Posted: 16 Jan. 2025 5 min. read

DeSciの初期的発展と具体的価値発揮

日本の科学力向上、企業の研究開発の高度化、産官学連携の促進への具体的な貢献とは?

この一年で、DeSci(Decentralized Science)を取り巻く環境が大きく変化しつつあります。2024年11月に行われたBinance Decentralized Scienceイベントで、暗号資産業界の重鎮であるChangpeng Zhao(CZ)氏*やVitalik Buterin**氏がDeSciに対して、非常に大きな期待を寄せ始めていることが注目されています。
* 前Binance CEO
** イーサリアムの共同創設者

デロイト トーマツとしても2024年6月からは、DeSci推進チーム(Web3・産学連携・企業リスク専門家・会計/税務専門家などによる領域ミックスチーム)を立ち上げ、アカデミア・企業・官公庁と闊達な意見交換を実施してきました。これにより、ディスカッションを通じて論点の明確化やナレッジが深まってきており、その一部を今回ご提供いたします。 

 

研究開発(R&D)を取り巻く課題

企業サイドとアカデミアサイドの双方と会話する中で、研究開発、ひいては日本の科学力向上に向けた課題感をお聞きしています。

企業サイドでは、優秀な研究者を集めるのが大変であり、すべての内製化は難しいという現実があります。また、中長期的なテーマへの研究開発はチャレンジしたいがリスクもあり、大きなお金をかけることができないという問題もあります。

さらに、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)として狙いたい有望なベンチャーが少なく、大規模なベンチャー投資は数多くできないため、中長期的により多くのテーマにチャレンジすることが難しい状況です。

一方、アカデミアサイドでは、研究における国際競争力の確保には幅広い研究分野に資金が回ることが必要とされていますが、現状の科研費等の仕組みではそれが難しいという課題があります。また、企業との共同研究費用は比較的小規模であり、より大きな費用をかけた研究を行わないと他国に負けてしまうという懸念もあります。

さらに、優秀な研究者はいるものの、ビジネスサイドに興味がなく、ベンチャー立ち上げに伴う細事を嫌うため、研究資金調達が難しいという問題もあります。

課題に刺さるDeSciの仕組み

あらためてDeSciが、これらの企業・アカデミア双方に存在する課題にどのように寄与できるかを整理すると、4つの特徴があると考えます。

  1. グローバル規模のR&Dのエコシステム形成が可能
    DeSci DAOには研究者1名だけで参加することも究極的には可能であり、参加ハードルが低く、研究資金を求めて全世界から優秀な人材が自発的に集まってくるため、効率的にグローバル規模のR&Dエコシステムが創れ、場合によっては特定のテーマにおいて、研究者間のコミュニケーションの活性化による今までにないソリューションを生み出せる。
  2. 研究資金の配分やプロジェクト選定が参加者の投票によって決定
    研究者の声の大きさ・知名度ではなく、DAOに参加するメンバーによる投票にて資金配分の意思決定がなされるため、本当の実力やビジネスニーズにより評価される状況になる。これにより、有望な研究者のコミュニティへの取り込みや選別がやりやすく、かつ、R&Dテーマの良し悪しも評価されやすくなるため、研究者のモチベーションにもつながる。
  3. トークン発行により、地理的制約のない世界規模のR&D資金調達が可能
    市場からも研究開発資金を調達するため、設立当初に資金をだしたスポンサー企業やアカデミアがすべてのR&D資金リスクを負う必要がない。
    また、資金調達がトークン市場経由となるため設定したR&Dテーマに対する市場反応が読める。テーマのテストマーケティング的な利用も可能となる。
  4. 効率・効果的なIP管理、Data販売管理を実現
    NFT化、スマートコントラクトなどで管理コストを削減できる可能性がある。
    特にIPは、1つのIPにおける権利範囲毎の管理が劇的に容易になり、ライセンス販売戦略が変わる。


    以上の特徴により、DeSciは研究開発の課題を解決し、効率的かつ透明性の高いR&Dエコシステムを構築できるようになります。
     

科学力・研究開発力向上に向けたエコシステム変革

R&Dの個々個別の課題においてDeSciの能力が紐解く可能性を感じられるかと思います。

より俯瞰的にとらえると、これをきっかけに日本の科学力・研究開発力の向上に資する大きな産学官エコシステムの変革につながると考えています。


今日まで、科研費・共同研究費だけにとどまっていた、アカデミアの研究資金調達の手法を明確に1つ増やし、アーリーステージの技術にも資金が企業やVC(ビジネス感覚のある人物の目)を通じて入ることで、日本の競争力の源泉となる幅広い分野でのテクノロジーの芽を増やし、結果として、成功確度が高く、初めからグローバルを見据えたディープテックベンチャーの絶対数を増やすことへ寄与できると思われます。

一方で、ベンチャー創出などとは遠いと思われるビジネス色の薄いピュアなサイエンス(例えば天文学など)や人文学などの分野は対象外かというと、可能性は非常に多くあると思います。これらの分野は、純粋なるその学問の“ファン”が数多く存在する分野であり、DAOの神髄はコミュニティの活性化にあります。出口はベンチャー創出ではないかもしれませんが、欧米で盛んである寄付コミュニティに近い形で、参加するインセンティブ設計によるエンゲージメントの獲得ができれば、持続可能性を持った研究資金調達のプラットフォームになる可能性は高いと考えています。

 

今回は、これまでの議論から見えてきた企業・アカデミア双方の課題感やそれを解決できるDeSciの機能の明確化と、より大きなエコシステム変革をお話してきました。

次回以降では、他の資金源と比べたDeSciを活用すべき分野・テーマや、実際に立ち上げる際のアプローチや論点、リスクなどについても論じていきたいと思います。

 

 

執筆者

寺園 知広
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員
金融機関・製造業をはじめ、様々な産業向けに先端技術の調査/探索・評価・ユースケース検討・ビジネス適用/実装などのコンサルティングを数多く手掛け、AI・量子技術・空間コンピューティング(メタバースなど)・web3/DAOなどの技術を幅広く担当している。大学などアカデミアを含めた産学官のテクノロジーエコシステム形成の経験も豊富。


山名 一史
デロイト トーマツ コンサルティング スペシャリストリード
デロイト トーマツの先端R&D統括チームの一員として、先端技術全般の調査、研究、開発、戦略策定などの案件を手がける。政府系シンクタンクや大学教員等を経て現職。経済学博士。


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プロフェッショナル

寺園 知広/Tomohiro Terazono

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デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

デロイト トーマツ インスティテュート フェロー 金融機関・製造業をはじめ、様々な産業向けに先端技術の調査/探索・評価・ユースケース検討・ビジネス適用/実装などのコンサルティングを数多く手掛け、AI・量子技術・空間コンピューティング(メタバースなど)・web3/DAOなどの技術を幅広く担当している。大学などアカデミアを含めた産学官のテクノロジーエコシステム形成の経験も豊富。 >> オンラインフォームよりお問い合わせ