GXリーグがもたらす社会変革と企業に求められる対応(後編) ブックマークが追加されました
前編では、GXリーグおよびGX-ETSの概要を紐解きながら、同制度がもたらす社会変革の全体像を論じた。その中で、排出量取引の始動が、脱炭素と成長の好循環を生み出しうること、そのために参画企業は“攻め”の発想での対応が求められること、について述べてきた。では、具体的に“攻め”の発想とは、どのようなものだろうか。“守り”と“攻め”の両面から、企業に求められる対応方針について論考する。
まず、 GXリーグ参加企業に求められる“守り”の観点では、業界他社に遜色ない水準の排出削減に向けた取組みを着実に推進することが基本となる。そのうえで、グローバルに事業展開する企業では、欧州にて検討が進む炭素国境調整(CBAM)への盾のような役割としてGX-ETSを活用することも想定される。CBAMは、炭素リーケージ(GHG排出規制の厳しい欧州から製造拠点を海外へ移転すること等によるGHG排出の域外流出)を防止するために、対象部門の輸入品に対して炭素分の価格を上乗せする制度である。同制度では、原産国で支払った炭素価格は上乗せ分から控除することが認められている。こうした規制への対応を考えると、現行のGX-ETSのルール上は、目標未達となった企業が排出量取引を行うことは義務付けられてはいないものの、取引を行っておくことが“守り”の戦略として有効となってくるのではないか。 (但し、CBAMにてGXリーグがどのように取り扱われるかは未定であり、今後注視が必要なポイントと言える。)
また、GXリーグ参加企業に必要な“攻め”の観点では、野心的な取組みを推進し、それをGXリーグの枠組みを通して発信していくことが効果的だろう。各企業がプレッジした目標水準や達成状況はダッシュボード上に公表され、企業間の比較が容易になる。同ダッシュボードは、 GX に関する企業の取組みを一覧できるプラットフォームとして広く活用が見込まれることから、 企業目線ではこれを強力な対外発信ツールとして活用できることがメリットである。GXリーグを契機として更なる成長を志向する企業においては、安易に達成可能な目標を設定することなく、野心的な目標を掲げ、果敢にCNに挑戦する姿勢を発信していくことが期待されるだろう。そうした取組みが、財市場・資金市場・労働市場にて広く評価されることで、今後のビジネス拡大に向けた資金調達や優秀な人材獲得など、企業全体の成長に資するメリットを享受することに繋がるのではないか。
特に多排出産業では、脱炭素の推進には莫大な投資が必要であり、官民の資金の巻き込みが欠かせない。2023年7月に閣議決定された「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」では、排出量取引制度に参画する多排出企業を中心に、「GX 経済移行債」による支援策を連動させていくことを検討することが示されており、こうした支援獲得という意味でも、GX-ETS・GXリーグに対応し、野心的な取組みを発信していくことが重要となるだろう。
なお、これまで野心的な取組み推進について述べてきたが、長期目線で合理的な投資を行っていく発想も忘れてはならない。国の中長期目標から直線的に設定される単年度のNDC水準達成に気を取られると、ともすればその場しのぎの省エネ投資を積み重ねていく事態になりかねない。長期的にCNを実現していくための全体感ある投資戦略を描いたうえで、それを実行に移していくことの重要性を、ここで改めて主張しておきたい。
企業にとってGXリーグへの対応を進めることは、変わりゆく市場への対応を改めて考える好機となるはずだ。CN社会において、日本企業が国内外で幅広く活躍し続けるために、ぜひとも“攻め”の姿勢での制度対応を検討されたい。
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<関連情報>
川村 淳貴/Junki Kawamura
デロイト トーマツ コンサルティング所属。民間シンクタンクでの環境・エネルギー部門における温室効果ガス削減目標やカーボンプライシングに関する官公庁・民間企業への支援を経て、2021年にDTCに参画。DTCでは主に次世代エネルギー(水素・合成燃料)やエネルギー需給シミュレーションを用いた官公庁・民間企業への支援に従事。