ヘルスケア技術が実現するミライの健康マネジメント ブックマークが追加されました
2025年の大阪・関西万博では、ミライのヘルスケア技術が展示される。ここでは主に、「まだ健康な人」が自然に快適に健康を維持するためのテクノロジーが紹介される。街や家で暮らしているだけで自身のヘルスケアデータが収集され、そこから自身の健康状態やリスクが自動分析、分かりやすく提示。それらを踏まえて1人ひとりに合った食事や生活様式が日々提案されていくのだ。同じ悩み・ニーズを抱える人との情報交換が推進され、励まし合いながら、前向きに健康維持に取り組める。いずれも素晴らしいミライだ。
一方、「すでに病を抱えた人(=患者さん)」の視点では、AI診断、再生医療、遺伝子治療などの先端技術が紹介される。一般的に、健康な人にはセルフマネジメント技術、患者さんには診断・治療技術という視点で議論がなされることが多い。もちろんそれらをクロスした議論もなされているが、まだまだ拡大余地があるとも感じており、今回の万博を機に、私自身も、発症後の患者さんにセルフマネジメント技術をより広く適用できないかを考えてみたい。
日本の医療制度は高齢化と人口減少に伴い、今後大きな課題に直面する。医療ニーズが増大する中、医療関係者や医療費などの投下可能なリソースは減少し、本当に必要な人に適切に提供される仕組みが求められる。一般的に医療リソースは、患者さんの症状が進むほど、多く投下される傾向にある。もし万博で示されるようなヘルスケア技術が、予防的な健康維持だけでなく、何かしらの疾患を発症した方の回復・進行抑制にも活用できれば、患者さんの幸福と医療費の抑制、そのどちらにも貢献できる。
しかし、発症前の健康維持に比べ、発症後の患者さんの支援は医療行為と密接に関わるため、規制や専門性の壁が存在する。加えて、日本では自己責任での健康管理という意識も発展途上であり、例えば健康な人であっても、スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスで心拍数や血圧を記録しておくなど習慣は限定的である。ましてや発症後となると、自身の状態を知ってしまうことが怖い、自己判断で行動を間違えたくない、といった人として自然な感情も関わり、仮に技術が確立できたとしても、実用・普及までの道のりは簡単ではない。
また、ヘルスケア技術の活用領域の拡大には多くのプレイヤーの連携も不可欠だが、それぞれの視点や優先事項が異なるため、方向性を合わせることも難しい。行政は有効性・安全性の担保のため、確立されたプロセスを踏む。テクノロジー企業は迅速な市場浸透を目指し、ハードルの低さとスピード感を優先する。医療系企業は現業への影響を考慮し、収益の大きさや持続性、医師や患者さんの反応を重視する。ヘルスケアに関わるすべてのプレイヤー(医療関係者、学会、行政、企業、患者さん自身やご家族、等々)が、それぞれの立場で「よりより未来を実現したい」という思いを抱きながらも、現実には調整が難しく、時に対立することもある。
このような課題を乗り越えるためには、細かい調整の前に、まずはプレイヤーが一堂に会し、実現したい未来を徹底的に語り合うことでOne Team化することが何より重要だ。そして、その共通化された未来に向けて、プレイヤー間の利害の一致点やそこに至るステップを具体的に描く。もちろん、医療領域は不確実性が高いため、リスク軽減策や負担の分散、撤退条件なども考えておき、柔軟にかじ取りをすることも求められる。試行錯誤を通じて、時には失敗も前向きな学びと捉えながら、小さな成功事例を積み重ね、利用者の信頼を一歩ずつ段階的に獲得し、やがて広範なシステムへと拡張していくという壮大な挑戦である。
私は、この挑戦のカギを握るのは日本国民の意識変化であると考えている。日本では国民皆保険のもと、すべての人が手厚く守られてきた。海外では自己管理によって回避できたかもしれない発症や症状悪化には保険を適用しないという議論もあるが、日本では経緯に関係なくすべての患者さんに医療保険が適用される。これは素晴らしい仕組みであり、個人としてはそれはできれば変えてほしくないと考えている。
ただ国民の側が「最後は国・医療関係者が自分を守ってくれる」という意識では、せっかくヘルスケア技術が予防・進行抑制の方法を提示しても、それが十分に活用されない。結果として、医療リソースも必要以上に投下されてしまうし、何より、健康な人は発症を回避できず、また、発症後の患者さんもより重い症状に苦しむことになる。医療制度を論じる前に、国民全員が最先端テクノロジーも活用し、自分自身を「守る」ことが1人ひとりのより良い未来を実現し、また、日本社会の未来を「守る」ことにもつながる。
私はデロイト トーマツで約20年、医療・ヘルスケアに関わってきているが、未来をより良くするためのこうした取り組みは非常に有意義で楽しく、生涯をかける価値があると強く感じている。幸いデロイト トーマツには医療だけでなく、テクノロジーや法規制などのさまざまなプロフェッショナルが存在し、一人では到底解決できない構造的課題に対しても、チームで立ち向かう体制ができている。私たちのユニット(ライフサイエンス・ヘルスケア)メンバーは既存の考え方の枠組みを超えて、真っ白いキャンバスに誰もが笑顔になれる新しい未来を描こうとまい進している最中だ。
「つくりたい未来を、ともに ~Draw the future together~」
ライフサイエンス・ヘルスケア ユニットメンバーの志をデザインしたアート作品。
国内・外資医薬品メーカーを中心に、全社戦略および営業・マーケティング領域のプロジェクトを数多く経験。近年では、デジタル・AIの活用や、医療エコシステムの構成ステークホルダー全体への価値提供など、新たな視点からの顧客エンゲージメントモデルの構築を牽引。 新戦略に対する医師・患者の反応調査やMRの同行指導など、現場に深く入り込んだコンサルティングを手掛けている。 関連サービス ・ ライフサイエンス・ヘルスケア(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ