日本の眠れる資産を海外に解き放つブロックチェーンによるトークンエコノミー ブックマークが追加されました
透明性の高い仕組みでデジタルアセットを保護し、グローバルマーケットに直接リーチでき、トークン化することで利便性や価値を高められるのがブロックチェーンの大きな利点である。「クリエイターエコノミー×Web3」をテーマとするこの鼎談の前編では、ブロックチェーンを基盤とするWeb3によってクリエイター中心の経済圏がどう広がるかを展望した。後編では、クリエイターエコノミーの先に広がる地方創生の鉱脈と、デジタルアセットマネジメントにおける日本の可能性などに議論が広がる。
赤星 Web2.0からWeb3への変化は、ある日突然起こるものではなく、既存の場や仕組み、資産、産業などのうち、Web3に適したものが一部移行していく。そうした形で徐々に進んでいくはずですが、既存のものでも、いいものは残るので、Web3がそれらとうまくコラボレーションしていくことが重要だと思います。
時田 おっしゃる通りで、今の経済を形づくっている仕組みや業務を全てWeb3に移行しましょうという話ではありません。また、ゼロから全く違うものをつくるものでもありません。今あるものをWeb3の技術でトークンエコノミーに再設計し、実装することで多くの人にとって、より利便性や価値が高まっていくユースケースをつくって、実体経済を活性化させることが重要です。
例えば、映像作品の制作プロジェクトは、監督だけでなく、出演者や脚本、音響、照明など多くのスタッフの協力が不可欠で、そのための資金もかかります。一方で、作品が完成しても公開できる場が限定的だったり、二次流通の販売益がクリエイターに還元されなかったりすることが課題です。これをWeb3の技術でデザインし直すことで、作品で使った衣装や小道具、台本などをトークン化して価値付けし、流通できるようにする。決済を銀行預金型のトークンであるデジタル通貨DCJPYで行うことによって、安全に新たな経済を創出するができます。
また、DAO(自律分散型組織)は、自律的に意思決定を行い、決定した内容はブロックチェーンのスマートコントラクトで自動実行されるので、人が介在する必要がありません。別所さんの会社とディーカレットDCPの協業では、制作資金だけでなく、キャストや資材もDAOの中で調達することを検討しています。
別所 ちょっと抽象的な話になりますが、僕はクリエイターエコノミーを考える上での大前提は、お金も人も寂しがり屋だということだと思っています。寂しがり屋だから求心力があるところに人が集まるし、だからこそ人間は祭りをやってにぎわいをつくるわけです。DAOのフィロソフィーも、究極的にはコミュニティをつくることだと思います。
中央集権型だった20世紀の映画づくりは、構想3年、制作2年、配給までにさらに2年といったように、大変な歳月とお金を掛けた、大規模な建設プロジェクトのようなものでした。そういったハリウッド型の映画づくりが大きな利益を生み、投資効果があったのも事実です。
しかし、今は多様性の時代になり、1000万人には届かないかもしれないけど、10万人に寄り添うような小さな物語、それを求心力としたコミュニティがDAOによって形づくられていくことで、映像作品のつくり方や仲間の見つけ方が根本的に変わるのではないかと思っています。
株式会社ビジュアルボイス 代表取締役社長 別所哲也氏
シリコンバレーなどでは、こういうビジネスをやりたいというアイデアを起業家がプレゼンすると、そのアイデアに資金を出す投資家がいて、製品やサービスが形になった段階、製品・サービスを発売する段階といったようにステージごとに追加の資金調達が可能な仕組みが出来上がっています。
ショートフィルムのクリエイターはチャレンジ精神があり、新しい技術もすぐに取り入れるし、そういう点ではベンチャー経営者によく似ています。次世代の作品をつくり出す才能を持った人がたくさんいるので、投資家や支援者が集まる仕組みをWeb3の技術でつくることができるのではないか。それが、LIFE LOG BOXを立ち上げた原点です。
赤星 クリエイターエコノミーを広げるために、LIFE LOG BOX上でスタートアップエコシステムのエッセンスを生かすということですね。
別所 そうです。ここでもう一つ大事なのは、プロセスエコノミーをどうやって生み出すかです。
投資家がビジネスアイデアに資金を出すのと同じように、映画やエンターテインメントの世界にも企画書だけのプリセールスのマーケットがあります。企画書に億単位の初期投資が付き、パイロット版を制作した上で、いけると思ったらスタジオが追加投資して1本目を完成させ、ヒットすればさらに投資してシリーズ化する。そうやってコンテンツの価値を高めていく手法は、動画配信大手のオリジナル作品などでも一般的に行われています。
僕はこれと同じようなプロセスエコノミーを、LIFE LOG BOXの中でクリエイター中心に生み出していきたいと思っています。
赤星 今のお話をうかがって、地域創生にも通じると思いました。ブロックチェーンの利点としてこれまで挙げられたように、透明性の高い仕組みでデジタルアセットを保護し、グローバルに直接リーチできる点が魅力です。加えて、トークン化することで小口分割できる利点もあります。
冒頭でも申し上げましたが、こうした利点をうまく活用すれば、伝統文化や工芸品といったローカルアセットを、グローバルマーケットで価値付けできる可能性が広がります。例えば、地域のクリエイターがつくった作品やコンテンツを、複数の人たちがセキュリティトークンやNFT(非代替性トークン)として投資したり、売買したりすることができます。これは日本の眠れる資産を海外に解き放つ大きな機会になり得ます。
時田 地方には個性豊かな祭りもあれば、映画祭を開催している街もあるなど、世界に発信できる無形文化財にも事欠きません。NFTでデジタル住民票を発行している旧山古志村(新潟県長岡市)の事例がよく知られるようになっていますが、地域の魅力を求心力にして関係人口を増やし、地域の中と外の人がDAOを通じて町おこし、村おこしに共に取り組んでいけば、地方創生を勢いづけると思います。
株式会社ディーカレットDCP 取締役 副社長執行役員 COO 時田一広氏
別所 赤星さんがおっしゃるように、クリエイターエコノミーの先には地方創生につながる鉱脈が広がっていると思います。例えば、日本の昔話や民話などは、ストーリーづくりのモチーフとして宝の山に見えるとハリウッドの人たちが言っています。向こうでは今、日本の落語などもすごく研究されています。西洋とは違う死生観、着物や酒蔵に象徴されるような日本独自の文化などを、物語の構築に生かそうとしているわけです。
そういう文化や暮らしを記録した写真や記事、映像にも価値があり、地方の新聞社やテレビ局にたくさん残っているはずです。それをブロックチェーンやNFTでデジタルアセット化することは、知財戦略としても意義がありますし、プラットフォーム上で利用したり、保有したりできるようにすれば経済的な価値も高まると思います。
赤星 別所さんは以前、期限付きのNFTでデジタル映像を流通させるアイデアについて言及されていましたね。
別所 ワインと同じように古くなって価値が高まるビンテージショートフィルムと呼ばれるものがあります。例えば1965年に撮られた映像にデジタルのタイムスタンプを刻印してNFTでそれを証明すれば、価値を見出す人がいると思うんです。
あるいは不動産の定期借地権と同じように、NFTで期限付きの使用権を発行し、10年、20年経つと使用権が消滅する。そういう価値の付け方もあると思います。
時田 面白いですね。イベントなどで10日間だけ使いたいという人がいれば、10日間の使用権を発行してあげればいい。デジタルで作品や記録をつくり変えるのではなく、価値を流通させる新しいモデルをつくることで、価値そのものを拡大していくことができます。
赤星 動かせない伝統建築や美術的価値の高いふすま絵、今はもう残っていない工芸品の写真など、実物を手元に置くことはできないけれど、デジタルアセットとして保有できればそれでいいという人もきっといます。
別所 欧米やアジアの人たちに聞くと、知財を預けるなら日本がいいという人が多いんです。日本は安全だし、日本人は秘密を守ってくれる。「情報資産において日本は、金融資産におけるスイスの銀行のような存在になれる」と言ってくれた人もいます。
知財ビジネスというと僕たちはどうしても日本のアニメやキャラクターを海外に出すことを考えますが、世界は日本に預けたいとか、日本の価値付け機関がどう考えるかということに興味を持ってくれています。
法制度を含めていろいろとチューニングは必要だと思いますが、そういうニーズがあるのですから、日本は世界の知財バンク、データアセットマネジメントの中心地を目指すべきだと思います。
赤星 最後にWeb3技術の社会実装に向けた課題について、お二人の意見を聞かせてください。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 赤星弘樹
別所 クリエイターにとって、デジタル通貨やDAOなどのWeb3の概念は依然として難しいようです。現状、LIFE LOG BOXではMetamaskウォレットで主に接続してもらっていますが、馴染みがないし、操作も簡単とは言い難い。Web3のハードルをもう一段下げる仕組みが必要ではないかと思います。
それと、クリエイターやプレイヤーはボーダーレスで、国境や時間軸を越えてつながっているので、LIFE LOG BOXもガラパゴス的な視点ではなく、世界から人やコンテンツ、資金が集まるプラットフォームにしていかなければなりません。そのときに、デロイト トーマツのようなグローバルなネットワークと知見を持つパートナーが側にいてくれれば心強いし、未来は明るいと思います。
そこに、ディーカレットDCPがパートナーに加わったことで、LIFE LOG BOXの可能性がさらに広がりました。寂しがり屋な僕たちなので、もっともっと多くの人たちに集まっていただけるとうれしいです。
時田 私たちもDCJPYを開発する過程で、ブロックチェーンを含むWeb3の技術に早くから取り組んできたデロイト トーマツに伴走してもらい、商用化を支援していただきました。
Web3は局所的なイノベーションではなく、非常に大きなイノベーションです。ですから、単なるシステムのバージョンアップではなく、ビジネスや経済の新しいモデルをつくる必要があります。
日本の場合、そういう全く新しい技術やモデルに対して及び腰になる大企業が多く、みんなが使うなら自分たちも使おうという傾向が強い。インターネットの黎明期もそうでした。
赤星さんがおっしゃったように、Web3はこれから5〜10年で本格的に世の中に浸透すると思いますが、そのためには大企業の参入が必要です。デロイト トーマツには、及び腰になっている大企業を力強く後押ししてほしい。それを期待しています。
赤星 ありがとうございます。仲間を集めるビジネスオーガナイゼーションや政策・ルールの形成を含めて、デロイト トーマツ グループを挙げてWeb3の推進に取り組んでいきたいと思います。それが日本の経済成長にもつながると確信していますので、ぜひ今後も一緒に未来を開拓していきましょう。
フィンテック / ブロックチェーン領域リーダー。 金融新事業開発、Fintech活用、デジタル戦略、業務・組織改革、ガバナンスなど様々なプロジェクトに従事。金融機関だけでなく、消費者接点の強い異業種サービスが金融機能を組込み提供する組込型金融(Embedded Finance)や、ブロックチェーン・Web3 / デジタルアセットなど成長領域に対するグローバル動向分析や戦略立案を担当。 また、環境や人権問題などサステナビリティに対する社会的要請の高まりに対応したデータ・プラットフォームの社会実装に向けた取組みなどの支援も手掛けている。 共著に『デジタル起点の金融経営変革』(2021年)、『パワー・オブ・トラスト』(2022年)等、著書・寄稿多数。