⾼度化する経理業務を⽀援する会計システム「Universal Business Cloud 会計」が⽣まれた理由

日本の人口減少は世界でも話題となっている大きな課題だ。経済社会における人材不足も叫ばれており、中でも専門性の高い経理などのコーポレート部門は深刻な状況だ。デロイト トーマツはその課題に向き合うために2023年、「Corporate as a Service」と呼ばれるコーポレート部門の業務改善からアウトソースまで一括で請け負うサービスを開始。このチームが新たに、独自開発の会計支援クラウドシステムを含む、経理クラウドサービスをリリースした。その背景と狙いを開発陣に聞いた。

数年前に米国の著名な起業家が「日本はいずれ存在しなくなるだろう(Japan will eventually cease to exist. )」とX(旧 Twitter)でPostしたように日本の人口減少率は世界でも話題になるほどの高さだ。これにより日本の労働市場にも大きな影響が及んでいる。人口減少は労働力の縮小を意味し、国内の経済成長に必要な人材が不足し、生産性の低下につながる。

「これまでも日本では専門性の高い人材が慢性的に不足していましたが、この不足感が加速しています」

そう話すのは、デロイト トーマツの松本淳だ。事実、デロイト トーマツの調査でも国内で優先的に対処すべきリスク1位は「人材不足」だった。

(関連ページ:デロイト トーマツ調査、国内で優先的に対処すべきリスクは1位「人材不足」、2位「原材料・原油価格の高騰」、3位「サイバー攻撃などによる情報漏えい」

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 パートナー / 松本 淳

松本らはコーポレート部門における専門人材不足の解消ひいては業務の高度化を支援するために、2023年より企業のコーポレート機能の課題発見から解決、変革、運用までを一手に担うサービス「Corporate as a Service」(CaaS)を提供している。これは業務プロセス全般を見直し、そして効率化を推進するという趣旨のもと、アウトソース可能な業務を洗い出し、デロイト トーマツが請け負うサービスとして始まった。今年、彼らはさらにサービスを進化させた。高度化・複雑化する会計業務を支援する「経理クラウドサービス」をローンチしたのだ。

(関連ページ:自前主義から脱却し、運用まで実施して日本の生産性を上げる仕組み「Corporate as a Service」とは何か

コーポレート部門の重要性が高まる中、
企業経営には「Corporate as a Service」のような新しい取り組みが必要

「コーポレート部門の業務は分野ごとに高度な専門性を必要とするため、人材派遣など単純な労働力による補完には限界があります。専門人材は母集団が限られており、人材獲得競争が激化しているのが現状です」

脱炭素化に伴う事業構造の変化などで、コーポレート部門の役割が多様化し、なおかつ重要性が高まるのは確実だ。これにより、中途採用や育成のみならず、これまでの延長線上にない取り組みが求められている。その打ち手の一つがCaaSというわけだ。

「コーポレート部門の中でも経理部門はとりわけ育成に時間がかかるといわれています。しかし、人材の獲得競争は激化し、育成しても他社に引き抜かれることも。実際に私が見たケースでいうと、例えば現時点で経理部長が60代でいるがこの後が続かない、という企業もあるのです」

コーポレート部門は各社独自色が強く、それを理由に「自前主義」へと陥りがちだ。しかし、実際には「そう思い込んでいるだけ」のこともある。業務フローを外からの視点と知見で見ることで、大きく改善できる余地はある。

松本は、CaaSのサービスをスタートして1年を振り返り、次のように話す。

「上場企業であっても、短期的な人員不足には相当の課題感があり、子会社の決算運用や属人的・手作業プロセスを標準化・効率化し、オペレートとセットで請け負うことは増えてきています。また、経理部を持続可能にするために、デロイト トーマツに一括して運用の委託を検討している上場企業もあります」

デロイト トーマツは前橋にオペレートセンターを有しており、この専門部隊の存在がCaaSの価値を高めているようだ。クライアントからは戦略だけではなく、実際に運用まで責任をもって請け負う体制が評価されているという。この前橋のオペレーターが提供するサービスの一つが経理クラウドサービス、そして同サービス内で使用するのが専用アプリケーションの「Universal Business Cloud会計」(UBC会計)だ。

経理業務を変革する
「プロのための会計システム」

UBC会計は財務会計、管理会計、特殊会計をカバーする本格的な会計支援クラウドシステムだ。セキュアで安全な環境のもと、関係者間でのリアルタイムでのデータ連携やシンプルなユーザーインターフェースを通じて、スムーズな会計業務処理を実現する。開発をリードしたデロイト トーマツの服部邦洋が、プロフェッショナルファームとしては異例の取り組みの背景を語る。

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 パートナー / 服部 邦洋

「デロイト トーマツが提供するプロフェッショナルサービスに対応できるちょうどいい会計ソフトが、見当たらなかった。それが開発のきっかけでした」

クライアントの経理部門にオペレート部門を提供するにあたりDXは欠かせない。経理専門家やプロフェッショナルが日常業務を実行するかたわらで、CaaSのチームは業務を標準化、整流化もしていくわけだが、最後に改善されたプロセスを心地よく実行するデジタルアセットが不可欠となる。

「UBC会計が生まれる前は、本格的な業務アセットを開発し運用するだけのリソースがなく、処理結果に誤りがないか素早くチェックするツールなどを開発し、一定効果を上げてきました。しかし、私たちが目指す、経理業務の抜本的なDX化には到底到達しえない状況でした」

そんな時に出会ったのがのちにデロイト トーマツ プロダクト&テクノロジーになるIT企業とその代表取締役である藤原修だった。(関連ページ:自前主義から脱却し、運用まで実施して日本の生産性を上げる仕組み「Corporate as a Service」とは何か)藤原は有名業務ソフトウェアベンダーのプロダクト開発責任者の経験があり、その開発部隊を率いて会社を経営していた。

「私たちデロイト トーマツとして、藤原に『CaaSにより日本のコーポレートを変えたい、そのためにはDXを推進する開発力が必要だ』という想いをぶつけました。結果、賛同するだけでなく、私たち以上に熱い情熱をもって、2023年3月に株式買収によりデロイト トーマツ グループに参画いただくことになりました。そしてコーポレートのDX推進の柱に掲げたのが今回のUBC会計の開発でした」

とはいえ、すでにグローバル企業向けの海外大型ERP、大企業・中堅企業向けの国産ERP、中小企業向けの会計パッケージソフトに、小規模向けの会計SaaSと、会計に関するソフトウェアは市場にあふれている。なぜ開発に踏み切ったのだろうか。

「当初は私たちもそのなかからソフトを選定し活用するつもりでした。しかし、多くのクライアントの大量の経理業務を前橋のオペレートセンターの経理プロフェッショナルが、迅速に、間違いなく、そして、心地よく処理するために満足いくソフトを選ぶことができなかったのです。そこで気づいたのは、市場にはプロフェッショナルが自らのために、自らデザインした会計ソフトはないのではないか、ということでした」

デロイト トーマツには監査を担う公認会計士や業務改善のコンサルタントがいる。そして、経理のオペレート業務を提供するプロフェッショナルもいる。これらプロフェッショナルが本当に自分で使ってみたい会計ソフトを開発したら、企業の経理業務の効率化、ひいてはDXをも実現できるのではないか?服部たちはそう考えた。

「そこからはあっという間でした。藤原がSaaSプラットフォームを提案し、専門家が意見を加え、実際にプロフェッショナルがオペレート業務に活用し、改善を提言するループができあがったのです。プロのための会計ソフトというコンセプトが実現しました。IFRSに対応する複数帳簿や複数通貨、複数言語対応といった機能が盛り込まれたのはその象徴です」

企業が成長の階段を上る時、
経理業務の高度化は避けられない

「私たちはこのUBC会計も活用しつつ、経理クラウドサービスとしてクライアントの経理業務を改善しています。しかし、これだけでは十分とは言えません。経理業務の改善を欲している企業は多数ありますが、デロイト トーマツのアドバイザリーを活用するにはそれなりの企業規模が必要です。私たちも人材リソースが無尽蔵にあるわけではないので、すべての課題を抱える企業のニーズを満たすことはできません。そこで、UBC会計をクライアントに直接活用いただくことも可能にしました」

Universal Business Cloud 会計のホーム画面

これまでは前橋のオペレートセンターのプロフェッショナルが活用し、オペレート業務を提供するためにUBC会計は存在していた。それがSaaSであることを生かし、クライアントに直接利用してもらったり、多岐に渡る経理クラウドサービスのソリューション群のなかからUBC会計のみを提供したりすることも可能としたのだ。

企業が成長の階段を上る時、経理業務の高度化は避けられない。ベンチャーが上場を目指す、海外進出するといった段階でこのプロ向けソフトが威力を発揮する。

「UBC会計はクラウドサービスですが、いわゆるSaaSのようにユーザーがソフトにあわせるようなコンセプトは持っていません。ソフトがユーザーにあわせるようにしています。つまり標準化しつつ、柔軟性・拡張性を持たせているので、将来的な拡張にも十分対応できます」

コーポレート部門の人材不足に
真っ向から向き合っていく

「上場企業であったとしても、経理部門を維持していくことが危ぶまれているほどの専門人材不足が起きています。自前主義をときほぐして、まずはこのUBC会計を使ってもらうところからでもいいので、ともに課題に向き合っていきたい」

そう松本が話すように、今はまだ大丈夫という状態の企業でも数年後、さらに人材不足が加速することは想像に難くない。先手を打つに越したことはない。前橋のオペレートセンターは現在、30名を超える体制となり、さらなる拡充も予定しているという。服部が松本の後を続ける。

「前橋のオペレートセンターのメンバーは、現場の会計業務に長けたプロフェッショナルでもあります。経験豊富でモチベーションのあるプロフェッショナルが、クライアントの業務改革に現場の知見をもって伴走支援していく。経理クラウドサービスやUBC会計に触れてもらい、さらに業務改革をしていくとなれば、松本のようなコンサルタントや前橋のプロフェッショナルたちがすぐに支援できます」

前橋オペレートセンターのメンバー

これまでCaaSを含めてプロフェッショナルファームはコンサルティングから実運用という「川上から川下」の流れが一般的だった。しかし、CaaSはUBC会計というSaaSの利用から開始でき、必要に応じて運用やコンサルティングの段階に向かうことも可能。つまり、企業の成長度合いに合わせて「川下から川上」へスムーズにあがることもできる。

「UBC会計を手軽に利用できるようにしたことで、これまでデロイト トーマツへの相談は少しハードルが高い、またはデロイト トーマツに興味を持たれていなかった企業・経営層の方々に、私たちのプロフェッショナルサービスを知っていただけたら。それにより、日本の経済社会全体が抱える人材不足問題を、業務効率化と専門的アウトソースという一気通貫のサービスで変革していきたい」

松本と服部はこのように話し、特に専門人材不足が叫ばれる経理部門の状況を変えるべく、これからも邁進していくと意気込みを語った。

※本ページの情報は掲載時点のものです。

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