Posted: 25 Dec. 2024 9 min. read

NFTやデジタル通貨、DAOがカギとなるエコシステムでデジタルアセットが世の中に大きな価値をもたらす

「クリエイターエコノミー×Web3」で描かれる未来 【前編】

米国アカデミー賞公認のアジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」と連動し、映像作品の制作・配給、イベント事業を手がけるビジュアルボイス(代表・別所哲也氏)と、デロイト トーマツ コンサルティングが推進してきたWeb 3/3.0(以下Web3に統一)時代に対応するクリエイター支援プラットフォームの立ち上げから1年半が過ぎた。ビジュアルボイスはデジタル通貨プラットフォーム事業を展開するディーカレットDCPとの協業より、ファントークンを活用したクリエイターコミュニティの創設に乗り出すなど、新たな動きも始まっている。Web3を基盤としてクリエイター中心の経済圏はどう広がっていくのか。鼎談を通じて、展望する。

 

ブロックチェーンで広がるトークンエコノミー

赤星 Web3は暗号資産(仮想通貨)、NFT(非代替性トークン)、DAO(自律分散型組織)など、ユーザー自身がデータを保有し、中央集権的な管理者に頼ることなく、分散型で仕組みを機能させることに価値を置くテクノロジーの総称です。

暗号資産とNFTは、ブロックチェーン上で流通するトークンという点では同じですが、暗号資産は金銭的価値を蓄積する運用商品の色合いが濃いのに対して、NFTはモノ自体の価値やデジタルアセットの所有を表明するために使われるものであり、それが投機的なものであってはならない。このNFTにこそWeb3らしさがあると私は思っています。

昨今では非上場株式やファンド、債権、コモディティ、不動産所有権などオルタナティブ投資と呼ばれる領域において、ブロックチェーン上でトークン化する動きが活発化しており、これらはRWA(Real World Asset)と呼ばれます。上場株式などに比べて流動性が低い資産を、ブロックチェーンで効率的に消費者に届けることができる点で大きなメリットがあります。

今後、このデジタルアセットの領域は、著作権や特許、車両・航空機、ホテル・旅館・空き家の利用、企業間取引の請求書など、あらゆる金銭的価値のあるものへと広がり、トークンエコノミーが形成されると予測します。Web3はまさにこのRWAを中心にNFTやデジタル通貨、DAOによるアセットの発掘や管理、売買などがエコシステムとして関連性を持ちながら発展を遂げ、大きな価値を世の中にもたらすはずです。

例えば日本では、伝統文化や工芸品などのアセットをグローバルに紹介してインバウンドを活性化させるだけでなく、海外との直接的な売買が促進されることが期待されます。これによって、資産があるところからないところへの流動性が高まって、好循環経済をもたらす可能性があり、日本の成長戦略とも合致します。

前置きが少し長くなりましたが、別所さんは2023年、「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」(SSFF & ASIA)を通じた世界約10万人のクリエイターネットワークとWeb3関連技術を組み合わせたクリエイター支援プラットフォーム「LIFE LOG BOX」*1を立ち上げられました。その背景にはどのような思いがあったのでしょうか。

*1:デロイト トーマツは、NFTやクラウドのテクノロジーを活用したプラットフォームの構築を全面的に支援しました。詳しくは、こちら

別所 僕が主宰してきたSSFF & ASIAは、映像という知的財産の価値付け機関という役割もあります。映画祭で賞を取った作品の価値が高まり、作家には新たなチャンスが開けます。

ただ、賞を取らなかった作品にも素晴らしいものがたくさんあり、そうした作品の価値はなかなか顕在化しません。LIFE LOG BOXは、永続的に保管可能な分散型データストレージで、クリエイターからコンテンツを預かります。クリエイターは、そこから簡単にポートフォリオ(作品集)を作成できるほか、映画祭への出品やマーケットプレイスでの販売を通じて収益を得ることができます。


株式会社ビジュアルボイス 代表取締役社長 別所哲也氏

想定ユーザーはプロの映像作家だけでなく、まさにLIFE LOG(人生の記録)として動画を撮影している人、SNSにショート動画を投稿している人など、全ての人たちを対象としています。万人にとって価値はなくても、一部の人にとってはとても価値がある。ブロックチェーンやNFTの力を借りれば、そうしたコンテンツを資産に変えることが可能になります。新たな価値付けのプラットフォームとしてLIFE LOG BOXを発展させることによって、クリエイターエコノミー時代の到来が近づくと思っています。

分散型で価値を認め合うエコシステムをつくる

赤星 俳優である別所さんが、映画祭を始められたきっかけは何ですか。

別所 僕自身はオーディションを受けてハリウッド映画に出演し、俳優として本格的にデビューしました。そこで自分の価値をワンランク上げてもらった経験があります。

僕が映画祭を始めたのは1999年ですが、その2年前にアメリカの映画祭でショートフィルムに出会いました。そこにはシリコンバレーのエンジェル投資家たちがこぞってやってきて、ショートフィルムを小切手で買い付けていました。当時はまだWeb1.0の時代ですけど、インターネットでの音声配信の次は動画配信の時代が来る、ショートフィルムが主役に躍り出ると言われて、僕自身はそのときピンときていませんでしたが、日本で国際短編映画祭を始め、やがてスマートフォン全盛のWeb2.0の時代になって、彼らが予測した通りになりました。

20世紀はマスメディアの時代で、映画やエンターテインメントも大きな組織が中央集権的に制作・配給してきました。Web3の時代になって僕らが取り掛かっているのは、中央集権的ではなく分散型でいろいろな価値を認め合いながら、多様に価値付けしたり、保有・売買したりするエコシステムをつくることです。その意味でまさに、ブロックチェーンとかWeb3の哲学のど真ん中で活動している自覚があります。

時田 ブロックチェーンは、今までできなかったこと、つまりインターネットの中に価値を存在させ、それを保存・移転(売買)させることを可能にしました。これはすごいイノベーションです。

しかも、先ほど赤星さんがおっしゃったように、これまで価値を付けにくかったものや、流通させづらかったものを、トークン化することで価値を証明したり、流通しやすくしたりできる。それによって生活は便利になるし、ビジネスもやりやすくなり、間違いなく経済は活性化します。


株式会社ディーカレットDCP 取締役 副社長執行役員 COO 時田一広氏

ブロックチェーンは暗号資産の基盤技術として開発され発展したものですが、暗号資産は一部で投機の対象になっていることもあってボラティリティ(変動性)が高く、国によっては規制が厳しいので、トークンエコノミーの決済通貨としては使いづらいという課題があります。

そこで私たちディーカレットDCPは、法定通貨のインフラを活かすのが得策だと考え、銀行預金をトークン化して、ブロックチェーン上で決済取引できるデジタル通貨「DCJPY」と、その発行・流通基盤「DCJPYネットワーク」を開発し、2024年夏から取引を開始しました。これによってリアルな経済とトークンエコノミーがシームレスにつながり、新たな価値の創出を促進できると思います。

赤星 ディーカレットDCPは、別所さんが代表を務めるビジュアルボイスと、新たなサービスの提供に向けた協業を始められました。具体的にはどのようなサービスを開発する予定ですか。

時田 クリエイター向けコミュニティ「DAOファントークンサービス」を2025年中に展開予定です。このサービスではデジタル通貨DCJPYをDAOの中で活用することで、クリエイターや映像作品の出演者などのファンが、作品の制作を資金面で支援するだけでなく、アイデアを出したり、衣装や音楽をつくって提供したり、撮影場所を手配して地域を盛り上げたりすることができます。

私は2024年のSSFF & ASIAにWeb3パートナーとして初めて参加させてもらったのですが、本当にグローバルな映画祭で、日本人か外国人かを問わず、会場に集まっているクリエイターの人たちの熱気のすごさを実感しました。

ブロックチェーンの特性を生かして、その大きな熱気を作品として昇華し、どう価値を生み出していくか。そして、ファンの人たちにもクリエイターと一緒になって制作に取り組む新たな体験をどう味わってもらうか。DAOファントークンサービスを、Web3の時代にふさわしいサービスにしていきたいと、映画祭に参加してあらためて思いました。

Web3の浸透で、世界が大きく動く

赤星 デロイト トーマツは2021年からSSFF & ASIAのデジタルイノベーションパートナーとして参画しており、私もこのところ毎年、映画祭に参加しています。時田さんがおっしゃるように会場の熱気を感じますし、何より楽しいですね。

クリエイターセミナーに登壇してWeb3についてプレゼンしたこともあるのですが、何人かのクリエイターさんから、Web3の技術を使って海外にリーチしたり、仲間を集めたりしたいので手伝ってほしいと相談を受けました。


デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 赤星弘樹

デロイト トーマツは、グローバルでBlockchain & Digital Assetsチームを組成し、数千名におよぶWeb3領域のスペシャリストが、多くの企業にサービスを提供しています。テクノロジー開発では、Web3へのエントリーを容易にするツール群を用意しているほか、リスクコンプライアンスや規制、税務、監査、法律など多岐にわたるプロフェッショナルが、グループ横断でこのチームに参画しています。

クリエイターが新たな作品を生み出し、その価値を最大化できるよう、今後とも支援していきたいと思います。

別所 2024年のSSFF & ASIAでは、ディーカレットDCPの協賛による「AmicSignアワード」を新設し、受賞者には映画祭として初めてデジタル通貨による賞金を授与しました。

2025年にはDAOコミュニティ内でクリエイターやファンに投票権付きのトークンを発行して、好きな作品に投票してもらい、多くの票を集めた作品を表彰するとか、LIFE LOG BOXにはグローバルシネママーケットという構想があるので、国境を越えて作品の価値を流通させることで、さらにクリエイターエコノミーを広げていきたいと思っています。

赤星 Web3はインターネットの黎明期によく例えられますが、シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツが2024年10月に発表したレポートによると、同年の世界における暗号資産のアクティブウォレット数は、1998年のインターネット利用者数に並んだそうです。

Web3はインターネットとほぼ同じ速度で浸透しているので、5〜10年後には世界が大きく動くのではないかと予測されます。この先、大企業による参入や、既存の流通・決済・保証・契約などの仕組みにWeb3技術が導入されることにより、利用者数の増加や利便性の飛躍的な向上を体感できるようになるはずです。

 

(後編に続く)

 

プロフェッショナル

赤星 弘樹/Hiroki Akahoshi

赤星 弘樹/Hiroki Akahoshi

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

フィンテック / ブロックチェーン領域リーダー。 金融新事業開発、Fintech活用、デジタル戦略、業務・組織改革、ガバナンスなど様々なプロジェクトに従事。金融機関だけでなく、消費者接点の強い異業種サービスが金融機能を組込み提供する組込型金融(Embedded Finance)や、ブロックチェーン・Web3 / デジタルアセットなど成長領域に対するグローバル動向分析や戦略立案を担当。 また、環境や人権問題などサステナビリティに対する社会的要請の高まりに対応したデータ・プラットフォームの社会実装に向けた取組みなどの支援も手掛けている。 共著に『デジタル起点の金融経営変革』(2021年)、『パワー・オブ・トラスト』(2022年)等、著書・寄稿多数。