GXリーグがもたらす社会変革と企業に求められる対応(前編) ブックマークが追加されました
2023年4月、カーボンニュートラル(CN)に挑戦する企業群が率先して排出削減と新たな市場創造に取り組む場として、GXリーグが「本格稼働」1した。9月現在、我が国の温室効果ガス(GHG)排出量の4割以上を占める企業2が参画する大きな枠組みとなっているが、これに伴って企業を取り巻く環境はどのように変化するだろうか。変化に対して、どのように対応すればよいのだろうか。前編ではGXリーグの概要とそれがもたらす社会変革について、後編ではそれを踏まえて企業に求められる対応について論じていく。
1 経済産業省HP等における表現を踏襲。なお、排出量取引は2026年度からの「本格稼働」が目指されている。
2 GXリーグ公式ホームページ(https://gx-league.go.jp/)を基に記載
2022年2月、経済産業省は我が国におけるグリーントランスフォーメーション(GX)実現のための産官学連携プラットフォームとして「GXリーグ」を設立する構想を発表した。 GXとは、企業がCNへの移行を実践しつつ、これをビジネスの勝機とすべく経済社会システム全体の変革に繋げることを目指すコンセプトだ。GXリーグとは、GXに挑戦する参加企業が、自ら率先して排出削減に行うとともに、こうした活動が市場で評価されるようなルール形成やビジネス創発に取り組む場である。参加企業数は700社を超えており、製造業、サービス業を中心に、情報通信業や金融業、保険業といった幅広い業種が参加している。経済産業省による1年間の準備期間を経て、2023年4月から「本格稼働」した。具体的には、下図に示す4つの活動を柱として取組みが推進されていく。
GXリーグに参画した企業は、GHG排出量取引制度(GX-ETS3)への対応を求められる。2023年度~2025年度の第1フェーズでは、各企業が排出削減目標を設定と実績報告を行うとともに、実績に応じて排出量取引を行う。目標未達の場合でも、排出量取引の実施は強制されないが、取引を行わない場合は未達理由の説明を求められる。また、設定した目標水準、達成状況、排出量取引の実施状況は、ダッシュボード上に公表される。制度概要は図2を参照されたい。
なお、試行段階にある現在は、参画を表明した企業による自主的な取組みとなっているが、今後参画企業の拡大や、発電部門における排出枠有償化等が検討される見込みだ。現時点で未参画の企業にとっても、動向は注視が必要だろう。できれば早期に参画し、今後の制度設計について最新情報を入手しつつ、体制構築を進めることが望まれるのではないか。
3 ETS: Emission Trading System
ここまでGXリーグおよびGX-ETSの概要について解説したが、制度開始によって、企業のビジネスを取り巻く環境はどのように変化するのだろうか。
GX-ETSが始動すると、GXリーグに参画するすべての企業はプレッジ&レビューの一連の実務に対応し、排出削減に向けた取組みを推進していく。また、排出削減に資する製品・サービスを提供できる企業は、これを事業成長の機会としていくことが期待できる。さらに、こうした企業を投資家が評価したり、消費者が積極的に製品を購買したりすることで、社会全体が脱炭素化しながら成長していく好循環が生まれていくだろう。
但し、こうした好循環を現実のものとするには、各企業がGX-ETSをリスク要因ではなく、チャンスと捉えて活用していく姿勢が不可欠である。言い換えれば、制度に忠実に対応する“守り”の発想のみならず、企業戦略の一環として同制度への対応方針を位置づける“攻め”の発想が求められるだろう。では、具体的な“守り”と“攻め”の戦略とはどのようなものだろうか。具体的な対応の方向性について、後編にて論じていく。
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川村 淳貴/Junki Kawamura
デロイト トーマツ コンサルティング所属。民間シンクタンクでの環境・エネルギー部門における温室効果ガス削減目標やカーボンプライシングに関する官公庁・民間企業への支援を経て、2021年にDTCに参画。DTCでは主に次世代エネルギー(水素・合成燃料)やエネルギー需給シミュレーションを用いた官公庁・民間企業への支援に従事。