Posted: 02 Aug. 2024 5 min. read

SBTs for Natureガイダンス アップデートのポイント

SBTs for Natureのメソドロジーの変更点を解説

2024年7月10日に、科学に基づく自然に関する目標設定(Science Based Targets for Nature、以降、SBTs for Natureとする)のガイダンスのアップデートが公表されました。SBTs for Natureは気候変動SBTの自然版であり、土地・海洋・淡水・生物多様性の4分野における自然への影響を評価し、目標設定に至るまでの方法論を提起しています。今回のアップデートでは、2023年から2024年にかけて実施されたパイロットプログラムの結果を踏まえ、ガイダンスの一部内容と各種ツールの仕様等が更新されています。本稿では、今回のアップデートの中でも主要なポイントについて概説します。

SBTs for Natureとは?

SBTs for Natureとは、Science Based Targets Networkにより現在開発されている自然分野における目標設定に関するフレームワークです。バリューチェーン上の土地・海洋・淡水・生物多様性に対して企業活動が与えうる影響を測定し、持続可能な目標を設定し具体的な行動に結びつけることを目的としています。

2023年5月にv1.0が公表され、5つのステップの内、Step1 Assess(分析・評価)、Step2 Interpret & Prioritize(理解・優先順位付け)、およびStep3 Measure, Set & Disclose(計測・設定・開示)の中からLand(土地)・Fresh Water(淡水)についてガイダンスが示されました。(v1.0についてはこちらの記事で解説しています)

そして、昨年から始まったパイロットプログラムの成果を基に、2023年5月に公表されたv1.0からガイダンスの内容やツールの仕様が一部更新されました。本稿では、主要な更新ポイントについて概説します。

※ここでご紹介するのは、ガイダンスの章立てや方法論の内容に関する主要な変更点のみであり、その他の細かな修正については含まれておりません。

 

Step1(分析・評価)の更新ポイント
  • 自然への影響の大きい重要セクターを特定するためのツール(マテリアリティスクリーニングツール)がオンラインツールとしてリリースされた
  • ガイダンスの構成が実務的な実施事項の流れになるよう変更され、目標の設定を検討する企業から見ると対応項目やフローが分かりやすくなるよう更新された
  • 自然に負荷を与えるコモディティのリスト(ハイインパクトコモディティリスト)に品目が追加されたとともに、Step3土地目標との関連性にも言及された

※青字箇所が新たに追加された品目
参考:High Impact Commodity List (Version 1.1). Science-Based Targets Network (SBTN). 2024.

 

Step2(理解・優先順位付け)の更新ポイント
  • Step1と同様にガイダンスの構成が実務的な実施事項の流れになるよう変更され、対応事項やフローが分かりやすくなるよう更新された

※ガイドライン本文に関する大幅な変更はなし

 

Step3(計測、測定&開示) -淡水- の変更ポイント
  • 関連ステークホルダーとの協議による適切な流域モデルの選択に関する補足資料が公開された

※ガイドライン本文に関する大幅な変更はなし

 

Step3(計測、測定&開示) -土地- の変更ポイント
  • 3種類の土地目標①自然生態系の転換の禁止、②土地のフットプリントの削減、③ランドスケープエンゲージメント)に関して、事業セクターごとの設定要否のフローが修正された
  • 【①自然生態系の転換の禁止目標】
    新たに転換ホットスポット(2000年以降に自然地の大規模な転換がなされた生態系を含むエリア)を定義し、他の自然地よりも優先して目標期日を前倒しに設定すべき地域として位置付けられた
  • 【③ランドスケープエンゲージメント】
    ランドスケープエンゲージメントを進めるにあたってのロードマップが新たに整理された

出所:Technical-Guidance-2024-Step3-Land-v1.pdf (sciencebasedtargetsnetwork.org)

 

その他、公表された文書
  • ステップ1~3までの実施方法に関するマニュアル
  • 各ステップにおける架空企業を取り上げた例示的なケーススタディ
  • パイロットプログラムに関するレポート

※パイロットプログラム:ガイダンスの実行可能性や企業に必要なリソース・スキル等について検証するため、2023年3月から開始されたプログラム。同プログラムに参加した世界17の先進企業は、ステップ1,2の実施に加え、淡水と土地に関する目標を設定した。

 

TNFDとの関連と今後の展開

現在、2023年9月に最終提言が公表されたTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応として、多くの企業がTNFDフレームワークに沿った情報開示に取り組んでいます。TNFDは自然関連の依存・影響・リスク・機会を分析する手法としてLEAPアプローチを提唱しており、そのPフェーズ(Prepare:対応・報告への準備)においては企業が自然関連の目標を設定するにあたってSBTs for Natureの方法論をベースとすることを推奨しています。

今回のアップデートでステップ1(分析・評価)、ステップ2(解釈・優先順位付け)、ステップ3(計測、目標設定・開示 ※淡水および土地)の内容が更新されました。今後、自然関連リスク等の情報開示や目標設定および取組の推進を図ろうとする企業は、両フレームワークを適切に参照する必要があります。

 

デロイト トーマツ グループは、自然資本・生物多様性をはじめとするサステナビリティに関する深い専門知識と実績、そして様々な組織と協力してきた経験に基づき、SBTs for NatureやTNFDへの対応(自然への影響の定量的評価及び目標設定、自然関連のリスクと機会の評価、リスク低減のための管理、ビジネス戦略策定を通じた機会の最大化等)を支援しています。自然・生物多様性への対応を通じた企業の長期的価値の構築に向けたサポートに関心がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

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執筆者

■関崎 悠一郎(デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 ストラテジックリスク&サステナビリティ マネジャー)
企業のサステナビリティに関わる環境分野の分析・評価や戦略策定から自然再生プロジェクトの実行まで、特にビジネスと生物多様性の分野で10年以上のコンサルティング経験および生態学研究の経験を有する。「TCFD関連・シナリオ分析サービス」や「生物多様性に関する包括的戦略策定サービス」、TNFD対応など主に気候変動・生物多様性領域を担当。

■沢登 良馬(デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 ストラテジックリスク&サステナビリティ)
環境省で国立公園の保全管理や生物多様性ビジネスに関する施策立案等の行政経験を経て現職。主に生物多様性領域を担当し、自然関連のリスク・機会分析やTNFD情報開示等のプロジェクトに参画。

■高木 諒(デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 ストラテジックリスク&サステナビリティ)
金融機関での法人営業を経て現職。気候変動や生物多様性、人権等のサステナビリティアジェンダ関連のプロジェクトに従事。

 

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

プロフェッショナル

船越 義武/Yoshitake Funakoshi

船越 義武/Yoshitake Funakoshi

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー パートナー

サステナビリティ関連アドバイザリー業務に20年以上にわたり従事し、サステナブル経営高度化に資する多数のプロジェクト責任者を務める。担当する専門領域は、非財務情報開示レギュレーション対応(SEC、CSRD、ISSB)、マテリアリティ特定、中長期目標・KPI策定、GHG排出量マネジメント、TCFD、TNFD、人権デューデリジェンスなど多岐にわたる。金融から商社、運輸、製造業など幅広い業種のクライアントに対して、経営戦略と統合したサステナビリティ関連のアドバイザリー業務を多数提供している。 >> お問い合わせはこちら