Posted: 24 Jan. 2025 8 min. read

AIエージェントが、企業変革を加速させる

「Ecosystems & Alliances Summit 2024」ダイジェスト vol.3

「ChatGPT」が一般公開されてから2年余り、AIエージェントの登場によって、生成AIのビジネス活用は今、新たな幕を開けたといわれる。AIエージェントは今後、企業変革をどのように加速させるのか。デロイト トーマツ グループが主催した「Ecosystems & Alliances Summit 2024」のDisruptive Techセッションでは、デロイト トーマツ コンサルティング Chief Growth Officerの首藤佑樹が、世界のトップテクノロジー企業であるアライアンスパートナーと共に、ビジネス変革の近未来を論じた。

自律的にタスクを実行するマルチエージェントのインパクト

「AIエージェントが企業変革を加速する」と題したセッションのモデレーターとして壇上に立ったデロイト トーマツの首藤佑樹は、「AIの次の波として、AIエージェントへの注目度が高まっています」と切り出した。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Chief Growth Officerの首藤佑樹

AIエージェントとは、目標を達成するために自律的にタスクを実行するソフトウェアプログラムを指す。大規模言語モデル(LLM)に、ウェブ検索やドキュメント検索、プログラミング、外部サービス連携といったツールを事前に登録しておくことで、人が自然言語で設定した目標(指示)に対して、それを解釈したり実行可能かを判断したりするための情報を収集し、自律的にツールを選択してタスクを実行する。

業務で活用できるレベルのAIエージェントを開発するにはいくつかのポイントがある。その筆頭に挙げられるのが、複数のエージェント同士の組み合わせでタスクを実行する「マルチエージェント」だ。

「一つのエージェントに多くの機能を埋め込むのではなく、タスクを複数のエージェントに分担させて役割を限定することで、安定性や精度が向上します」(首藤)

 

エージェント同士が連携しながら、どのようにタスクを処理するのか。首藤は、デロイト トーマツが実際に開発したマルチエージェントのデモンストレーション映像を流しながら解説した。

紹介したのは、分析レポートを作成し、プレゼンテーション資料として出力するマルチエージェントである。ユーザーが「金融業界において生成AIをどう活用していくべきか」というテーマを与えると、「タスク計画」「計画レビュー」「ウェブ検索」「社内資料検索」「分析」「分析レビュー」「レポート作成」「レポートレビュー」「レポート出力」といったそれぞれの役割を与えられたエージェントが連携しながら、10分足らずでプレゼン資料を生成する。その映像は、AIエージェントがもたらすインパクトを十分に実感させるものだった。

このマルチエージェントアプリでは、どの業務プロセスにおいて、どのエージェント同士が連携するかが事前に定義されており、フィードバックループを活用してエージェント自身が回答を自己修復して精度向上を図るなどの工夫が施されている。計画、分析、レポート作成などの各ステップには人がチェックするプロセスが組み込まれ、承認しない限り次のステップには進まない。

こうしたマルチエージェントは、さまざまな業務への適用が可能だ。

首藤は、「AIエージェントによって業務改革や企業変革の進め方が変わります」と指摘。「AIネイティブな業務プロセスの設計とデータ基盤の整備に加えて、人の時間の使い方、価値の出し方を変えていくことが重要です。それによって、経営に大きなインパクトをもたらします」と強調した。

 

セールスフォース、ServiceNow、SAPがAIエージェントを続々投入

ここで、株式会社セールスフォース・ジャパンの小川哲氏(インダストリーアドバイザー本部 CX&ロイヤルティ・小売 ディレクター)、ServiceNow Japan合同会社の佐宗龍氏(APJ Innovation Officer)、SAPジャパン株式会社の本名進氏(APJカスタマーアドバイザリ統括本部 SAP Business AI Japan Lead)の3名が加わり、パネルディスカッションがスタートした。

 

3社はいずれも、AIエージェントを自社製品に組み込むことで、ユーザー企業のビジネス変革を加速させようとしている。

セールスフォースが2024年秋に発表したAIエージェント関連機能は、米大手百貨店のサックス・フィフス・アベニューやレストラン予約サービスの米オープンテーブルなどで、すでに活用されている。その特徴は主に二つ挙げられる。一つは、商品マスター、店舗マスターといった構造化データに加え、マニュアルや社内文書などの非構造化データもRAG(拡張検索生成)で活用できる点であり、もう一つは、ノーコード/ローコードでユーザーがAIエージェントを開発できる点だ。一つひとつのエージェントの役割や、何をしてはいけないかということを自然言語で簡単に設定できる。

ServiceNowの場合、プラットフォーム上のデジタルワークフローにマルチエージェントを組み合わせることで、新たなワークフローを素早く構築したり、ガードレールを設定したりすることを可能にする。ユーザーが自社データを効率的かつ安心して利用できるよう、プラットフォームに蓄積されたデータを学習させた独自のLLMも用意している。また、AIが外部データにアクセスできるソリューションや、ユーザー中心のデータ構造を表現するグラフデータベースなども提供、ユーザーがよりパーソナライズされたAIエージェントを利用できる環境整備を進めている。

SAPは統合基幹業務システム(ERP)だけでなく、サプライチェーン管理や人事管理、顧客管理など周辺ソリューションのラインアップを充実させてきた。これらのソリューションに標準機能として備わるAIエージェントを次々に開発しているほか、同社のPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)でカスタムエージェントを開発できる環境を構築しており、マルチエージェントによってERPと周辺ソリューションを横断するビジネスプロセスとデータをつなげるだけでなく、他社のソリューションとも連携してユーザーを支援する戦略を進めている。

AIが進化するほど、人は自分と真剣に向き合うことになる

新たなテクノロジーであるほど、先行してそれを導入した企業が、前例のないユースケースの創出により早くたどり着く。AIエージェントについても、同じことが言える。では、企業がAIエージェント導入を進めていく上での課題は何か。そして、その課題にどう向き合うべきなのか。モデレーターの首藤からそう投げかけられた3名のパネリストは、次のように答えた。

「DXと同じで、AIエージェントによって大きな成果を生み出すには、AIを活用して変革に取り組むためのマインドセットが必要です。AIは日進月歩であり、人間が過去100年で積み上げてきた経験や業務プロセスをひっくり返すほどのディスラプティブなテクノロジーです。ですから、過去の常識にとらわれず、新しいことにチャレンジするマインドセットが求められます。もう一つは、前後の業務プロセスを含めて、ワークフローを整流化しておくこと。それができていないと、AIエージェントが持つ力を100%享受することは難しいと思います」(佐宗氏)

ServiceNow Japan合同会社 Innovation Officerの佐宗龍氏

「課題は、やはりデータです。活用できるデータによって、AIの回答や判断の精度、タスク処理の品質が左右されます。例えば、BtoB企業が顧客への提案書を作成する場合、過去の取引履歴だけでなく、取引先幹部へのヒアリング記録や過去の提案書なども活用できる形にしておけば、AIがより価値のある提案を生成することができます。BtoC企業であれば、一人ひとりのお客様のデータをどうやって集めるかという仕組みづくりから始める必要があります。そうした仕組みづくりや、記録を残し、データとして蓄積する習慣付けなども、私たちは支援しています」(小川氏)

株式会社セールスフォース・ジャパン インダストリーアドバイザー本部 CX&ロイヤルティ・小売 ディレクターの小川哲氏

「AIエージェントは自律的にタスクを実行するだけに、ビジネスプロセスのどこに人の判断を入れるかというHuman-in-the-Loopがこれまで以上に重要になります。人が介在することで安心と安全を担保するループをデザインすることが、大きな課題の一つだと思います。一方、テクノロジーベンダーである私たちとしては、AIがなぜそう判断したのかをユーザーにきちんと説明できるようにしておかなくてはなりません。今後、AIによる業務自動化の範囲が広がっても、AIの判断にブラックボックスを残さない。私たちがその責任を果たすことで、AIエージェントの活用がより進むと考えています」(本名氏)

SAPジャパン株式会社 APJカスタマーアドバイザリ統括本部 SAP Business AI Japan Leadの本名進氏

AIエージェントによって、生成AIのビジネス活用が本格化していく――。パネリストたちのその一致した思いが、ディスカッションを通じて感じられた。人とAIの協調が深まる未来を、パネリストたちはどのように展望しているのか。

「7〜8年前にSAPは、AIがもたらす未来を映像で描き出したことがあります。ビジネスでのさまざまなユースケースを映像にしたものだったのですが、その未来がAIエージェントによって、いよいよ現実のものになろうとしています。これからの進化が楽しみです」(本名氏)

「ServiceNowの一貫したコンセプトは“つなぐ”ということであり、それはAIエージェントが得意とするところです。本日ご一緒したセールスフォースやSAPをはじめとするテクノロジー企業、そしてデロイト トーマツなどのパートナーと共に、AIによってつながる世界を広げていきたいと思います」(佐宗氏)

「AIエージェントの登場で、AIはツールからワーカー(働き手)に変わったと、私は思います。労働力不足が深刻化する日本では、有能かつ柔軟なワーカーであるAIエージェントをうまく活用していくことによって、成長機会を拡大できるのではないでしょうか」(小川氏)

AIが進化するほど、人がそれをどう使い、どのように価値を生み出していくかを真剣に考えなくてはならない。その困難な問いに、「私たちデロイト トーマツは、クライアントやアライアンスパートナーと共に向き合いながら、AIエージェントによる企業変革をリードし続けたい」。首藤はそうコメントし、セッションを締めくくった。

Ecosystems and Alliances/デロイト トーマツのアライアンス