調査レポート-サッカー編-だ。この調査によると、アメリカやドイツでは、試合そのものだけでなく、試合前の情報収集や試合後の飲食、SNSの体験などが観戦体験全体の満足度に影響を与えている一方、多くの日本人の観戦体験の中心は、依然「試合観戦そのものの」に限定されている傾向が強い。つまり、試合前から試合後まで14個に分解された観戦体験項目のうち、「試合観戦そのもの」を除く13項目については、必ずしも十分な形で体験されていないのだ。逆に言うと、日本人のスポーツ観戦体験において、この13項目分におよぶ巨大なポテンシャルが未開拓のまま眠っているのである

スポーツビジネスの振興という観点からも、今後、様々なステークホルダーが力を合わせ、テクノロジーも駆使して、こうした巨大なポテンシャルを価値ある体験機会に変える動き加速させる必要がある。そして、私自身も、コンサルタントとしてだけではなく一人の観戦者として、一連の観戦体験(スペクテーター・ジャーニー)を今よりも数倍ワクワクしながら楽しめる日が来ることを期待している。

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