AIとデジタルツインが未来を変えていく ブックマークが追加されました
2025年の大阪・関西万博は、世界中の最新技術のショーケースとなる。その中でも注目を集めるのが「デジタルツイン」だ。デジタルツインとは、現実世界をデジタル空間に精密に再現し、シミュレーションや最適化を行う技術であり、都市計画、インフラ管理、製造業など、多様な分野への応用が期待されている。
万博では、会場をデジタルツイン環境で構築し、暑さ指数の高解像度シミュレーションなどを実施し熱中症対策を図るほか(ⅰ)、サイバーフィールドとフィジカルフィールドを融合させた「未来の都市」をデジタルツインで感じさせる展示を行う予定(ⅱ)となっている。
デジタルツイン・メタバースは一時期、盛んに話題になったが社会実装の難しさ・投資対効果の不透明さもあり現時点で期待ほどの普及には至っていない。技術的な課題だけでなく、ユースケース・活用シナリオの明確化や、ビジネスモデルの確立が十分でなかったこと、最新テクノロジーへの関心が生成AIに移行したことも要因として挙げられる。しかし、生成AIやデータ解析技術の進化によって、今後、ブレイクスルーにつながる変化が起こりつつある。
これまでのデジタルツインは現実世界のデータを取り込み、モデル化することに重点が置かれていた。しかし、生成AIの登場により、デジタルツインは単なる「現実のコピー」ではなく、未来予測や自律的に意思決定を行うための高度なシステムへと進化している。デジタルツインの従来の課題として3D空間の構築コストや3次元での人やモノのデータのリアルタイムでの収集・分析の難しさが挙げられるが、多くの変数・パラメータを同時かつ低コストで扱える生成AIの特性を活用して、コスト効率化とリアルタイム性を両立したモデル構築を目指す動きが出てきている。
例えば、2D画像から3Dオブジェクトを作成するNeRFのような技術や(AI→デジタルツイン)、現実空間で取得困難な事故データなどの危険なシナリオをデジタルツイン上でシミュレーションし、自動運転AI用の学習データを効率的に生成する(デジタルツイン→AI)などといった先端技術同士の双方向での進化を行う例が挙げられる。また、Physics-informed Machine Learning(物理法則を組み込んだ深層学習、PIML)は、都市交通の最適化など複雑性が高い領域での適用が期待されている。
各種AI技術とのシナジー効果で、デジタルツインは単なる「精密なデータ再現」から「インテリジェントな意思決定支援」へと役割を広げつつあり、デジタルツインの社会実装を加速させる機会と捉えることができる。
しかし、新しい技術は単に「役に立つ」だけでは広がらない。「ワクワク感」や「遊び心」がなければ人々に受け入れられず、小規模な試みにとどまってしまう。VRゴーグル・ARグラスの「没入感」に代表されるようにデジタルツインはユーザーへの五感に訴求するメディアであり、スマホなどの他のデジタルデバイスと比較してもユーザー体験の重要性が高い領域である。BtoC領域ではコロナ禍でブーム化したように音楽ライブ・ゲームなどのエンタメ領域から普及が進んだ。同様にBtoB領域でも、デジタルツインの活用には直感的な魅力が求められる。データの最適化やAI技術などの機能的な価値だけでなく、関わる人々が「触れてみたい」「試してみたい」と思えるようなユーザー体験設計が、社会実装を実現する上での鍵となる。
デジタルツインは先述した都市交通などを含めたスマートシティ関連だけのものではない。例えば、飛行機の設計にも、各機体が個別に異なる仕様を持ち、最適な設計や保守のためのシミュレーションが必要とされる。デジタルツインはこのような高精度のカスタマイズにも適用可能だ。
デジタルツインの発展は、産業の垣根を越えたコラボレーションを促す。例えば、自動車メーカーと通信企業、都市計画とAI開発企業など、これまで交わることのなかった業界同士が共創することで、新たな価値が生まれる。こうした流れは従来の産業構造を根本から変革し、新しい経済圏を生み出す可能性を秘めている。
デジタルツインは、ゲームエンジンなどのB2Cに源流のある技術も活用しつつBtoBでの利用が先行している。製造業では、工場の生産ラインの最適化や機器の予知保全、建設業では、都市のインフラ整備の効率化など、企業が業務の効率向上を図るために活用している。
一方、これから実際にデジタルツインを社会全体に広げていくためには、BtoCの視点が不可欠だ。例えば、都市のデジタルツインを活用し、住民がより快適な生活を送るためのサービスを提供するためには、ユーザーエクスペリエンス(UX)の設計が求められる。また、リアルタイムで変化するデータをユーザーにわかりやすく提供し、誰もが直感的に活用できる仕組みが必要だ。
これまでBtoBの分野では、技術主導のアプローチが主流だったが、デジタルツインを一般社会に定着させるには、BtoC領域で培われたUX設計や顧客体験の最適化といった視点が欠かせない。
デジタルツインの社会実装には、BtoBの各産業の知見・技術力とBtoCのユーザー視点の融合が不可欠だ。新しい技術が社会に根付くには、単なる業務改善ではなく、「体験としての魅力」を組み込むことが求められる。
デロイト トーマツは、これまでのコンサルティングで培った各業界の知見を生かし、デジタルツインの導入を支援している。技術が進化するだけでは、デジタルツインの真価は発揮されない。それを社会にどう実装し、人々の生活シーンや企業の成長に結びつけるかが重要だ。万博はその大きなテストベッドとなる可能性を秘めている。デジタルツインが未来の都市や産業にどう組み込まれるのか、その答えを導くのはユーザー体験・テクノロジーを融合した全体のグランドデザインであると考える。
ⅰ 国土交通省, 国土交通データプラットフォームを活用した大阪・関西万博会場における熱中症等のシミュレーションの取組状況と今後の予定について~戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期課題「スマートインフラマネジメントシステムの構築」との連携~, 2025年1月:
https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001162.html
ⅱ 日立と KDDI が、大阪・関西万博の未来社会ショーケース事業「フューチャーライフ万博・未来の都市」で共同展示, 日立製作所・KDDI, 2023/8/2:
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2023/08/0802b.pdf
大手通信会社の海外M&A部門を経て現職。AI・5G・ロボティクス・デジタルツインなどのエマージングテクノロジー領域の新規事業戦略策定・実行支援、中長期のイノベーション戦略策定、R&D戦略・ポートフォリオマネジメントなど多数のプロジェクトに従事している。 関連するサービス・インダストリー ・通信・メディア・エンターテイメント >> オンラインフォームよりお問い合わせ