組織におけるDV被害者サポートの重要性 ~企業や、周囲のメンバーにできること~ ブックマークが追加されました
改正DV防止法(2023年成立・2024年施行)では、身体的暴力に加え精神的暴力もその対象になるなど、深刻な社会課題になっているドメスティックバイオレンスに対して、当グループはDV被害に遭う社員・職員を支援する制度を設けるとともに、社内外での啓発を強力に推進しています。本記事では、社内勉強会の一部をDEIレポートとしてお届けします。
※所属・肩書・氏名などはイベント開催当時のものです。
ご注意 / Trigger Warning
本レポートには、DVに関する議論・言及が含まれる他、実際にDV被害を経験したメンバーの体験談や、デートDV(恋人同士またはそれに近しい間柄で起こる暴力)に関する言及があります。類似体験をお持ちの方はフラッシュバックの回避を第一に優先し、必要に応じて本レポートへのお目通しを中断するなどの対応をご判断ください。
日本社会では長い間、DV(ドメスティック・バイオレンス)は家庭内の問題として認識され、「企業には関係がない話」として扱われてきました。また、現在、4組に1組のカップルがDVの当事者であり、10代のカップルでは3組に1組がデートDV当事者といわれていますが、被害者はどこにも相談できないケースが大半を占めていることから、当事者以外にはなかなか課題を認識しづらく、多くの方が「自分には関係がない話」と思っていらっしゃるかもしれません。
そのような中で、内閣府は2021年5月に「日本におけるDV(ドメスティック・バイオレンス)の相談件数は、前年度(2019年度)に比べ1.6倍に増加した*」とのデータを公表しました。背景のひとつには、外出自粛やリモートワーク普及に伴って人々が家にいる時間が長くなった分、家庭内でDVが生じてしまう機会が増えたことも挙げられるとされています。
*自治体が運営する全国の配偶者暴力相談支援センターと政府が運営する「DV相談+」に寄せられたDVの相談件数は、コロナ禍直後の2020年5-6月には前年同期比で約1.6倍の1万7500件に及び、相談件数の9割以上が女性であった。
デロイト トーマツ グループはリモートワークという勤労形態を導入している組織として、また働き方の多様化に伴う組織と個人の関係性の変化という観点からも、DVに対策を講じることは企業としての責務であると考えており、2021年6月から社内制度として、DV被害に遭っているメンバーを支援する「Domestic Family Violence被害サポートスキーム」を導入しています。
また、被害に遭っていないメンバーに対しても、社内外において定期的に身近な課題としてのDVに関する正しい知識を啓発する機会を設けており、本レポートは2023年12月に開催した社内勉強会の内容をまとめ、そこから得られた示唆を広く社会にお伝えすることを目的として公開するものです。
まずは、「DVは自分と遠いところにある社会課題」という認識から、「誰にとっても身近な課題である」という認識へ変えていくこと。DVの直接的な当事者ではない場合には傍観者とならず、正しい知識と相談先を知ることで、身近な誰かを助けられる発見者・支援者になれるということ。
デロイト トーマツ グループは今後も一丸となり、誰もが安心・安全な環境で自分らしく働ける環境づくりを推進していきます。
Chief Talent Officer、DEIリーダー 大久保理絵
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日本では、DVという言葉は「配偶者や恋人など親密な関係にある、または、過去に親密な関係にあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いが、暴力といっても、殴る・蹴るといった“身体的暴力”以外にもたくさんの暴力が存在している。たとえば、同意のない性的行為などの“性暴力”や、金銭に関する暴力である“経済的暴力”は代表的だが、夜通し説教をしたり、「他の異性と口をきくな」「いつどこで誰と何をしているのか必ず報告しろ」といった行動の制限をしたりすることも暴力の一種とされる。
また、2023年5月にはDV防止法*の改正が成立したものの、法の対象となるのは引き続き、同居する配偶者(元配偶者)であり、同居関係にない交際相手との間で生じる「デートDV」は、強力な規制法がない状況である。しかしながらDVもデートDVも共通事項は多く、被害者支援が重要であることも共通している。したがって、本レポートではDVに加え、デートDVについても取り上げている。
* DV防止法:正式名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」。従来は身体的暴力によって生命や身体に重大な危害を受けるおそれが大きい場合に限って、裁判所が加害者に対し、被害者に近づくことなどを禁止する「保護命令」を出せることになっていたが、2023年の法改正により、精神的暴力も保護命令の対象に含まれることとなった(2024年4月1日施行)
(以下、ディスカッション概要 ※一部抜粋)
阿部(以降A):人々が「自分はDV・デートDVを受けている」と相談できない事情は様々ですが、まず、「殴る・蹴る」以外にも暴力は多様な種類があると知らず、被害に気づいていないというパターンは非常に多いです。それゆえにDV加害者の言葉や態度に対して「自分が悪い」と一方的に思い込まされたり、「好きな人だから」、「長く一緒にいる人だから仕方がない」というような思いから、相談していい・助けを求めていいことなのだと気づけていない方も多々いらっしゃいます。
N:私が今日この場にいるのは、普段のクライアント関連業務においてDEIに従事していることに加えてもう一つの理由があります。私は離婚歴があるのですが、いろいろある原因のうち、直接的な原因となったのは元夫からの暴言や身体的暴力でした。私の場合は、元夫の言動がエスカレートしそうだなと感じた時点でいろいろ調べ始めたのですが、当時は前述のデロイト トーマツ内の被害者サポートスキームが導入される前だったので、日中の業務は普通にこなしつつ、元夫には気づかれないように自分で対処方法を調べるという結構大変な状態でした。現在は会社として被害者に対するサポート体制を整備しているというのは、被害当事者としては本当に助かると思います。
K:デロイト トーマツ グループが設置しているサポートスキームは、提携団体による相談対応・避難先の確保・各種手続きへの同行支援といったワンストップのサポート提供や該当費用の法人負担、特別休暇の拡大などをカバーしていますが、まずはグループ内で幅広く「そういうときは相談していいんだ」ということがきちんと認知されていることが重要ということですね。一方で、根本的にDVやデートDVを撲滅していくためには、そうした加害・被害が生じてしまう前の段階における知識の普及や意識の醸成が大事だと感じました。そういった点で、阿部さんがご活動されている出張授業などは非常に意義深いものですよね。
A:ありがとうございます。私たちはデートDVの予防教育の実施前後に調査票を通じた効果測定も行っているのですが、「今までは殴る・蹴るだけが暴力だと思っていたけど、行動の制限なども暴力なのだと知った」という暴力の認知については著しい効果を発揮していることが示されています。加えて私は、暴力を受けていい人は一人もいないということも強く伝えています。少しでも嫌だなと思ったら、嫌だと言っていい。でもここで大事なのは「嫌だ」と言えなくても、決して悪くないということ。誰かに話して助けてもらっていいんだということ。DV被害経験者の中には「人に迷惑をかけちゃいけないと考えていたから、誰にも言えなかった」という方も多くて。「いや、そうじゃない。人の力を借りることがあなたの力なんです。適切な支援を受けていいんですよ」ってことを常に伝えていきたいです。
K:私も、子を持つ親として、デートDVに関する知識も深めねばと感じています。阿部さんはデートDVに関して様々なご活動をなさっていますが、学生などを対象にご講演などをなさっている中で感じる特徴的なお話などはありますか?
A:私たちの団体で全国の中学生・高校生・大学生に対してデートDV実態調査を行った中で多かった被害は、「返信が遅いと怒る」、「他の異性と話をしないと約束させる」、「友人関係を制限する」です。何だ、そんなことかと思われるかもしれません。でもまさに、そうした行動の制限から始まり、暴力がエスカレートしていくのがデートDVの特徴です。あとは、「別れたら死ぬ」というのもあります。「それくらい好きなんだよ」という方もいらっしゃいますが、一種の脅迫ですよね。重篤な身体的暴力を受けていても、「別れたら死ぬ」と言われていて別れることができないという被害を、私は中学生からも聞きます。
K:交際相手からのそうした言動が暴力でありデートDVであるということは、学校で行われる一般的な授業内では取り扱われないですよね。親としては学校で取り上げてくれればありがたいなと思うとともに、自分の家庭でもそういったことを子どもたちと話せたらと感じます。子どもたちとデートDVについて話をしたいとき、どのように話せばよいでしょうか。気を付けるべき事項はありますか?
A:結婚も同居もしていないデートDVの状態だと、「何でそんな人と付き合ってるの?」「別れればいい」と周囲は言いがちなのですが、被害に遭っている当事者からすると、家族や友達からは言われたくない言葉なんです。自分が好きになった人を悪い人だと言われたくない。だから「それってデートDVだよね」って言われるのってすごく嫌なんですね。なのでまずは、普段から子どもと交際や性のことを話せるような関係を築いておくこと。今は性のことや交際のことについて学ぶことの出る本や絵本、ウェブサイトなどもありますし、いろいろと参考にしながら「こんなのどう思う?」と話し合えていけらいいんじゃないかなと思います。その上で、「もし何か嫌なことがあったら、すぐに言ってね。あなたにそんな目にあって欲しくないし、私たちはいつでも味方だからね」ということを伝えていくことが大事だと思います。
K: Nさんは過去のご自身の体験を通じて、そして阿部さんは日々のご活動を通じて、「周囲の方に知っておいてもらいたい」ということはありますでしょうか?
N:先ほどの「そんな人とは別れればよい」という話に関連した話なのですが、私がDV被害を受けていた当時、住んでいた地域の相談窓口に行ったらシェルターなども紹介してもらえたものの、「離婚することを決心してもらえたら」と離婚前提で紹介してくれた感じだったんです。
A:「事情があって、なかなか別れられない」という方だってたくさんいらっしゃいますし、簡単に離婚ができない状況であればあるほど、それを言われると困ってしまう。なので、「こうしなきゃダメだよ」と言うのではなくて、ただ黙って一生懸命気持ちを聞くことが、何よりも当事者のためになる部分もあります。ただ、それと並行して、家族や友人、同僚など、周りで気づいた人はぜひ相談機関につながってほしいです。相談機関に相談してくだされば必要な知識も得られますし、何より、当事者を助けようとした周りの人が疲弊していくこともよくありますので、当事者本人だけでなく周りの人も専門機関からサポートしてもらうという視点でも、専門機関とのつながりは重要です。
N:あとは、「えっ、まさかあの人が」みたいな感じの人が加害・被害の当事者になり得るということも知っておいていただけると嬉しいです。たとえば「人当たりがいい人」とか「明るくてとか気遣いができる人」と思われていても、その人が家庭というプライベートな空間でどのような状況にあるのかは、周囲からは簡単にはわからない。なので今、皆さんが一緒に働いている方が実はDV・デートDVの当事者や当事者予備軍かもしれない。まさに今、誰にも言えずに悩んでいらっしゃるかもしれない。身体的にも精神的にも安心している状況でないと仕事にも響きますし、周囲の方がそうした当事者になっていた場合、まったくもって「他人事」ではない事象です。
A:周囲のそうした事象について、「もしかしたら」という知識があるだけでも違いますよね。私が考える暴力とは対等でない関係で生じ、強い力を持った人がその力を乱用している状態ですが、上司と部下、先生と生徒、親と子、先輩と後輩など、世の中には対等でないと思われる関係ってたくさんあります。実は意外と難しいのが親子かもしれませんね。でも、親と子であっても対等な関係を築き、お互いを尊重し合えるような言葉を日頃から伝えていくことが、DVやデートDVを予防していくためにも大事だと思っています。
K:力の勾配という観点で、親子も例外ではないというのは非常に重要な視点ですよね。数の差だったりとか、立場の差だったりとか、権力の差だったりとか、そうしたパワーバランスに起因する課題は社会に多々あるからこそ、日々を通じて一人ひとりが、自身や周囲のパワーバランスによる課題に気づき、注視しながら互いに配慮しあうことが、DVやデートDVの予防という観点でも、非常に重要なのだと改めて学ばせていただきました。本日は、ありがとうございました。
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*DVやデートDVに悩んでいる方へ
【DV相談窓口】
■内閣府 DV相談プラス:配偶者やパートナーから受けている様々な暴力(DV)について、専門の相談員へ相談することができます。電話(電話番号 0120-279-889)・メールの相談は24時間受付。チャットの相談なども可能です。詳しくはこちら
■DV相談ナビ:配偶者からの暴力に悩んでいることを、どこに相談すればよいかわからないという方のための連絡先です。電話で #8008 (はれれば)にかけると、最寄りの自治体の相談窓口につながります。
【デートDV相談窓口】
■デートDV110番:デートDVのことなら、どんなことでも相談できる相談窓口です。チャットによる相談や、電話(電話番号 050-3204-0404)による相談ができます。詳しくはこちら
「Diversity, Equity, & Inclusion(DEI)」を自社と顧客の成長を牽引し、社会変革へつなげていくための重要経営戦略の一つとして位置付けているデロイト トーマツ グループにおいて、様々な「違い」を強みとするための施策を、経営層と一体となり幅広く立案・実行しているプロフェッショナルチーム。インクルーシブな職場環境の醸成はもちろん、社会全体のインクルージョン推進強化に向けて様々な取り組みや発信を実行。 関連するリンク デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity & Inclusion